二人きりの夜
ワクワク王国の正門を抜け、二人は国から遠ざかっていった。
さっきまできこえた怒号や黄色い声援は、 まるで嘘みたいに静まり返っている。
気づけば、周囲は完全に夜の闇に包まれていた。
アイカは大きく息を吐き、膝に手をついて呼吸を整えた。
アイカ「……はぁ……はぁ…… なんとか……まけたかな……」
肩が上下し、額には汗がにじんでいる。 必死で走ってきた疲労が一気に押し寄せていた。
サクナも肩で息をしながら、 それでもどこか楽しそうに笑っていた。
サクナ「ふぅ……すごい……楽しい…… なんだか胸がドキドキするよ……」
頬は赤く、瞳はきらきらしている。 まるで遊園地から出てきた子どものような顔だ。
アイカ「はぁ?……いかれてやがる……」
呆れた声を出しながらも、 どこか照れたように視線をそらす。
サクナは首を横に振った。 月明かりに照らされた瞳は、まっすぐで揺らぎがない。
サクナ「私ね。 アイカといると……いつもたのしいよ」
その瞬間、アイカは気づいた。
サクナの第一人称が「僕」から「私」に変わっている。
サクナは少し照れたように笑いながら、胸に手を当てた。
サクナ「アイカ……君はいつも…… トラブルの中心にいるね…… トラブルメーカー……なんだか笑っちゃうよ」
アイカ「……トラブル……トラブルメーカーって…… 人をなんだと思って……」
サクナは手を口元に当てて、くすっと笑った。
サクナ「私と出会った時も、奴隷市場を崩壊させたじゃん」
アイカ「いやいや!! それはサクナさんがしでかしたことだから!!」
アイカは横に首を振り、必死に否定する。
サクナ「ううん?そんなことないよ」
サクナはふわりと微笑んだ。
その笑顔は、どこか誇らしげで優しい。
サクナ「あれは、君の手柄だよ」
アイカ「せ、責任を押し付けようとしているのか……?」
サクナ「責任って……おかしなこと言うね」
サクナは一歩近づき、 アイカの横顔をそっと覗き込む。
サクナ「あのね……アイカは、もっと評価されるべきだよ」
アイカは視線をそらした。
心臓がさっきより速く打っているのが自分でもわかった。
アイカは褒めることになれていなかった。
森の中を、二人はゆっくり歩き続けた。
やがて、木々の隙間から灯りが見えてきた。
アイカ「……はぁ……村が見えた……」
サクナは嬉しそうに笑った。
その笑顔は、どこか安心したようで、どこか甘い。
サクナ「そうだね。 今日はこの村に泊まろうか」
アイカ「しかたない…… 今日は……本当につかれた……」
二人はゼルト村へと足を踏み入れた。
アイカはゼルト村を歩きながら、 遠くに灯りが見えるのに気づいた。
アイカ「……あれ、宿屋のマークじゃないか?」
サクナ「ほんとだね。助かった……」
二人はそのまま宿屋へ向かい、扉を押して中へ入った。
店員「いらっしゃい!!」
木の香りがする温かい空間が二人を包む。
サクナ「二人なんだけど……泊まれるかな?」
店員「大丈夫だよ!」
店員はアイカとサクナを見比べた。
金髪碧眼の長身美女と、黒髪黒目の少年。 どう見ても兄弟には見えない。
店員「兄弟じゃないね。恋人さんかな?」
サクナはくすりと笑った。
サクナ「そんなところかな」
その一言が、アイカの胸に静かに響いた。
胸の奥がじんわりと温かくなる。 妙な緊張が体の中を走る。
アイカは急に落ち着かなくなり、 視線をどこに置けばいいかわからなくなる。
アイカ(……なんだこれ……心臓が……うるさい……)
ふとサクナを見ると、 光に照らされた横顔がやけに綺麗で、 アイカは思わず目をそらした。
サクナ「ん?どうしたの?」
サクナは首をかしげる。
アイカは無意識にサクナの姿を見てしまう。
長い金髪、すらりとした体つきなのに出るところは出ている。
体の奥がじわっと熱くなる。
アイカとサクナの視線がふと重なった。
アイカは慌ててそらす。
サクナ「……?」
サクナの頭の上に「?」が浮かんでいるようだった。
アイカ (よく考えたら…… 年上の綺麗なお姉さんと二人で宿に泊まるって…… そりゃ……緊張する……)
サクナはアイカの様子に気づかず、 ただ嬉しそうに微笑んでいる。
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