36.裏切り者
ナギが誘拐されたあの日から、勇者一行はできるだけ早く魔王城へ向かっていた。
だが、日が沈みはじめ、道は暗くなっていく。
サクナ「アイカ、今日はもう無理だ。夜道は危険だ。」
サクナはアイカの手首をつかんだ。
アイカはナギが心配で焦っている。
アイカ「……そうだな。ちょうど村も見えてきたし。今日はここまでか。」
アイカは村の看板を見ながら。
アイカ「スリキ村っていうんだな……今日はここでご飯と寝泊まりするか」
バイオレット「了解」
サクナはマイマイの肩に手を置く。
サクナ「大丈夫? 長旅は初めてでしょ」
マイマイ「はい……お腹ペコペコです」
そんな会話をしながら歩いていると、アイカが店の看板を指さした。
アイカ「お、いい感じの食堂があるじゃん。ここで夜飯にしよう」
マイマイ「やったー!」
マイマイは嬉しそうに跳ねた。
マイマイ「ごはん!ごはん!」
バイオレット「よし、まずは飯だ。腹が減ってちゃ戦えねぇしな」
アイカは食堂の扉を押し開けた。
バイオレット「4人、いけますか」
バイオレットが声をかけると、店員は笑顔で答えた。
店員「大丈夫だよ! あそこのテーブルへどうぞ」
席につき、メニューを開く。
アイカ「おれ、A定食にしよう」
サクナ「私もAかな」
バイオレット「じゃあ俺はBだ」
マイマイ「わたしもBにします!」
そんなやり取りをしていると、隣の席から男たちの声が聞こえてきた。
モブ男A「なぁ、お前……聞いたか?」
モブ男B 「何をだよ」
モブ男A「魔王が倒されたって話だ」
モブ男B「はぁ? そんなわけねぇだろ。勇者様はこないだ大聖堂で魔王軍とたたかったばかりだぞ」
アイカたちは思わず耳を傾けた。
モブ男A「いや、本当らしいぞ。滅んだロウナ王国の王族の生き残りが討伐したんだとよ」
モブ男B「ロウナ家……? ソフィア姫が最後の生き残りだったはずだろ。あの姫も何年か前に死んだって聞いたが」
モブ男A「ところが、まだ生き残りがいたらしいんだよ」
アイカは眉をひそめた。
メイメイ「魔王が倒された……そんなはずはない」
アイカ「だよな、メイメイ」
メイメイ「魔王様が勇者以外に倒されるわけない」
隣の男たちの声が続く。
モブ男A「名前は……ロウナ・タイガーって男だそうだ」
サクナが目を見開く。
サクナ「タイガー……? リョウキの部下の?」
マイマイも困惑した表情を浮かべる。
マイマイ「どうなってるんですか……?」
バイオレットは手を挙げて店員を呼んだ。
バイオレット「すみません、注文いいです」
アイカ「おい、今それどころじゃ」
アイカが言いかけると、
バイオレット「嘘嘘!!時間の無駄だよ」
バイオレットは淡々と返した。
アイカはため息をついた。
アイカ「……そうだな、どうせ嘘の噂だろ」
サクナ「そうだね」
だがサクナの胸の奥では、不安が渦巻いていた。
モブ男たちの会話に「タイガー」という単語がでてきたからだ。
その人物をしっているのは勇者一行か、魔王軍の連中ぐらいのはずだからだ。
*
食堂で夕食を終えたあと、アイカたちは村の外れで野営の準備を始めた。
サクナとマイマイは初めての野営に目を輝かせている。
アイカ「みてないで、手伝ってくれ」
アイカが声をかけると、
サクナ「はい!」
マイマイ「はい!」
二人は元気よく返事をした。
アイカ「じゃあサクナは俺とテントづくり。マイマイは焚き火用の枝を集めてくれ」
サクナ「わかった!」
マイマイ「はいっ!」
二人ともワクワクしていて、見ているこちらがくすぐったくなるほど初々しい。
やがて、焚き火を囲むように二つのテントが完成した。
男女で分かれ、それぞれのテントに入る準備をする。
バイオレット「おやすみだ」
バイオレットが淡々と言う。
マイマイ「おやすみなさい」
マイマイがぺこりと頭を下げる。
アイカはバイオレットを睨んだ。
アイカ「お前、サボりやがったな」
バイオレット「……バレたか」
そんなやり取りをしながら、四人はテントに入っていった。
幽霊のメイメイだけは、寝る必要がない。
焚き火の前に浮かび、ぱちぱちと燃える音を静かに聞いていた。
アイカ達がテントに入って数時間後。
「メイメイ」
森の奥から、低い声がした。
メイメイははっとして振り向く。
木々の影から、ゆっくりと人影が現れる。
魔王「ひさしぶりだな。元気そうじゃないか」
その姿を見た瞬間、メイメイの目が大きく見開かれた。
メイメイ「……魔王様」
魔王は歩み寄り、静かに言った。
魔王「お前の能力を借りたい」
メイメイは震える声で答える。
メイメイ「あ、あの……わたしはあなたを裏切ってしまいました」
魔王は笑顔になる。
魔王「私のもとに戻ってきてくれるなら許す。」
メイメイ「……」
魔王「だめか?」
メイメイは唇を噛んだ。
そして、勇気を振り絞って言う。
メイメイ「魔王様……もう、人間を殺すのはやめてください」
魔王「わかった。約束する」
魔王は即答した。
メイメイ「え……本当ですか」
魔王「ああ。お前が戻ってきてくれるなら」
メイメイの表情が揺れる。
メイメイ「……はい。わかりました」
魔王「ありがとう」
魔王は優しく微笑んだ。
だが、その次の言葉は、あまりにも残酷だった。
魔王「早速だが、命令したいことがある」
メイメイは息をのむ。
魔王は焚き火の赤い光を背に、静かに告げた。
魔王「お前の記憶操作で」
魔王「ナギの記憶の中にある“アイカ”を、私と入れ替えてほしい」
メイメイ「え?」
メイメイは魔王の言葉を理解するのに時間がかかった。
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