不幸少女を救出
勇者アイカは、魔王の留守を狙って囚われていた少女ナギを救い出した。
そしてナギは、勇者パーティーの仲間たちと再び合流した。
けれど。
ナギは仲間たちを見て、一歩だけ後ろへ下がった。
まるで初めて会う人を見るように、怯えた瞳で。
サクナは、その様子を見た瞬間に胸が冷たくなる。
嫌な予感が、静かに心を締めつけた。
サクナは震える声で呼びかける。
サクナ「ナギちゃん……私だよ。サクナだよ……」
サクナ「覚えている?」
その言葉に、バイオレットとマイマイも息を呑む。
同じ予感が、胸の奥でざわついていた。
ナギは申し訳なさそうに目を伏せた。
ナギ「……ごめんなさい。私……あなたのこと、知らない……」
その瞬間、空気が止まった。
バイオレットは唇を噛みしめ、拳を強く握る。
バイオレット「……記憶、全部……消されてる……」
マイマイは肩を落とし、声を震わせた。
マイマイ「ナギさん……そんな……」
ナギは胸を押さえた。 痛みが走る。理由はわかる。
ナギ(……この人たち……きっと、私の友達だったんだ……)
ナギ「……ごめんなさい……どうしても……思い出せないの……」
仲間たちは泣きそうな顔でナギを見つめた。
ナギが戻ってきたのに 魔王によって、ナギの“勇者パーティーとの思い出”はすべて奪われていた。
その事実が、静かに、確実に、仲間たちの心を砕いていく。
バイオレットは、沈んだ空気を振り払うように話題を変えた。
バイオレット「……これからどうする? ナギを守る場所が必要だ」
サクナ「私の国、ワクワク王国に行こう。父上に頼めば匿ってもらえるはず」
サクナはワクワク王国の姫だ。
バイオレット「おい。俺は真面目な話をしてるんだぞ。そんなふざけた国名があるわけないだろ」
バイオレットはサクナを睨む。
サクナ「……あ?(怒)」
サクナも睨み返す。
アイカは慌てて二人の間に手を伸ばした。
アイカ「やめろ! サクナの地雷を踏むな!」
アイカ「サクナは国名を馬鹿にされるとキレる!」
バイオレット「嘘だろ……どんなネーミングセンスしてんだ、お前の先祖……」
バイオレットは腹を抱えて笑い出す。
サクナ「ぶっ殺す」
空気が一瞬でピリつく。
アイカは頭を抱えた。
アイカ「おいおいおい……今はケンカしてる場合じゃないだろ……!」
ナギはその様子を見て、小さく微笑んだ。
その頃──
魔王は家に帰ってきた。
玄関を開けた瞬間、家の中に落ちた静寂が、胸に嫌な予感を走らせる。
魔王「ナギ?……ナギ?」
返事はない。
寝室を覗く。 台所を見る。 庭を見る。
どこにもいない。
魔王の心臓が、嫌な音を立てた。
魔王「……アイカに、奪われた」
胸の奥が熱くなる。
怒りでも、憎しみでもない。
もっと厄介で、もっと深い感情。
魔王「この気持ちは……」
言葉にならない。
ナギを失いたくない。
ナギを守りたい。
ナギを手放したくない。
魔王は動揺し、顔がどろどろと歪み始めた。
みるみるうちに、普段のイケメン顔から“元の不細工な顔”へ戻っていく。
メイメイ「あ、その顔……初恋で振られた時の顔に戻ってますよ。」
魔王は慌てて顔を押さえ、イケメンフェースに戻した。
魔王「おい、なんでお前知ってんだ」
メイメイは口笛を吹いて誤魔化す。
魔王は深く息を吸い、静かに呟いた。
魔王「そんなことより」
魔王「ナギを取り返す」
魔王「あの勇者に復讐してやる。」
その声は低く、決意に満ちていた。
そして、魔王はふと顔を押さえた。
魔王「……いいこと思いついた。」
魔王の顔が、ゆっくりと変形していく。
輪郭が変わり、目が変わり、髪が変わり、やがて、勇者アイカの顔になった。
メイメイは目を見開いた。
メイメイ「魔王様……まさか?」
魔王はにやりと笑う。
魔王「この顔で、サクナの国、ワクワク王国に乗り込む」
魔王「アイカの顔を使って暴れれば……アイカを社会的に終わらせられる」
魔王「復讐だ!!!!」
メイメイ「えっ、そっち?」
メイメイは首をかしげる。
魔王「どうした?」
メイメイ「わたしが、考えていた回答と違ってびっくりしました。」
メイメイ「その能力があれば……アイカ本人になりすまして、もっと簡単に……」
魔王はメイメイを見た。
メイメイは続ける。
メイメイ「アイカを“直接殺して”成り代わることもできるのでは?」
魔王は目を細めた。
その表情は怒りでも憎しみでもない。
ただ、静かな思考が渦巻いていた。
魔王(……そんな手があったのか)
魔王「……人間は殺さない。お前と約束しただろ」
メイメイ「ですよね! ですよね!!」
メイメイ「私との約束覚えてくださって、光栄です。」
魔王は冷や汗をかきながら、アイカの顔のまま言った。
魔王「でも……成り代わりの案は使わせてもら……」
メイメイ「ですよね。あの魔王様がこんなこと思いつかないわけないですよね」
魔王「ふ..」
魔王は拳を握りしめ、叫んだ。
魔王「ああ──アイカの人生をぶっ壊しに行くぞ!!!!!!」
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