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不幸少女は、二度目の人生で勇者を救いたい  作者: 梅道
第5章 魔王軍四天王リョウキ(回復を操る魔族) 編
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28.魔王の愛した女の血

前列の兵士たちが次々と倒れる。


誰も悲鳴を上げることができなかった。

あまりにも速すぎたからだ。


サクナ姫は剣を振り終えると、何事もなかったかのように静かに立っている。

その姿に、魔王軍の兵士たちは震え上がった。


「ば、化け物だ……」


「本当に人間なのか……?」


兵士たちの声はかすれていた。

その様子を少し離れた丘の上から見ていた男がいた。


魔族と人間のハーフ。

魔王軍のリョウキの一の部下、タイガーだった。


タイガーは額の汗をぬぐう。


タイガー「どうやって、この姫を誘拐すればいいんだ……」


彼は頭を抱えた。


今回の任務は簡単なはずだった。

王国の姫をさらう。それだけだった。


だが、実際に現れたのは、軍隊をひとりで押し返す最強の姫騎士だった。


タイガー「いや、無理だろ……」


思わず本音が漏れる。


隣にいた部下も真顔でうなずいた。


「無理ですね」


「無理だな」


「完全に無理です」


誰も反論しなかった。


タイガーは遠くにいるサクナ姫を見つめる。


サクナ姫は倒れた兵士たちの間を歩いている。

まるで散歩でもしているような落ち着きだった。


タイガー「なんで姫が最前線で戦ってるんだよ……」


部下が小声で答える。


「しかも一番強いです」


「知ってる」


「タイガー様より強いです」


「知ってる」


「たぶんタイガー様より――」


タイガー「それ以上は言うな」


全員が黙った。


そのときだった。

サクナ姫がふいにこちらを向く。


距離は何百メートルも離れている。

それなのに。

目が合った気がした。


タイガーの背筋を冷たい汗が流れる。


サクナ姫は首をかしげた。

そして小さく口を開く。


サクナ姫「……あれ?」


タイガー「ん?」


サクナ姫「もしかして、恐怖でふるえているのかな?」


タイガー「なんて?遠くって、何いってるかわからない!!」




そのころ、勇者アイカと魔王軍四天王リョウキは、激しい殴り合いを続けていた。

いや、激しいというよりは泥仕合だった。


ドゴォン!!


リョウキの巨大な拳がアイカの顔面にめり込む。


普通の人間なら頭ごと吹き飛んでいる一撃だ。

しかしアイカは吹き飛ばされながらも立ち上がる。


アイカは異世界召喚特典によって、鋼鉄よりも硬い肉体を手に入れていた。

一方のリョウキは、どんな傷でも瞬時に再生する能力を持つ。


つまり。


倒れない相手と、死なない相手。

最悪の組み合わせだった。


だが、戦況はアイカに不利だった。

リョウキの身長は五メートルを超える。


巨大な腕。

圧倒的なリーチ。


アイカは近づく前に何度も殴り飛ばされている。


アイカ「ぐっ……!」


リョウキ「どうしたァ!!」


ドゴォッ!!

また拳が飛ぶ。


アイカの身体は転がり、地面を削った。


少し離れた場所では、三人がその戦いを見守っていた。


ナギ「どうしよう!」


バイオレット「どうしようか」


マイマイ「うーん、どうしますか?」


三人とも戦闘向きではない。


できることは見守るだけだった。

サクナ姫は向こうで魔王軍を圧倒している。


しかしアイカは違う。このままでは負ける。


ナギは不安そうにマイマイを見た。


ナギ「マイマイさんは、どんな能力を持っているんですか?」


マイマイは少し胸を張る。


マイマイ「どんな怪我でも、死んでいなければ治せます」


ナギ「すごい!」


マイマイ「それから、どんな呪いでも解除できます」


ナギ「万能じゃないですか!」


バイオレット「でも今の状況じゃ役に立たねえ!!」


マイマイ「あうっ……」


マイマイはしょんぼりした。


そのときだった。


マイマイが急にナギの顔をじっと見つめる。


マイマイ「あれ?」


ナギ「どうしました?」


マイマイ「ナギさん……呪われていますね」


ナギ「え?」


バイオレット「は?」


マイマイの表情が真剣になる。


マイマイ「こんな強い呪い、見たことありません」


ナギの背筋が寒くなった。


マイマイはそっと手を伸ばす。


マイマイ「解除します」


ナギ「お願いします」


マイマイ「聖浄解呪セイント・リリース


光が溢れた。


次の瞬間。


ナギの身体から黒い蒸気が噴き出した。


ドロドロとした闇。

見ているだけで不気味になるほど禍々しい。


ナギ「な、なにこれ!?」


バイオレット「うわっ!」


黒い蒸気は空へ昇り、ゆっくり消えていった。


その光景を。


リョウキは見ていた。


巨大な身体が固まる。


アイカ「え?」


リョウキ「……」


リョウキは動かなかった。

拳も止まる。

呼吸すら忘れたようだった。


なぜなら。


あの黒い蒸気を知っていたからだ。

魔王様の呪い。

それも特別な呪い。


昔。


魔王様がただ一人愛した人間の女。


その女と、その子孫へ永遠に続くよう刻まれた呪い。


リョウキは魔王から生み出された分身に近い存在だった。

だからこそ知っている。

魔王の記憶の一部を。そして理解した。


目の前の少女。


ナギは、あの女の血を引いている。


リョウキの口元がゆっくり歪む。


そして。

笑った。


リョウキ「ククク……」


アイカ「なんだ?」


リョウキ「ハハハハハ!!」


巨大な笑い声が戦場に響く。


リョウキは大声で叫んだ。


リョウキ「タイガー!!」


戦場全体が止まる。


魔王軍も。


勇者パーティーも。


サクナ姫ですら動きを止めた。


サクナ姫「なに?」


リョウキは満面の笑みを浮かべる。


リョウキ「作戦変更だ!!!」


タイガー「は?」


リョウキ「サクナ姫の誘拐は中止だ!!」


タイガー「え?やった!!」


魔王軍全体が混乱した。


今まで何のために戦っていたのか。


誰も理解できない。


だがリョウキは構わず叫ぶ。


リョウキ「勇者パーティーにいる!!」


巨大な指がナギを指した。


ナギ「え?」


リョウキ「“ナギ”という少女を魔王様のもとへ連れて行け!!」


静寂。


全員の視線がナギへ集まる。


ナギ「わ、私?」


タイガーは少し考えた。


そして即答した。


タイガー「了解しました」


サクナ姫「どうして、ナギちゃんを狙う?」


タイガー「わからない」


タイガー「でも、リョウキ様の命令は絶対だ。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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