シャワー室
宿屋の部屋に案内されると、そこには大きなベッドがひとつだけ置かれていた。
アイカ「……え、ベッドひとつ……?」
アイカは心の中で叫んだ。
アイカ(あの店員……へんな気をつかったのか……? いや、絶対そうだろ……!)
サクナは気にした様子もなく、 鎧の留め具を外し始めた。
金属が軽く鳴る音が部屋に響く。
アイカはその音だけで胸がドキッと跳ねた。
サクナ「先にシャワー浴びていいかな?」
アイカ「あ、あ、はいっ」
サクナ「なんで、敬語?ありがとう」
サクナは鎧を外し終えると、 服のボタンに手をかけた。
布が擦れる音がする。 その音だけで、アイカの心臓はさらにうるさくなる。
サクナの服が少しずつずれて、 白いお腹がちらりと見えた。
アイカは反射的に反対方向へ向き直った。
アイカ「み、見ない見ない見ない……!」
サクナはまったく気にしていない。
いつもの自然体のまま、淡々と準備を続けている。
アイカは背中を向けたまま、 服の擦れる音だけで胸がざわついて仕方がなかった。
アイカ(なんでこんな…… なんでこんなに意識してるんだ俺……)
しばらくして、シャワー室の扉が「カチャッ」と閉まる音がした。
アイカはようやく息を整えた。
アイカ「……ふぅ……」
そっと振り返ると、 ベッドの上にサクナの服が畳まれていて、 その横に淡い色の下着が置かれていた。
アイカは一瞬で視線をそらした。
アイカ「うわっ……!」
耳まで熱くなる。
アイカ(がまんだ……がまんだ……! 落ち着け俺……!)
心臓はまだ落ち着かない。
アイカ(こんな時は……違うことを考えるんだ……)
アイカ(ナギ……ナギ……ナギ……ナギ……)
※ナギに失礼である。
シャワーの音が静かな部屋に響いていた。
規則的な水音が、逆にアイカの心を落ち着かせてくれない。
必死に別のことを考えようとするが、 頭の中はどうしてもサクナのことばかりになる。
アイカ(……なんとか……べつのことを……!)
アイカ(ナギ……ナギ……ナギ……ナギ……)
※ナギにものすごく失礼である。
数分後。
シャワー室の扉が「カチャッ」と開いた。
サクナが湯気の中から現れた。
アイカ(……なんか……いい匂いがする……!)
サクナは宿屋が用意した寝間着に着替えていた。
淡い色の布がふわりと揺れ、 濡れた髪が肩にかかっている。
アイカ(ナギ……ナギ……ナギ……ナギ……)
※ナギに失礼である。
サクナ「次、シャワー浴びてきなよ」
アイカ「は、はい」
サクナ「何で敬語なの?」
サクナは首をかしげる。
その仕草がまた可愛くて、アイカはさらに混乱した。
アイカは慌てて服を脱ぎ、 タオルを抱えてシャワー室へ逃げ込むように入った。
扉が閉まると、 サクナはベッドの端に腰を下ろし、 濡れた髪をタオルで軽く押さえながらつぶやいた。
サクナ「これから、どうしようかな…… 逃げるように出てきちゃったから、替えの服もないんだよね」
少し困ったように笑う。
その表情は、どこか無防備で、どこか楽しそうでもあった。
サクナ「ナギちゃんたちとも合流しないと」
そして、ふと視線を落としながら言った。
サクナ「国に帰れば…… アイカと結婚させられちゃうかな」
その声は冗談めいているのに、 どこか本気の響きがあった。
サクナ「まぁ、他の人と無理やりさせられるぐらいなら…… アイカがいいかな」
ぽつりと落とされた言葉は、 部屋の静けさの中でやけに大きく響いた。
その数分後。
シャワー室の扉が開き、 アイカがすっきりした顔で出てきた。




