末っ子という生き物 −9
「やっぱりボク大学行きたいです。」
入学式の数日後、夫と三男が高校配布の各種資料を見ていた時だ。三男から耳を疑う発言が飛び出した。
「はい?」
分かり易すぎる。資料の『主な進学先』を見て影響を受けたのだろう。一応『国公立大』として新潟大学と長岡技術科学大学が載っている。一人でも合格者が出れば書けるもんね。それにしても本当に行き当たりばったりのお馬鹿さんだな。あれだけ良く考えて決めろと言われて工業を選んだのに、今更進学したいって言い出せる神経が凄い。言いたいことは色々あるけど今更言っても意味無いし、と思ったら夫が言った。
「じゃあ何で工業にしたんだよ。」
三男は何かゴニョゴニョ言ってるし夫も納得いかんという顔をしているが、夫よ。コイツが工業を選んだのは『頑張らなくても行けそうだから』85パーセントくらいだと思うぞ。だから選択の理由とか追求しても時間の無駄じゃないかな。流石に口に出来ないから正直には話せないもんね。
暫し静観した後、「はぁーっ」と大きく溜息をついてから口を出した。
「工業から進学するのは当初の予定(普通科)よりもかなり厳しいと思うよ。授業内容違うし、『授業でやらない』なんてことも多分ある。というか、推薦狙うしかないだろうな。定期考査で一年からずっと上位3位くらいまでに入って委員会とか部活動も頑張れ。生徒会の役員もやれ。」
「え、それはちょっと厳しいんじゃ。」
「じゃあ一般入試で?工業行って、授業で足りない分は自分で勉強しなきゃだけど。元々進学に有利な高校入るには足りてないのに。部活もしてる暇無いよ。そんなに勉強できる?したこと無いけど。」
三男はやっぱりいつも通りの末っ子ちゃんで、相変わらず『思いついた順にアウトプット』だ。
「推薦目指して頑張ります。」
後日春休みで帰省してきた次男にこの話をした所、難しい顔をして言う。
「いや、ずっと上位キープって。それは難しいと思う。推薦って結構大変だよ。」
「一般入試の方がマシだとでも?定期考査なんて試験範囲が決まってて『ここ大事ー』とか授業で教えてくれたりすんのに。一定期間指定の範囲の勉強をするのと3年間通してマルッと全部勉強するの、どっちが大変かな?」
「いや、まあ。確かに。サンサン頑張れ。」
この後三男が(全然やらないので無駄遣いにうんざりした私が)契約解除していたZ会を「もう一度やらせて欲しい」と頼んできた。絶対やらない自信があったので断ったが。
「部活もやるんでしょう?通学自体にも結構時間かかるし、学校の勉強もあったらやる時間無いよ。苦手な教科とか、ピンポイントで必要なとこを参考書とか問題集とか買ってやったら?それで暫く様子見て本当にやれそうならその時聞くよ。」
なるほどー。と、納得した三男は早速パパと連れ立って書店に行き数冊購入。積読だ。しかもその後に長男にもアドバイスを求めて一緒に書店に行って数冊購入。これも積読。先にパパに買ってもらった分は既に何処ぞに片付けられている。どこ?
三男は春休みをのんびりと過ごした。そしてやはり、『Z会』という言葉も聞かない。
意外と言っては何だが、長男も次男も弟が工業高校に行くという事で馬鹿にしたり揶揄ったりという事は無く、普通に「おめでとう」だったし、言われた末っ子も何ら卑下する事無く嬉しそうに「ありがとう」と返していた。そのやりとりは微笑ましいし誇らしいが、三男の全然頑張っていない姿しか見ていないのでなんかこう、モヤっとしないでもない。
春休みを終えて帰省していた上の二人が東京と仙台に戻った。「お兄ちゃんがいなくて寂しいよー。」という三男を見ていると、コイツ大丈夫かと不安になる。彼は私にベタベタだが、兄達(特に長男)にもベッタベタだ。三男が私に張り付いているのを見ると大抵「サンサン、キモい」とか「ウザい」とか言う長男次男だが、彼らは自分が貼っ付かれている時は強く拒否していないような気がする。特によく居間の床に寝転んでいる長男は勝手に添い寝されたり乗り掛かられたりしているが、放置というか、そのまま乗せていたりする。可愛がっているのか面倒臭くて放置なのか、よく分からない。
まあ、長男も次男も割と真っ当な大人になりつつあるようだし。三男はまだちょっとよく分からんけども面白いし、これから高校生だ。勉強なんて好きじゃないんだから、進学はサクッと諦めて高校生活を楽しめば良い。




