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三兄弟  作者: 一二三


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33/35

次男の入寮 −5

 窓に面した通路にズラッと個室のドアが並ぶ。多くのドアの前に靴があり、『土足オッケー』の意味が理解出来た。部屋のドアから先は外なんですね。納得の汚さというか、窓からの光で突然明るくなって良く見えるせいもあるんだけど。


 『屋内なのに汚いランキング第2位(私調べ)』だ。ちなみに第1位は学生の頃夜中に肝試しで行った「幽霊屋敷(廃墟)」。現役限定ならぶっちぎりの一番だ。


 まず窓。蜘蛛の巣も巣に引っ掛かった虫各種も怖いし、サッシに溜まったゴミが、入り込んだ枯れ葉と水でなんかもう『腐葉土作ってますが、何か?』って感じで「触るべからず」の圧が凄い。窓の開閉時にいちいちストレスを感じずにいられないと思うのだが、問題ないのかな?


 そして床。玄関入った時から、歩いていて気になっていた。ボコボコというか、ザラザラというか、大小様々な薄い板状の物が散在というよりはびっしりあって、所々重なり合って凸凹を形作っている。風で飛ぶほど軽くないけど足が当たれば動く。「何だコレ?」と思っていた正体が明るい場所で見て判明した。剥がれた床材だ。想像してみて欲しい。掌くらいのサイズから細かいものまで、剥がれ崩れた床材が枯れ葉や埃と砂に塗れて積み重なった下にはコンクリート地が出ている。『ここ、剥がれちゃってるね?』ではなくて満遍なく全面だ。普通に、ゴミが溜まったコンクリートの地面。外かよ、と思う。なるほど、土足が正解。


 「部屋は結構みんな好きに弄って自分で使い易いように工夫してます。まあ、ちょっと見てみますか。」

院生の彼はそう言うと、徐にすぐそばのドアをノックした。2〜3秒と思われる間に返事が無いと、「居ないかな?」と呟きながら、ガチャ。


 開けました!衝撃です。

固まる私たち家族に気付く様子も無く、「今留守ですけど、こんな感じです。」とか仰る。

鍵ないの?返事しなくても留守でも開けられちゃうの? かろうじて部屋を見る素振りと返事を返したものの、動揺して部屋の様子などは全く目に入らなかった。だが閉めた後のドアノブを見ると鍵穴がある!良かった、鍵自体は付いているらしい。

その後も2カ所で同じ事を繰り返した。治安が良いの?そう言う問題?そんな事を考えている間に次男が入居する部屋へ到着した。


 「こちらですね。前の人が残していった物とか、不要なものがあれば廊下に出して置いてもらって大丈夫です。今のところ一人部屋なので気楽に。何かあればその辺にいる寮生にお声がけ下さい。」

ドアを開けて「見たまんまですが」と苦笑しつつ簡単に室内を説明してくれた。

 「お時間割いて頂きありがとうございます。大変助かりました。これからどうぞよろしくお願いします。」

ご挨拶して案内してくれた院生を見送り、いざ室内へ。


 部屋に入ると、左右両側に吊り棚(押入れ半分の上段だけみたいな感じ)があり、その下の空間半分くらいから畳ベッド。広さは7.5畳で畳ベッドの間は縦に一畳ほどの通路、正面の壁には大きく窓がとってある。その下にデスクが2台並び、デスク脇の壁にも本などが並べられそうな吊り棚がある。2人部屋と思えば狭いが、学生寮ならこんなものだろう。十分だ。汚いが。


 このお部屋はしばらく空いていたそうで、それなりな感じに出来上がっている。

 入って直ぐの棚にはボロボロのハンガーやピンチが詰まった洗濯カゴと、全体的にベタベタしたガムテープやバラけたビニール紐等が入った段ボール箱のプレゼントがあるし。棚下の奥からビーサンの入ったビニール袋も出てきた。それ以外にも部屋のあちこちにハンガー。やっぱりね、置いてっちゃうよね。面倒だもんね。若い頃なら「信じられない!」と怒っていただろうが、夫の転勤で官舎を移動する度に何かしら先住者の残留物を見てきたので、平気だ。一見綺麗なのに魚焼きグリルが使ったまんまのくさくさガステーブルに比べれば、楽勝。

 床はもちろん廊下と同じで剥がれた床材がざっくざくで。床が嫌だったんだろうなー、並んだ畳ベッドの間には畳が敷いてある。ボロボロの。


 「ニーニー、やったね。扇風機あるじゃーん。」

窓際、デスク横で夫が歓声を上げた。ホントだー、とわらわら集まって全体的に黄色くなったレトロ、までは行かないけど懐かしい感じの扇風機に見入る。コンセントを挿して動作確認。「ゴォー」とか「ボォー」と大きな音を出して動くのを3人でしばらく黙って見ていたが、やがて夫が口を開いた。

 「音が怖いし、電気代高そうだから扇風機は新しいの買おう。」


 「こんにちはー。何かお手伝いする事はありませんか?要らないもの運び出したりとか。」

開け放しのドアから寮生の方が声を掛けてくれたので掃除機をお借りした。


 ドア開けて正面、窓のある壁を除いた3面の壁は、落書きでいっぱいだ。学生運動を思わせる政治的なものやポエム、アイドルへの愛など多岐に渡る内容が、特にベッド周りにみっちりと書き込まれている。片方のベッド側の壁は先住者が落書きを嫌ったのか上から紙が貼ってあるのだが、その紙も所々破れたり剥がれたり。剥がれた所から下の落書きが見えるのがまた、ちょっとホラーっぽい。反対側の壁では革命について熱く語られている。

 「ニーニー、どっちにする?」

 「うーん。こ、こっちにしようかな。」

次男が選んだのは『革命』の方。うん、賛成。どうせ見えるんだから、潔く行こう。


 さあ、お掃除だ。扇風機やらプレゼントやらの要らないものを廊下に運び出し、車から掃除道具を運び込んでお掃除スタート。夫と次男が窓から、私はドアからスタートだ。剥がれた床材や埃、ゴミを吐き出しついでに廊下も掃くと床がほぼほぼコンクリートに。なんでコレ今まで放置されてたんだろう。ゴミ袋が重い。

棚も壁も畳ベッド(これは使う方だけ)下の収納も、拭ける所は全部アルコールをスプレーして拭く。ベッドの間に敷かれた畳はボロボロだけど捨てるのも大変そうなのでラグマットでも敷こうという事になった。そうしている間にも入れ替わり立ち替わり「お手伝いする事ありませんか」と寮生が顔を覗かせる。やたら親切。

 「ニーニー、心強いね。来年は君もコレをやるわけだな。」

 「そ、そだね。」


 お掃除がひと段落したらお買い物。カーテン、ラグ、収納用品や生活雑貨など持ってきている物以外に必要と思われる物を買いにイオンへ。カーナビとグーグルマップありがとう。


 とりあえず思い付くだけ必要な物を購入して昼食を済ませたら、寮に戻って持って来た荷物も合わせて運び込む。ある程度片付けたところで撤収だ。あとは移動後に自分でやって下さい。

 掃除機をお返しして寮を後にした。次男は入学式の前日にこちらに移動の予定。


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