魔王、不幸少女へ告白する
魔王と暮らす家の寝室。
ナギはベッドの上で膝を抱え、目を閉じていた。
胸の奥が、ずっと痛い。
理由はわからない。 でも、痛い。
ナギ「どうして……」
ぽつりと声が漏れる。
思い返すのは、夕暮れの路地での出来事。
ナギ「あの人を拒絶したとき……」
胸が締めつけられた。 まるで、自分が自分を裏切ったような痛み。
ナギ「どうして……泣きそうになったんだろう……」
ナギは両手で胸を押さえた。
痛みは、そこにある。 確かにある。 でも、理由がわからない。
ナギ「……あの人、自分をアイカ君だって言ってたけど……」
そう呟き、最近の“アイカ君”を思い出す。
最近のアイカ君は、どこか違う。 家事も手伝ってくれる。 料理も作ってくれる。 話し方にも知性がある。 ものすごく、頼りになる。
でも、頼りになることが逆に違和感を感じさせる。
とん、とん。
扉を叩く音がした。
魔王「ナギ、開けていいか?」
ナギ「アイカ君?うん、どうぞ」
ドアが静かに開き、魔王が入ってきた。
魔王「ナギ、眠れないのか?」
ナギは少し驚きながら顔を上げる。
ナギ「……うん。なんだか……胸が苦しくて」
魔王はベッドの端に座り、 ナギの頭をそっと撫でた。
魔王「怖かったんだろう。知らない男に声をかけられて」
ナギ「……そう、なのかな……」
魔王「そうだよ。あれはただの危険な男だ。忘れなさい」
ナギは頷こうとした。 でも、胸の痛みは消えない。
違和感が消えない。
ナギ「……でも……」
魔王「ん?」
ナギ「……あの人を“嫌い”って言ったとき……」
魔王の手が止まる。
ナギ「……どうしてか、涙が出そうになったんです」
魔王の表情がわずかに強張る。
魔王「ナギ。あの男は危険だ。関わってはいけない」
ナギ「……はい。でも……」
ナギは胸を押さえた。
ナギ「……どうして、あんなに苦しかったんでしょう……?」
魔王は答えない。 答えられない。
ナギはゆっくりと目を閉じた。
ナギ「……あの人の声……聞いたことがある気がする……」
魔王の肩がわずかに震えた。
ナギ「……あの人の目……なぜか信頼できる気がしたんです……」
魔王は、静かにナギの肩に触れた。
魔王「……好きだよ」
ナギ「え……?」
魔王は、まるで言葉を選ぶようにゆっくりと息を吸った。
魔王「ナギ……君が泣きそうになった理由、わかるよ」
ナギは目を瞬かせる。
魔王「君は……優しいから。 誰かを傷つける言葉を言うと、自分の心が痛むんだ」
ナギ「……そう、なのかな……」
魔王はナギの手を包み込むように握った。
魔王「ナギ。 君が誰かを忘れている気がするのは……きっと、心が繊細だからだよ」
ナギ「アイカ君……」
魔王はその呼び名に、ほんの少しだけ目を伏せた。
そして、静かに、でも確かに言った。
魔王「君がどんな不安を抱えていても」
魔王「君が迷っても」
魔王「私は君の味方だ」
魔王はナギの手を強く握る。
魔王「君を失いたくない」
ナギの瞳が揺れる。
魔王「君が苦しんでいるのを見るのは……つらい」
ナギ「……アイカ君?」
魔王は小さく笑い、ナギの頭を優しく撫でる。
魔王「だから、私は君のそばにいる」
魔王「君が迷っても、泣いても……一人にはしない」
ナギの呼吸が止まる。
魔王「君が泣くなら、私が支える。 君が迷うなら、私が導く。 君が誰を忘れても……私だけは君を忘れない」
ナギ「アイカ君……?」
魔王は微笑んだ。
その笑みは優しくて、あたたかくて、 でもどこか切なかった。
魔王「ナギ。 私と……一緒に生きてほしい」
ナギは胸を押さえた。 痛みが走る。 理由はわからない。 でも、痛い。
魔王はナギの頬に触れた。
魔王「……私は君を愛している」
ナギは顔を赤くして、慌てた。
魔王はナギに聞こえないほど小さな声で呟く。
魔王「ナギ。 君と生きたい……だから私は“アイカ”でい続ける」
ナギ「なにか言った……?」
魔王は一瞬だけ目を伏せた。
魔王「……なんでもないよ」
魔王は優しく微笑んだ。
魔王「ナギ。もう寝なさい」
その声は優しかった。
ナギは横になり、布団を胸まで引き寄せる。
ナギ「……アイカ君」
魔王「なんだい?」
ナギ「……ありがとう。おやすみ」
魔王「おやすみ」
ナギはゆっくりと目を閉じる。
胸の痛みは、まだ消えない。
まるで、大切な誰かを置き去りにしたような痛み。
ナギ「アイカ……」
その名前を、 ナギは無意識に呟いていた。
魔王はその声を聞き、 静かに拳を握りしめた。
魔王「……負けない。 お前には、絶対に。」
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