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不幸少女は、二度目の人生で勇者を救いたい  作者: 梅道
第5章 魔王軍四天王リョウキ(回復を操る魔族) 編
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26.策士爆誕?

真夜中。


大聖堂を包む静寂は、まるで世界そのものが息を潜めているかのようだった。


だが、その静寂の外では。


無数の松明が夜の闇を赤く染めていた。


魔王軍四天王リョウキ率いる軍勢。

黒い鎧をまとった兵士たちが大聖堂を完全に包囲し、空には巨大な魔獣が旋回している。


重苦しい圧力が空気を震わせた。


大聖堂の正門前。

勇者アイカたちは、迫る絶望を前に立ち尽くしていた。


サクナ「どうしますか!! 戦いますか?」


サクナ姫は剣を握りしめ、瞳を輝かせていた。

その顔には恐怖よりも闘志が浮かんでいる。


しかし、アイカは首を横に振った。


アイカ「無理だ」


低い声だった。


アイカ「逃げるべきだろ」


視界を埋め尽くす敵軍。


数千はいる。

勝てる戦いではない。


メイメイが宙に浮かびながら眉をひそめた。


メイメイ「うん、でもどうやって逃げるんだ?」


メイメイ「そもそも大聖堂には、戦えない一般人が多くいるぞ」


メイメイ「どうやって、逃がすんだ?」


アイカは黙った。


その問いに答えられなかった。


彼の頭の中にあったのは、ただ一人ナギだけだった。


ナギさえ守れればいい。


それ以外の人間を守る余裕など、自分にはない。


そんな冷たい考えが胸の奥に沈んでいた。


ナギ「アイカ君、どうするの?」


ナギの声。


サクナ「勇者アイカ!!」


サクナの叫び。


メイメイ「アイカ!!」


バイオレット「アイカ!!」


全員の視線が集まる。


逃げ場はない。

戦えば全滅。

逃げたら一般人を犠牲にする。


アイカは乾いた笑みを浮かべた。


アイカ「俺の悪運は、ここまでか」


その瞬間。


サクナ姫が勢いよく剣を抜いた。


サクナ「どうせ散るなら、戦おう!!」


バイオレットも震える手で杖を構えた。


バイオレット「覚悟はできているぜ。相棒」


声は震えていた。だが、その瞳は逃げていない。


メイメイは苦笑した。


メイメイ「俺は、もうすでに死んでいる」


幽体の身体が青白く揺らめく。


アイカは静かにナギを見つめた。


アイカ「ナギ、どうしたい?」


ナギは小さく微笑んだ。


ナギ「私が過去に戻ってやり直しをしているのは、前に話したよね」


アイカ「ナギ? 急になんだよ?」


彼女は少し寂しそうに笑った。


ナギ「アイカ君が死んだ未来は、つらかったんだ」


その言葉に、空気が止まる。


ナギ「私は、あなたと一緒に死ねるなら本望だよ」


アイカは息を呑んだ。

胸の奥を何かが強く締めつける。


アイカ「…………」


逃げたいと思っていた。


生き延びたいと思っていた。


だが。


ここで、ナギと一緒に逃げたら、ナギにふさわしい男として生きることができない。


そんな気がした。


アイカはゆっくりとこぶしをかまえた。


金属音が真夜中に響く。


アイカ「たたかいたくない」


アイカ「にげたい」


アイカ「でも」


アイカ「ここで逃げたら、おれは一生後悔する」


アイカ「みんな、一緒に戦ってくれ!!」


その瞬間。

 

サクナ姫とメイメイが笑った。


バイオレットは震えながらも笑っている。


絶望の中で、それでも彼らは前を向いた。


すると。


マイマイ「わたしも、戦います」


鈴のような声が響いた。


アイカたちの前に、小柄な少女が立っていた。


幼い。


だが、その身体から放たれる神聖な魔力は圧倒的だった。


アイカ「どなたですか?」


アイカが尋ねる。


ナギは目を見開いた。


(この子……知ってる)


前世の記憶。


勇者一行の最後の希望。


すべての呪いと傷を癒やす奇跡の聖女。


大聖女マイマイ。


少女はぺこりと頭を下げた。


マイマイ「あなた達と一緒に魔王を討伐するように言われました」


アイカ「だれに?」


マイマイ「わかりません。私の頭に直接声が流れてきました」


アイカは「あっ」と声を漏らした。


アイカ「あー、俺がこの世界に召喚されたときの世界の管理人か」


とんでもないことをサラッと言った。


サクナ「世界の管理人!?」


サクナが目を見開いて叫んだ。


サクナ「アイカ、そんな存在と話してたことが!?」


サクナも思わずツッコむ。


アイカ「まぁ、なぁ」


サクナ「詳しく聞きたいな!?」


サクナが即座に返す。


アイカは肩をすくめた。


アイカ「なんか白い空間にいてさ」


アイカ「一方的に力与えるから魔王倒せ、みたいなテンションだったぞ?」


あまりにも雑な説明だった。


だが、その場の空気は少しだけ和らぐ。


極限状態だからこそ、くだらない会話が妙に心を軽くしていた。


その時だった。


ドゴォォォォン!!


大聖堂全体が激しく揺れる。


壁の亀裂から砂埃が舞い落ちた。


魔王軍の攻撃だ。


だが次の瞬間、別の意味で衝撃が走った。


バイオレットがハッと顔を上げたのである。


バイオレット「私、天才かもしれません」


真剣な顔だった。

嫌な予感しかしない。


バイオレット「この絶望的な状況をひっくり返す手を思いつきました」


バイオレットは自信満々に胸を張った。


ナギが目を輝かせる。


ナギ「本当?」


しかしアイカは即座に遮った。


アイカ「だまれ、しゃべるな。疫病神」


バイオレット「ひどくない!?」


バイオレットが叫ぶ。


アイカは本気で警戒していた。

こいつが自信満々な時は、大抵ろくでもないことになる。


だがバイオレットは怯まない。


むしろ得意げに頷いた。


バイオレット「今回は違います!」


そう言って杖を構える。

魔力が渦を巻き、光が弾けた。


バイオレット「よ!!!」

間の抜けた掛け声と共に、光の中から人影が現れる。


そこに立っていたのは。


サクナ「わたしだね」

サクナ姫そっくりの人形だった。


服装も髪型も完全再現。


サクナ本人が困惑している。


バイオレットは人形を指差した。


バイオレット「これを使って、誘導する」


その瞬間。


メイメイの目が見開かれた。


何かを察したらしい。


メイメイ「バイオレット……君は天才か!!」


急にテンションが上がる。


サクナだけが話についていけていない。


サクナ「え? なに? どういこと?」


アイカは嫌な予感しかしなかった。


アイカ「おい待て」


だが、メイメイとバイオレットはすでに盛り上がっている。


二人の顔には、悪党みたいな笑みが浮かんでいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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