22.憑依
美少女たちが、まるでフィギュアみたいに透明なガラスへ閉じ込められている。
王の間は、豪華なのにどこか不気味だった。
その中央。
高い玉座に座る魔王軍四天王・ユウキュは、頬杖をつきながら感心したように目を丸くする。
ユウキュ「いやぁ、すごいな」
その視線の先には、ようやく王の間へ辿り着いたナギたち。
特にアイカの状態は深刻だった。
服は裂け、呼吸は荒く、立っているのが不思議なほど消耗している。
ユウキュ「あの数の魔族に囲まれて、よくここまで来れたねぇ」
ここへ来るまで、ナギたちは大量の魔族兵に追い回されていた。
普通なら、とっくに詰んでいる状況。
しかし。
戦い方は、ただひとつ。殴る。それだけだった。
ナギは引きつった笑みを浮かべる。
ナギ「アイカ君って、なんだかんだ強いよね……。ほとんど拳で全部解決しようとするとこあるよね。」
メイメイも、ふよふよ浮かびながらうんうん頷く。
メイメイ「うん。魔王軍四天王のハラヤもグーパンだったし、かなり脳筋だよね」
アイカ「誰のせいだと思ってんだ……」
疲れ切ったツッコミが、静かな王の間に虚しく響いた。
フィギュアのように透明なガラスケースへ閉じ込められている聖女・マイマイは、きらきらと目を輝かせながらアイカたちを見つめていた。
その表情は、不安よりも希望に満ちている。
聖女マイマイは、“お告げの声”によって知っていたのだ。
**自分を助けに来る者たちがいることを。**
そして今、その予言通りに勇者アイカたちはここへ辿り着いた。
王の間の最奥。
玉座へ深く腰掛けた魔王軍四天王・ユウキュは、まるで緊張感のない様子で肩をすくめる。
ユウキュ「できれば、帰ってもらえると助かるんだが」
あまりにも軽い口調だった。
ユウキュ「俺はただ、人間の女の子が好きなだけだ。世界をどうこうする気はない」
ユウキュ「君たちに、別に迷惑かけてないだろ?」
アイカは「うーん」と少し考えてから頷いた。
アイカ「たしかに。俺、世界が魔王に支配されても別にいいしな」
ナギ「よくないよ!?」
即座にツッコミが飛ぶ。
ナギは慌ててアイカの前へ出た。
ナギ「王様と約束したでしょ! 魔王城に誘拐されたサクナ姫を助け出すって!」
ナギは必死に説得を続ける。
ナギ「それに、魔王城の結界を解除するには、魔王軍四天王を全員倒さないといけないんだよ!? 忘れたの!?」
アイカ「あー……そうだったな」
アイカは本当は戦いたくないが、アイカはナギに甘いので受け入れることにした。
そしてそのまま、ユウキュへ視線を向ける。
アイカ「ユウキュ、悪いな。そういうことだ」
ユウキュ「……そっか」
ユウキュは小さく息を吐き、残念そうに目を細めた。
ユウキュ「それは、残念だね」
次の瞬間。
ユウキュは、静かに呟く。
ユウキュ「憑依」
空気が、ぞわりと震えた。
その瞬間、玉座に座っていたユウキュの体から、黒い靄のようなものがふわりと抜け出す。
そして。
ユウキュの肉体は、そのまま力を失ったように玉座へ沈み込んだ。
まるで、魂だけが抜け落ちた抜け殻のように。
ナギ「……え?」
アイカも眉をひそめる。
そのとき。
近くにいた魔族の部下が、無言で一つのガラスケースへ近づいた。
カチリ。
重い施錠が解除される。
ゆっくりと開かれた透明な扉。
その中にいたのは。
豪華なゴスロリ衣装をまとった、金髪碧眼の美女だった。
透き通るような白い肌。
人形のように整った顔立ち。
金髪がさらりと揺れ、青い瞳がゆっくりと開く。
その姿を見た瞬間。
アイカとナギの表情が固まった。
ナギ「うそ……」
バイオレット「わぁおーーー!! めっちゃタイプ」
アイカ「サクナ姫!!!!!!!!!!!!!」
ガラスケースから出てきたサクナ姫は、ゆっくりと床へ降り立つ。
その動きは優雅で、美しかった。
すると、控えていた魔族の部下が恭しく剣を差し出す。
サクナ姫、いや、サクナ姫へ憑依したユウキュは、それを軽く受け取った。
細い指が、剣の柄を握る。
その瞬間。
空気が変わった。
ユウキュ「さて」
サクナ姫の姿のまま、ユウキュはにこりと笑う。
ユウキュ「人類最強の姫騎士サクナたんに、勝てるかしら?」
ぱちん、と片目を閉じてウインクした。
恐ろしく可愛い。
なのに、めちゃくちゃ嫌だった。
メイメイは完全に固まっていた。
メイメイ「……意味がわからない」
ぽつりと呟く。
メイメイ「なんで、サクナ姫がこんなところにいるの?」
メイメイ「サクナ姫は、魔王城に監禁されてるはずでしょ……?」
ナギも混乱したように目を見開く。
たしかにそうだ。
王から依頼された内容は、“魔王城へ連れ去られたサクナ姫の救出”。
なのに。サクナ姫は今、魔王軍四天王ユウキュの部屋にいる。
メイメイ「ユウキュ!! どういうことだ!」
王の間に、メイメイの怒声が響く。
サクナ姫の姿をしたユウキュは、その声にゆっくりと視線を向けた。
青い瞳が、ふわふわ浮いている魔族の男を映す。
そして、少しだけ目を丸くする。
ユウキュ「……おまえこそ、どういうことだ?」
ユウキュの声には、純粋な困惑が混ざっていた。
かつてメイメイは、魔王軍四天王の一人だった。
だが勇者との戦いで敗れ、死んだはずの存在。
なのに今、普通に空中を漂っている。
メイメイは腕を組み、ふんっと鼻を鳴らした。
メイメイ「死んで、幽霊になって、勇者の仲間になっただけだ」
さらっと、とんでもない経歴を口にする。
メイメイ「次はお前の番だ。説明しろ」
ユウキュ「あー……」
サクナ姫の姿のまま、ユウキュは少し気まずそうに頬をかいた。
ユウキュ「かわいいだろ。この娘」
ユウキュ「魔王城に監禁されてるの、もったいないと思ってさ」
ユウキュ「魔王様に内緒で、こっちに連れてきたんだよ」
メイメイが即座に眉をひそめる。
ユウキュ「お前は本当に、無茶苦茶だよな」
メイメイ「お前は本当に、無茶苦茶だよな」
ほぼ同時に同じことをいう元同僚たち。
どっちもどっちである。
そのとき。
小さな声が漏れた。
サクナ姫「……たすけて」
声の主は、ユウキュに憑依されているサクナ姫だった。
だが、その口調はどこか不自然で、まるで別の誰かが喋っているようだった。
ユウキュは困ったように肩をすくめる。
ユウキュ「サクナたんは意思が強くてさ。完全には憑依できてないんだよね」
ユウキュは楽しそうに続けた。
ユウキュ「でもねぇ、一生僕のものだからね。サクナたん。」
その言葉のあと、王の間が静まり返った。
さっきまでの空気が、少しだけ冷える。
ナギはぞわっとした。
ナギが震えた手でアイカの手を握る。
ナギ「……アイカ君。お願いサクナ姫を助けてあげて」
アイカは、一拍置いてから静かに言う。
アイカ「まかせろ」
それをみていた、バイオレットとメイメイは嬉しそうな顔をした。
そして、空気が、戦闘のそれへと切り替わった。
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