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魔王の逆恨み

魔王はアイカの姿のまま、軽く指を鳴らした。


パァン。


乾いた音が空間に響く。


魔王「瞬間移動」


空間がぐにゃりと歪み、視界が墨のように黒く沈む。

次の瞬間、魔王とメイメイはワクワク王国の王城、巨大な城門の前に立っていた。


風が止む。

まるで国そのものが“災厄の訪れ”を察したかのようだった。


メイメイ「……着きましたね」


魔王「さて」


魔王は口元をわずかに吊り上げる。


魔王「勇者アイカとしての最初の仕事だ」


ゆっくりと拳を握る。

その仕草だけで、大気が震えた。


魔王の拳はただの拳ではない。

膨大な魔力が凝縮され、存在するだけで周囲を圧迫する。

まるで巨大な天災が人の姿を借りて立っているようだった。


魔王は堂々と王城へ歩き出す。


兵士たちが慌てて駆け寄るが、近づくほどに足取りが鈍くなる。

得体の知れない悪寒が全身を貫き、本能が告げていた。


近づくな。


兵士「お、おい坊主! ここは王城だぞ!」


魔王「俺の顔に見覚えはないか」


兵士は息を呑む。


兵士「ゆ、勇者アイカ殿!? サクナ姫はどうした……!」


魔王「そんな女、どうでもいい」


アイカの声。

だが、その響きは人間のものではなかった。

深淵が人の喉を借りて喋っているような、不気味な音。


魔王は何気なく拳を振るう。


ゴゴゴゴゴッ――!!


衝撃波が城門を叩きつけ、分厚い鉄扉が悲鳴を上げるように歪む。

兵士たちは爆風に吹き飛ばされ、地面を転がった。


悲鳴が響く。

だが、誰一人として命は奪われていない。


魔王は加減している。

これは虐殺ではない。

“破滅の予告”だ。


メイメイ(……ちゃんと殺さないように手加減してる。魔王様らしいというか……律儀というか……でも、怖すぎます……)


魔王は歩みを止めない。


廊下を進むたびに壁は崩れ、柱は砕け、豪奢な王城が悲鳴を上げていく。

それでも魔王は走らない。

ただ静かに、一歩ずつ前へ進む。


その足音は兵士たちには、死神が近づく音のように聞こえた。


魔王「これでアイカの評判も地に落ちるだろう」


メイメイ「もう十分ですよ……魔王様……」


魔王「いいや」


低く響く声。


魔王「復讐は派手でなければ意味がない」


玉座の間──。


その中心に二人の姿があった。


ワクワク王国の国王。

そして衛兵ジミー。


ジミーは全身傷だらけで倒れ伏し、虫の息だった。


ジミー「やはり……危険な男……だったか……」


最後の力を振り絞り、かすれた声を漏らす。


ジミー「あの時……殺しておけば……」


そのまま静かに意識を失った。


王は肩で荒く息をしながら、床を這うように魔王を見上げた。


王「……勇者アイカ……なぜ……こんなことを……」


魔王はゆっくりと振り返る。


顔はアイカ。

だが、その瞳だけは違った。


底なしの闇。

どれだけ覗き込んでも光が届かない、絶望の色。


魔王「理由か?」


口元がゆっくり歪む。


魔王「簡単だ」


玉座の間に響く声。


魔王「人をいたぶるのが、アイカの趣味だからだ」


魔王は笑う。

その笑みは、アイカという少年の顔にはあまりにも似つかわしくなかった。


王の瞳が揺れる。


王「……醜い」


魔王「だろ?」


王「お前……アイカじゃないな」


魔王は静かに一歩踏み出す。

その瞬間、玉座の間の温度が一気に下がったように感じられた。


魔王は王の髪を掴み、ゆっくりと持ち上げる。


王「ぐ……ぁっ……!」


顔が触れそうな距離。

アイカの顔が、不気味な笑みを浮かべる。


魔王「よく見ろ。この顔は誰だ?」


王は震えながらも目を逸らさなかった。


王「顔は……アイカだ」


息を整え、続ける。


王「だが、声が違う」


魔王の笑みが止まる。

顔ばかりに意識を向け、声という当たり前の要素を見落としていた。


王「それに」


震える唇で、それでも言い切った。


王「あの少年の目は……お前みたいに濁ってはいない」


魔王「なんやそれ」


その一言で、空気がさらに重く沈んだ。


王は力尽き、そのまま意識を失う。


魔王は王の髪を離し、小さくため息をつく。


魔王(……見落としていたな)


完璧だと思っていた偽装。

その綻びは声だった。


魔王「……メイメイ」


メイメイ「はい」


魔王「この王の記憶を改ざんしろ。声の違和感を消せ」


一拍置き、冷たく告げる。


魔王「そして、アイカを心の底から憎むよう書き換えろ」


メイメイ「……承知しました」


魔王は静かに玉座の間を見渡す。


その光景を満足げに眺めながら、ゆっくりと拳を握る。


魔王「これで、アイカの人生は終わった」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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