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心が君を覚えている

メイメイ「魔王様!! 大変です!!」


魔王「おい。俺はもう魔王を引退したんだ。“魔王様”って呼ぶなって言っただろ」


メイメイは幽体をふわふわ揺らしながら、必死に首を振る。


メイメイ「す、すみません! でも、本当に大変なんです!」


魔王「今度は何だよ……」


メイメイ「町中に、巨大な魔王様の全裸の銅像が、突然いくつも現れました!!」


魔王「……は?」


魔王「なんで俺が裸なんだよ!!」


メイメイ「おそらくバイオレットです。勇者パーティーの魔術師……想像したものを十分間だけ具現化する魔法を使ったんだと思います」


魔王「よりによって俺の裸を想像したのか、あいつは!?」


メイメイ「嫌がらせ、ですね……」


魔王「嫌がらせにしても限度があるだろ!! よし、止めに行くぞ!」


二人は慌てて家を飛び出した。


そのとき


メイメイはふと振り返る。


家の前に、一人の少年が立っていた。


アイカだった。


目が合う。


アイカ(……見つかった)


メイメイは小さく息を吐く。


メイメイ(見なかったことにしよう)


ほんの少しだけ、優しく目を細める。


メイメイ(……友達だったんだから)


何も言わず、視線を逸らし、魔王のあとを追った。


アイカはその背中を見送り、小さく呟く。


アイカ「……メイメイ」


裏切ったことは、許せない。

きっと一生、許せない。


それでも


アイカ「ありがとう」


そう言って、魔王の家へ駆け込んだ。


アイカ「ナギ!!」


廊下を駆け抜け、扉を一つ、また一つと勢いよく開ける。


そしてようやく、眠っていた少女を見つけた。


ナギはゆっくりと身体を起こし、アイカを見る。


ナギ「あなた……今日、会った……」


アイカは一歩近づく。


ナギ「やめて」


静かな拒絶だった。


その一言だけで、アイカの足は止まる。

胸が締めつけられる。


アイカ「あいつは魔王だ」


震える声で言う。


アイカ「俺が、本当のアイカだ」


ナギは黙ったまま見つめている。


アイカ「お前は……メイメイの記憶操作で、魔王を俺だと思わされてるだけなんだ」


返事はない。

それでもアイカは諦めなかった。


拳を強く握る。


アイカ「信じてくれ……」


声が震える。


アイカ「頼む……頼むよ……」


飾らない言葉だった。

うまく伝えようとした言葉でもない。


ただ、大切な人を失いたくない。

その想いだけが、声になっていた。


ナギの胸が、大きく脈打つ。


どくん。


ナギ(どうして……)


どくん。


ナギ(この人の声を聞くと、安心するんだろう)


どくん。


ナギ(どうして、この人が苦しそうだと……私まで苦しいんだろう)


アイカは俯いたまま、小さく笑った。


寂しそうに。


アイカ「ナギがいないと……」


言葉を飲み込み、震える息を吐く。


アイカ「俺は、笑えない」


その一言が、真っ直ぐ胸に届いた。


ナギの瞳が揺れる。

気づけば、笑っていた。

涙がこぼれそうな、不思議な笑顔だった。


ナギ「どうして……」


胸を押さえる。


ナギ「記憶は……あなたを否定してる」


ナギ「あなたの言葉には……何の証拠もない」


少しだけ顔を上げる。


ナギ「なのに……」


涙が溢れた。


ナギ「あなたを……信じたい」


アイカの瞳が大きく揺れる。


その瞬間だった。


アイカ「逃げよう!」


その言葉が、ナギの心の奥深くに落ちた。


バキッ。


何かが砕けるような音がした。


頭ではない。


心にかかった鎖が、軋んだ。

眩しい光の粒が、次々と弾ける。


笑い合う二人。

並んで歩く帰り道。

手を伸ばせば届く距離。

ぼやけたアイカの笑顔。


ナギ「……あ」


アイカ「ナギ?」


ナギは震える手で胸を押さえた。


苦しい。

でも。

痛いのに、温かい。


ナギ「あなたを……」


声が震える。


ナギ「ずっと前から……知っている気がする……」


アイカの喉が詰まる。


ナギ「どうして……」


涙が止まらない。


ナギ「記憶はないのに……」


胸を押さえた手に力が入る。


ナギ「心だけが……あなたを覚えてる……」


その一言で、アイカの涙が堰を切った。


ナギも泣いていた。


ナギ「心が……」


震えながら微笑む。


ナギ「あなたが好きだって……言ってる……」


アイカはもう耐えられなかった。


アイカ「ナギ……!」


ナギは涙を拭う。


そして、小さく笑う。


ナギ「……あなたの名前……呼びたい」


アイカは息を止めた。

ナギはゆっくり口を開く。


ナギ「……アイカ君?」


その瞬間だった。


胸を締めつけていた痛みが、ふっと消えた。


思い出したわけじゃない。


それでも


心は、ずっと忘れていなかった。


アイカは泣き笑いのまま、ナギの手を握る。


アイカ「ナギ……帰ってきてくれ」


ナギはその手を、今度は自分から握り返した。


ナギ「……思い出したい」


涙を流しながら微笑む。


ナギ「あなたとの時間を……全部」


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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