末っ子という生き物 −10
無事(?)工業高校に入学した三男はバドミントン部に入部し、部活帰りに一緒にうどん屋に寄る友達もできた頃のこと。ある日帰宅した彼が、通学用のリュックからいそいそと一枚の紙を取り出して差し出した。
「これ、入学してすぐの学力テストの結果ね。」
それは校内の教員が作るテストではなく模試とかでお馴染みの、業者のアレね。そして、受け取ってビックリ。三男の成績では見たこと無い数字が並んでいて、目を疑う。大体90点台。名前を確認してしまうレベルだ。
「学年順位3番だよ。」
「え?」
いや、確かに順位は「3」と書いてあるが。三男の生息エリアは40〜70点台なはず。おかしい、と考えて
「うわ、なるほど。凄いなー。業者のテストも其々の学校のレベルに合わせて作ってあるのか!」
そりゃそうだよね。一つの基準じゃカバーしきれない。お兄ちゃん達と同じテストだったら誰も点取れないかもしれないもんね。そんなテスト意味無いし。進学のための模試だったら外との比較が必要だろうけど、学力テストだもんね。へー。と感心していると、三男が吠えた。
「ママ、感心するのはそこじゃない!ボクを褒めて。」
「おっと、失礼。そうだ、凄いね。やるな、サンサン。頑張った。」
しかし、今まで大体40点台の英語まで90点台とは。『このテストに向けて頑張った』という事実は無いにも関わらずだ。一体どんな問題が出たのだろう。『基準が下がっただけ』の結果で褒めて良いのかどうか悩む所だが、これが成功体験として心に残れば良いなと思う。
「ねえ。サンサンさー、テストでこんなに『書けた』『解けた』ってどんな感じ?」
「えぇ?うぉー!出来るー!って感じ。」
「成績が良いってどんな気持ち?」
「イイ!」
拳を振り上げて吠える三男は相変わらずノリが良いのが売りだ。
「これだったらさ、頑張ったら本当に推薦狙えるんじゃない?定期考査はこういう学力テストとかと違って出題範囲が決まってるし、平均点が著しく下がるような問題は出さないだろうから。」
「うんうん。」
3番効果でまだまだご機嫌の彼は軽い。浮かれぽんちのまま放置は危険だ。
「でもね、サンサンは今基準が低いとこに来たから相対的に上がってるだけなわけ。そこんとこ、おけ?」
「わかってる。」
「ほんとう〜?そういう人がやりがちなのが、『余裕〜と思って遊んでいるうちに気が付いたらすっかり落ちてた』っていうヤツだよね。自分が遊んでるうちに周りの人は頑張ってるから。ママはね、高校そのパターンよ。3年になって部活引退してからからめっちゃ焦って勉強したわ。」
「マジか。ボク、ママ似か。」
「いや、そこは一緒にされたくない。でも確かに努力が嫌なのは一緒かもね。」
「ボクは努力が嫌なんて言ってないじゃん。」
「した事無いのに?うーん。サンサンの人生だからさ、適当にダラダラ過ごしてそれなりの大人になったって良い訳よ。ちゃんと自力で食べられて、誰にも迷惑かけないならね。ママもパパもその頃死んでて関係ないし。」
「ママは死んじゃだめ。」
「いや、フツーに死ぬし。だからちゃんと一人で生きていけるように日々学んで備えていかないとね。遊んでても動画見てても良いけども、そこに時間を使った分『自分はコレを得たぜー』といちいち自覚してみるとか、日々の選択と将来その選択がどういう結果をもたらすのかを考えてみ。んー。サンサンはさ、附属中に落ちた時『コレも良い経験』って言ってたの覚えてる?」
「うん。覚えてる。」
「良かった。でも全然経験した意味無かったよね。『勉強しませんでした、落ちました。』が『勉強しませんでした、目標下げました。』になっただけ。成長したというより姑息になったって感じ。ずっとそんな感じでいくんですか?」
「いや、あの、頑張ります。」
いーんだけどさ。クチバッカ星人なんだよな。
しかし、帰宅した夫はこの学力テストの結果に甚く喜んだ。テストが簡単に出来ている事は承知だが、そこは問題では無いらしい。素敵だ。わざわざ長男と次男にまでメッセージを送って、既読が付かないと結局電話していた。
長男も次男もすごいすごいと褒め、次男に至っては『僕3位なんて取った事無い』ときた。なんか、みんな良い人っぽいな。
「じゃあまあ、この調子で定期テストも頑張れ。」
夫が言う。しかし何度も言うが三男はテストだからって頑張った事など無い。それはテストの日程を訪ねて『明日から』と言われて驚く程、テスト前も通常運転(勉強しない)。しかも中学校で貸与されていたiPadを返却してやれやれと思っていたが、今はスマホばっかり見ている。結局高校でもiPad来ちゃったし。そうだ、ここはひとつ。
「定期テストで学年10番以内に入らなかったらスマホ取り上げで。」
「ええ?!」
何故か三男よりも夫が大きく反応して驚く。まあね、スポンサーはパパだから。勝手にごめん。
「10番は、厳しくないっすか。」
遅れて三男が交渉に入るが、負ける気がせん。
「範囲指定が無い学力テストで3位でしょ。範囲指定有りの定期考査10位なら厳しくなくない?5位でも良いけど、伸び伸びしたいかな〜、で10番よ。大体推薦で大学入ろうと思ってるなら黙ってても3位辺りを狙うんだと思うけど、スマホ取り上げるのはもっとずっと後ですよ〜って事じゃん。サンサンは外圧が無いと頑張れないでしょ。」
そうして、定期考査はスマホの懸かった戦いになった。




