不幸少女は勇者の死亡ルートを回避したい
ナギが過去に戻る少し前のこと。
賭博場の外。警備員に肩を押され、路地へ放り出された少年が膝をついた。
アイカ。16歳。震える手で地面を支えながら、通りすがりの女性にすがる。
アイカ「……お金が必要なんです」
女性は驚きながらも、困窮した姿を見て足を止めた。
「詳しく聞かせて」
近くの喫茶店で、アイカは震える声で事情を話した。
アイカ「すべてを失った俺に、優しくしてくれた女の子がいて……その子が、明日競売にかけられるんです。買い戻したくて……」
アイカ「賭博場で増やそうとしたんです。一度勝ってしまって……やめられなくて……全部失ってしまった」
女性は静かに名乗る。
サクナ「私の名前はサクナ。君の名前は?」
アイカ「アイカです」
サクナは真剣な瞳で尋ねた。
サクナ「その子は……どうして売られるの?」
アイカは俯き、声を絞り出す。
アイカ「誘拐されたんです。必死で探して……やっと見つけた。でも明日、競売にかけられるって聞いて……お願いだ。お金をください」
サクナはため息をつき、手を差し出した。
サクナ「落ち着いて。お金なんかいらない。奪われた人を取り返せばいいだけよ」
アイカ「え?」
*
二人は奴隷市場の入口に移動した。
サクナは静かに剣を抜いた。
サクナ「アイカ、僕についてきて。目的の子を見つけたら教えて」
アイカは黙って頷き、二人は建物の中へ潜り込んだ。
サクナは次々と警備を制していく。刃が光るたび、通路の空気が震えた。
アイカ(……この人、強すぎる)
扉を切り破ると、薄暗い部屋が広がる。
その奥、鉄格子の檻の中で、鎖につながれた少女が震えていた。
ナギ。
ナギ「……アイカ君……?」
アイカ「ナギ!!助けに来た!!」
ナギの瞳が揺れ、声が掠れる。
ナギ「アイカ……」
アイカが走り寄った瞬間、奴隷商人がピストルを構えた。
奴隷商人「動くな!」
ナギ「アイカ!!危ない!!」
銃声が響く。 弾丸はアイカの額に直撃したが、跳ね返って地面に転がった。
奴隷商人「……え?」
驚く男をよそに、アイカは鉄格子を素手でひねり曲げた。 金属が悲鳴を上げる。
アイカ「ナギ!!」
ナギを抱きしめる。震えているのはアイカの方だった。
アイカ「……よかった……本当に……」
ナギも力いっぱい抱き返した。
その時、剣閃が走り、奴隷商人が倒れ伏した。 サクナが立っていた。
サクナ「銃弾を弾くその身体……やっと見つけた。異世界から来た勇者様」
背後から男たちが押し寄せるが、サクナは一歩も引かず、次々と倒していく。
その姿を見たナギの顔が絶望に染まった。
ナギ「あの人……この国の……」
ナギは震えた。 サクナ姫は、アイカを魔王討伐に向かわせ、死に追いやる未来の原因となる人物だった。
「私たちもたすけてぇ……!」
檻の中で捕らわれていた子供たちが泣き叫ぶ。
アイカ「……ナギは助けた!!」
アイカは息を切らしながら叫ぶ。
アイカ「サクナ!!逃げよう!!」
だがサクナは首を横に振った。
サクナ「いいえ」
その瞳は真っ直ぐだった。
サクナ「みんな、助けるよ。アイカ」
アイカ「でも……助けたって、養う余裕なんてない。後のことを考えてくれよ」
アイカ「それに、にげないと俺たちも捕まる。俺は不法侵入してんだぞ!!」
サクナは微笑んだ。
サクナ「大丈夫。私はこの国の第一王女。この子たちは、しかるべき場所へ導き、親の元へ帰してあげる」
アイカ「……お、お、おうじょ……?」
建物の外に出ると、王国の騎士たちが待っていた。
ジミー「探しましたよ、姫様!!」
サクナ「ジミー。久しぶりですね」
サクナは落ち着いた声で応じた。
サクナ「ちょうどいいです。この子たちを保護してください。希望する子は、親の元へ帰れるよう手続きを」
ジミーは露骨に嫌そうな顔をしたが、サクナの微笑みで従った。
サクナはアイカに向き直る。
サクナ「それにしても驚いたよ、アイカ。君が異世界から来た勇者だったなんて」
アイカ「なんのことやら」
サクナ「誤魔化されないよ。そんな人間離れした頑丈な体をもっているんだから」
アイカは気まずそうに視線を逸らす。
サクナはナギに目を向けた。
サクナ「僕に彼女の名前、教えてよ。アイカ!」
アイカとナギが目を合わせる。
アイカ「ああ!!自己紹介してやってくれ」
ナギ「ナギと申します。助けていただき……ありがとうございます」
サクナは優しくナギの頭を撫でた。
サクナ「これからよろしくね、ナギ。僕....いいえ、私はサクナ」
そして少し申し訳なさそうに微笑む。
サクナ「悪いけど……アイカ、ナギ。二人には、お城に来てもらうよ」
サクナ「アイカ!君を父上に紹介させてもらうね!!」
王女らしい堂々とした背中が遠ざかっていく。
ナギの脳内に過去の出来事が蘇る。
お城に向かってはいけない。 お城に行けば、王様に魔王討伐を命じられる。
そしてアイカは死ぬ。
ナギはアイカの袖を握った。
ナギ「逃げよう!魔王退治なんてしなくてもいい」
アイカは驚いたが、すぐに返事をした。
アイカ「どうして?」
ナギ「アイカ君を失いたくない。私はアイカ君と一緒に暮らせるなら……世界がどうなっても、かまわない!!」
アイカは驚いた顔をして、口角を上げた。
アイカ「わかった!!俺も魔王退治なんて興味ないし」
アイカ「よし、逃げよう!!」
サクナは機嫌よく歩きながら言う。
サクナ「それでさ、アイカとナギちゃんって、恋人なのかな」
返事はない。
不思議に思って振り返ると
サクナ「……え?」
アイカはナギを抱えたまま、足音を殺して、サクナとは真逆の方向へ歩き出していた。
サクナ「ちょ、ちょっと!? アイカ!?」
アイカ「ナギ、しっかり捕まれ!!」
ナギ「うん」
ナギはアイカの手を握り、二人は全力で運命から逃げ出した。
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