27.策士策に溺れる
バイオレットは、なぜか胸を張っていた。
その姿には根拠というものが存在しないのに、本人の中では「勝利確定の瞬間」に立ち会っているような確信だけがある。
バイオレット(これだ。これしかない。完璧なはずだ)
内心では不安を打ち消すように、何度も同じ言葉を反芻していた。
バイオレット「今世紀最大の作戦はこれだ!!」
声は大きい。だが、その裏にあるのは“自分が信じきらないと崩れる計画”への必死さだった。
バイオレット「ワン!ツウ!!スリー!!!」
叫ぶことで、迷いを押し流す。
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【バイオレットの作戦】
サクナ姫そっくりの“人形(中身:メイメイ憑依)”を使い、敵の注意を逸らす。
その隙に撤退。
サクナ姫の姿は敵陣営でも識別優先度が高い。
その“視覚誘導”を使えば、注意は確実に分散する。
さらに中身がメイメイである、どうなってもかまわない。
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冷静に考えれば、だが。アイカは小さく息を吐いた。
アイカ(もうどうでもいいか……)
アイカ(どうせ、いい案がないし)
バイオレットの作戦がほんのわずか、救いを感じている自分がいる。
本当は分かっている。こういう作戦ほど、想定外が起きる。
それでも彼は、わざと軽く頷いた。
アイカ「なるほど、戦わなくて済むな」
期待していない分だけ、失敗しても心が削れないようにするための防御反応だった。
一方でサクナ姫は、明確に感情が爆発していた。
サクナ「そそそそんなぁ!?私戦いたいのに!!」
胸の奥が熱い。認められたい。役に立ちたい。
自分の剣が必要とされる場面でありたい。
それなのに「逃げる作戦」。
サクナ(私は……守られるだけの存在じゃないとアイカに証明したいのに)
悔しさと焦りが混ざり、拳が震えていた。
そして作戦は実行される。
大聖堂前。空気は異様に静かだった。
静かすぎて、逆に“ここから何かが壊れる”という予感だけが膨らんでいく。
リョウキがそこにいるだけで、世界の温度が下がる。
アイカ(……こいつが、本物の化け物か)
アイカは直感していた。理屈ではない。経験でもない。
「勝てるかどうか分からない相手」を前にしたときだけ生まれる、あの嫌な感覚だった。
その前に現れた人形。
サクナの姿。
中身が別物だと分かっているのに、それでも敵が反応するかどうかは賭けだった。
人形が動く。不自然な軽さで、左へ走る。
その瞬間。
バイオレット(頼む……引っかかれ)
バイオレットの願いは祈りに近かった。
理屈ではなく、希望だけで押し切る作戦。
リョウキ「……ん?」
リョウキの視線が止まる。
ほんのわずかな“間”。
それを見た瞬間、バイオレットの胸に火が灯る。
バイオレット(今のは“反応の揺れ”だ……!)
バイオレットの中で、確信に近い誤解が生まれる。
バイオレット「よし!食いついた!」
成功した可能性に、脳が一気に賭けに傾く。
だが次の瞬間。
リョウキ「半数は追え」
リョウキ「残りはここだ」
冷静すぎる判断。
“引っかかったように見えて、引っかかっていない”という最悪の現実。
バイオレット「なんでやねん!!」
バイオレットがアイカに突っ込みを入れる。
アイカ(あ、こいつ……殺してやろうか)
アイカのバイオレットに冷たい目線を送った。
ナギ「え、分けた!?」
ナギの声には恐怖というより、“理解できない現実への拒絶”が混じっていた。
マイマイは淡々と現実を受け入れる。
マイマイ「……うん、普通に対応されたね」
マイマイ(やっぱりな)諦めに似た納得。
バイオレットは一瞬だけ固まる。
バイオレット(え?これって……成功じゃないの?)
成功している“可能性”だけを見ようとする思考。
しかし、その希望はすぐに現実に押し潰される。
アイカ「いや、普通に大大大失敗だろ」
アイカの言葉は冷たいが、正確だった。
バイオレット(あ、ダメか……)
バイオレットの中で何かが静かに折れる。
バイオレット「あちゃ~!!」
バイオレットは笑いだした。
その時。
リョウキ「出てこい、勇者」
リョウキの声。空気が一段深く沈む。
アイカ(バレてる)
アイカの思考は単純だった。
驚きよりも、“やっぱりか”が先に来る。
驚く余裕がもうない。
サクナ姫はその瞬間、限界を超えた。
サクナ姫(守られるだけじゃない)
サクナ姫(ここで動かなきゃ、アイカの中で、私はずっと“姫”のままだ)
サクナ姫「戦おう!!」
剣を抜く。その動作には迷いがない。
迷い続けていた心が、ついに一点へ収束した瞬間だった。
サクナ姫「私は戦う!!」
叫びと同時に、感情が爆発する。
戦場に飛び込む。怖さはある。
死ぬ可能性も理解している。
それでも、それ以上に“何もしない自分”が嫌だった。
アイカ「姫様!!!!」
アイカの声。声が追いついていない。
バイオレットはその姿に、別の感情を抱く。
バイオレット(ああ……)
バイオレット(サクナ姫の怒った顔かわいいな)
でも、目の前にあるのは“想定外の正解”だった。
ナギ「カッコイイ!!」
思わず出た声は、悔しさでも敗北感でもなく、純粋な賞賛だった。
ナギは圧倒されていた。
ナギ(人って、あんなふうに動けるんだ……)
恐怖の中で、尊敬が生まれる。
アイカは一歩下がる。
アイカ(もういい。考えるのやめる)
そして思考を戦闘用に切り替える。
この瞬間、彼の中で“諦め”は“覚悟”に変わった。
リョウキはサクナを見ていた。
リョウキ「さすがだな、人類最強の姫騎士だ」
そこにあるのは評価でも侮りでもない。
ただ“当然の結果を観測している目”だった。
アイカはリョウキを見つめる。
アイカ(デカすぎるだろ……)
恐怖はある。だが同時に、奇妙な冷静さもある。
アイカ(どうせやるしかない)
リョウキが言う。
リョウキ「では、始めようか」
アイカは息を吐いた。怖い。勝てる保証はない。
それでも
アイカ「……やるしかねぇか」
そして小さく続ける。
アイカ「なんで毎回こうなるんだよ」
最後まで読んでいただきありがとうございます。




