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3.不幸少女と王様

王の間の中央には、これ見よがしに豪華な王座が据えられていた。

そしてその上に、いかにも偉そうな男がどっしりと腰を下ろしている。


その視線の先に立たされているのは、異世界から召喚された勇者・アイカと、

不幸体質の少女・ナギだった。


王は二人をじろりと睨めつけ、ゆっくりと口を開く。

ワクワクール王「初めまして、勇者アイカ」

ワクワクール王「我が名は――ワクワクール八世」

アイカ「……お会いできて、光栄です」

丁寧にそう返したアイカだったが、その瞳はどこか虚ろで、

生気というものがまるで感じられない。

死んだ魚の目、という表現がこれほど似合う人間も珍しいだろう。

(ワクワク王国のワクワクール八世って、なんだよ。)

(名前からしてもう信用できない。絶対ふざけた野郎だ。)

アイカは内心でそう毒づいた。

ナギはアイカの隣で落ち着かない様子を見せていた。

(アイカ君、下手をすれば王に対して何を言い出すかわからない。)

ナギは、無礼を働かないことを祈るしかなかった。


王は急に機嫌を良くしたように、声を弾ませた。

ワクワクール王「まさか、勇者様がこの世界に残っておられたとはな」

ワクワクール王「勇者アイカよ。復活した魔王を、討ち倒すのだ」

その言葉を聞いた瞬間、ナギの胸がきゅっと締めつけられる。

――ナギは知っている。未来の記憶を。

(アイカは、魔王を倒した直後――謎の呪いによって死ぬ)

どう足掻いても、そこへ辿り着く未来。

ナギは歯を食いしばった。

(……私じゃ、運命は変えられない)

その時、アイカは小さくため息をついた。

次の瞬間だった。

脇に控えていた衛兵の一人が、怒鳴り声を上げながら駆け寄ってきたかと思うと、乱暴にアイカの胸ぐらを掴んだ。

(確かこいつ、サクナ姫の護衛の……ジミーだったか。)

ジミー「王の御前だぞ! もっと敬え!」

乾いた音が王の間に響く。

ジミーの平手打ちが、確かにアイカを打った――はずだった。

しかし次の瞬間、ジミーは自分の手を押さえて呻き声を上げ、その場に膝をつく。

ジミー「ぐっ……!?」

顔を歪めながら、それでも憎々しげにアイカを睨みつける。

ジミー「王様! こいつを捕らえてください!」

しばしの沈黙。

王は深く息を吐くと、落ち着いた声で言った。

ワクワクール王「……ジミー。少し控えなさい」

ジミーは納得いかない様子で唇を噛みしめながらも、命令には逆らえず、元の位置へと戻っていった。


ワクワクール王「さすがだな。頑丈な体をお持ちのようだ、勇者よ」

ワクワクール王の言葉が、静まり返った王の間に響く。

その沈黙を破るように、アイカがゆっくりと口を開いた。

アイカ「王様。俺は“防御”に特化した勇者です」

淡々とした声。感情の起伏は感じられない。

アイカ「……他の勇者たちは、もう元の世界に帰ってしまいました。

俺ひとりじゃ……無理です」

その言葉に、場の空気がわずかに揺れた。

その時、玉座の脇に控えていたワクワク王国のサクナ姫が、一歩前へ踏み出す。

甲冑に包まれた足音が、静かに床を叩いた。


サクナ「なら――私が、剣となりましょう」


サクナは迷いなく、まっすぐアイカのもとへ歩み寄る。

サクナ「父上。私もアイカとともに、魔王退治に参ります」

ワクワクール王は即座に首を横に振った。

ワクワクール王「だめだ。いくらサクナに剣の才があろうと……お前は姫なのだ」

だがサクナは一歩も引かない。

その瞳には、王に向けられるべきでないほどの強い意志が宿っていた。

サクナ「私はこの国で、誰よりも強い」

サクナ「そしてきっと、アイカとともに魔王を倒すために――

王族として生まれ、この力を授かってきたのだと思います」

凛とした声が、王の間に響く。

その真剣な眼差しを受け、王はしばし沈黙した。

やがて、深く息を吐き――ゆっくりと口を開く。

ワクワクール王「……わかった」


その瞬間――


突如として、王の間の床に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

禍々しい光を放ちながら回転し、その中心から――人間離れした“何か”が姿を現す。

現れた男は、悠然と歩み出て、王の前に立ちはだかった。

ジミー「なっ……!」

ジミーが顔色を変え、大声で叫ぶ。

ジミー「お前は……魔王軍四天王、ハラヤ!」

そこに立っていたのは、醜悪としか言いようのない容貌の男だった。

歪んだ顔、異様に大きく裂けた口。

魔王軍四天王ハラヤは、歯茎をむき出しにして笑いながら叫ぶ。

ハラヤ「サクナ姫を――さらいに来たぞ!」

その声を聞いた瞬間、ナギの脳裏に、かつての記憶が鮮明によみがえった。

(……ああ、ここだ)

(ここで私は、サクナ姫と間違われて……誘拐される)

胸が締めつけられる。

(運命は……変えられないのか)


その時だった。


サクナ姫が、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

サクナの過去の記憶が、サクナの意識を支配する。

貴族たちが、陰で囁いていた声が、耳の奥で何度も反響する。

(男の子に生まれていたら、よかったのにね)

はっとして、サクナは顔を上げた。

周囲を見渡して、異変に気づく。

衛兵たちも、ワクワクール王でさえも――

まるで時間が止まったかのように、微動だにしていなかった。

サクナ「……だめだ」

サクナは、震える声で呟く。

サクナ「これが……魔王軍四天王ハラヤの能力」




魔王軍四天王には一人一人に特殊な能力を魔王から与えられている。

ハラヤの能力は“ネガティブ”。

ハラヤを視認すると、強制的に自らの「傷ついた過去」を思い出させられる。



ハラヤ「魔王様の命令でなぁ……」

ハラヤはいやらしく笑いながら、指を折って考える仕草をした。

ハラヤ「確か――歴代最強の剣士、サクナ姫と勇者を、組ませるなぁ……だったか?」

そう言った直後、突然目を見開き、きょろきょろと周囲を見回す。

ハラヤ「……あれ?」

ハラヤ「サクナ姫って、どんな特徴だったっけ?」

しばし沈黙。

やがて、間の抜けた声で呟いた。

ハラヤ「……忘れてしまった。」

その視線が、ゆっくりとナギへ向けられる。

ハラヤ「そうだ。たしか――人間の女だったはず」

そう言い放つと、ハラヤはずかずかと歩み寄り、

アイカの横に立っていたナギへ手を伸ばした。

ナギ「私は……ナギです。」

必死に名乗るナギを見て、ハラヤは首を傾げる。

ハラヤ「ナギ?」

ハラヤ「……サクナじゃないのか?」

そう呟き、今度はサクナ姫の方へ視線を移す。

そして、迷いなく――その腕を掴んだ。

ハラヤ「――ああ、こっちか」

ハラヤは天を仰ぎ、叫ぶ。

ハラヤ「魔王様!!サクナ姫を捕らえました!!

魔王城へ戻してください!!」

その足元に、再び禍々しい魔法陣が浮かび上がり、激しく光り出す。

そして次の瞬間――

ハラヤとサクナ姫の姿は、まるで最初から存在しなかったかのように、

王の間からかき消えていた。


運命が変わった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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