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勇者にとって不幸少女と何か

ロウナ王国の裏路地。


夜風が冷たく吹き抜け、アイカの肩を小さく震わせていた。


サクナは隣を歩きながら、その肩をぽん、と軽く叩く。


サクナ「少し休む?」


いつものような明るい声。 だが、アイカは返事をしなかった。


ただ黙って歩く。 その瞳からは、すっかり光が失われていた。


アイカ「魔王に……ナギを……寝取られた」


かすれた声が、静かな路地に落ちる。


サクナは胸が締めつけられた。 唇を噛み、アイカの前へ回り込む。


サクナ「アイカ。ナギちゃんは、魔王に記憶を奪われただけだよ」


真っすぐな瞳で言い切る。


サクナ「気をたしかに」


アイカは苦しそうに首を振る。


アイカ「……でも……あの目は……本当に……知らない人を見る目だった……」


サクナは勢いよく両手でアイカの頬を挟んだ。


サクナ「こらっ!」


突然のことに、アイカが目を瞬かせる。


サクナ「そんな顔してたら、ナギちゃんに叱られるよ!」


少し強引なくらいの笑顔。


サクナ「ナギちゃんを助けたいんでしょう?だったら下向いてる暇なんてないよ!」


アイカは何も言えなかった。 だが、ほんの少しだけ瞳に色が戻る。


そのときだった。


バイオレット「サクナー!! アイカー!! こっち!!」


頭上から大声が響く。


サクナは反射的にアイカの腕を引っ張った。


サクナ「危ない!」


二人が身を引いた直後


ドサッ!!


屋根の上から二つの影が飛び降りてくる。 バイオレットとマイマイだった。


マイマイ「ひぃっ……! こわいこわいこわい……!」


着地した瞬間、マイマイは一目散にサクナの後ろへ隠れた。


サクナは思わず笑う。


サクナ「どうしたの?そんなに震えて」


マイマイ「兵士さんが……『殺すぞー!』って……ずっと叫んでて……!」


サクナ「……殺す?」


目を丸くする。


サクナ「誰を?」


バイオレットは悪びれもせず親指で自分を指す。


バイオレット「俺とマイマイだ。国家転覆罪だってさ」


サクナは数秒固まり


サクナ「……は?」


素の声が漏れた。


サクナ「ちょっと待って。何をしたらそうなるの?」


バイオレット「王様が国民にウソついてたから暴いただけ」


サクナ「それで追われてるの!?」


バイオレット「いやぁ、屋根の上逃げ回るの楽しかったぞ?」


サクナ「楽しまないで!!」


額を押さえる。


サクナ「もう……あなたは本当に問題ばかり起こすね!」


バイオレットは肩をすくめるだけだった。


そのやり取りを見ても、アイカはぼんやりとうつむいたままだった。


アイカ「……ナギが……俺を……知らないって……」


バイオレットの表情が少しだけ真面目になる。


バイオレット「……重傷だな」


サクナは静かに頷く。


サクナ「うん」


マイマイがおずおずと近寄る。


マイマイ「アイカさん……だいじょうぶですか……?」


アイカはゆっくり顔を上げた。


アイカ「……大丈夫に見えるか。殺すぞ」


アイカはマイマイを睨みつけた。


マイマイ「ひぃ」


アイカ「でも……取り戻す。ナギを……絶対に」


その一言に、全員が頷いた。


バイオレットはニヤリと笑う。


バイオレット「よし。じゃあまずはこの国から逃げるぞ」


サクナ「……え?」


バイオレット「俺がいる限り、この国中の兵士が襲ってくる」


マイマイ「ひぃぃぃぃ……!」


サクナは腰に手を当てる。


サクナ「説明は!」


バイオレット「走りながら!」


サクナ「もうっ!」


そう叫びながらも、サクナが真っ先に駆け出す。

バイオレットが笑って追いかける。

マイマイも慌てて続き、最後にアイカが一歩踏み出した。


夜のロウナ王国を四人は駆け抜けて、ロウナ王国脱出した。


森の中。 四人は小さな焚き火を囲んで休んでいた。


バイオレットは木に寄りかかりながら、草をちぎって遊んでいる。


アイカは火を見つめたまま、ほとんど動かない。


そんな中、サクナとマイマイは少し離れた場所で向かい合った。


マイマイ「サクナさん……わたしたち……いま……どうなってるんですか……?」


サクナは深く息を吐き、落ち着いた声で話し始めた。


サクナ「まず……ナギちゃんのことから話すね」


マイマイはこくりと頷く。


サクナ「ナギちゃんは、魔王に記憶を操作された。 “アイカと過ごした記憶”が全部、魔王に書き換えられた」


マイマイ「全部……?」


サクナ「おそらく全部。出会いも、助けられた日も、笑った日も……全部、魔王になってる」


マイマイは口元を押さえた。


マイマイ「そんな……ひどい……」


サクナ「だから、アイカのことを“知らない人”って言ったんだよ。 本当に……心の底から」


マイマイは震えた。


マイマイ「アイカさん……つらかったですよね……」


サクナ「うん。見てる私も胸が痛かった」


サクナは火の方を見る。 アイカはまだ、動かない。


サクナ「でも……私を見たときにナギちゃんは少しだけ違和感を覚えていた。」


マイマイ「そうなんですか……!」


サクナ「だから……完全に支配されてるわけじゃない。 まだ……戻れる可能性はある」


マイマイの表情が少し明るくなる。


マイマイ「じゃあ……ナギさんは……助けられるんですね……?」


サクナ「わからないけど。全力で助けよう」


マイマイは胸を押さえた。


マイマイ「じゃあ……タイガー王の話するね……」


マイマイ「ロウナ王国は……おそらく“国ごと洗脳されてる”。 人間と魔族が仲良くしてるのも、 タイガー王が英雄扱いされてるのも…… 全部、魔王とメイメイの記憶操作」


サクナ「国ごと……?」


マイマイ「うん。あれは“平和”じゃなくて“支配”。 みんな、魔王の都合のいいように記憶を変えられてる」


マイマイは震えた。


そのとき、バイオレットが割り込む。


バイオレット「マイマイ。俺たちが国家転覆罪で追われてる理由も話しとけよ」


マイマイ「バイオレット……ほんとに反省してください……」


マイマイ「エルフとタイガー王が友好を結ぼうとしたときに、 バイオレットさんが大声で『タイガー王は魔王倒してない』って叫んで…… それで怒ったロウナ王国の大臣が、兵士に私たちを殺すよう命令したんです」


サクナ「……大変だったね」


マイマイ「はい……」


サクナは少し考えるように火を見つめた。


サクナ「これからどうしようか?」


マイマイ「わからないです……」


そのとき、バイオレットが草をちぎりながら口を開いた。


バイオレット「こっちも、ナギを誘拐すればいいんじゃない」


マイマイ「えっ……どういうことですか?」


バイオレット「魔王はなぜか、表舞台に出ないで、 ナギと一般人として二人暮らししてるんだろ?」


サクナ「……そうだね。あれは不自然だった」


バイオレット「そんな隙だらけの相手なら、 魔王が俺たちからナギを誘拐したように、 魔王の隙を見てナギを誘拐すればいい」


サクナ「……たしかに。 魔王が国を支配してるわりに、ナギの周りはゆるいよね」


マイマイ「でも……ナギちゃんは記憶をいじられているんだよ。 助け出しても……アイカさんのこと、わからないままじゃ……」


バイオレットは肩をすくめて笑った。


バイオレット「そこは、アイカとナギの愛の力で解決してもらおう」


アイカ「愛の力..」


アイカはゆっくりと顔を上げた。


アイカ「ああ……任せてくれ」


焚き火の光が、アイカの瞳にわずかな強さを宿した。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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