21.大大大ピンチ
馬鹿ブラザーズの足音が、大聖堂の石床に「コツ……コツ……」と不気味に反響する。
鹿頭の魔族は立ち止まり、周囲を見渡した。
鹿頭の魔族「うん、いねぇぞ」
馬頭の魔族も首を振るようにして、ゆっくりと周囲を見回す。
馬頭の魔族「そんなはずねぇ、ずら」
その視線が、不自然に正門近くの樽へと吸い寄せられる。
馬頭の魔族「おい、兄者。こんなところに樽あったけぇ……?」
鹿頭の魔族は腕を組み、首をかしげた。
鹿頭の魔族「小生は、わかんないぞ」
馬頭の魔族「……あやしい」
樽の中。
呼吸の音が、自分でもうるさく感じるほど大きい。
ナギは息を止めたまま、耳だけを研ぎ澄ませていた。
ナギ(いや……もうバレてるって……!)
隣の樽からは、アイカの殺気を含んだ呼吸がかすかに漏れてくる。
アイカ(小声)「バイオレット……あとで覚えとけよ……」
天井付近でふわふわ浮いているメイメイの声がふわふわと響いた。
メイメイ「それは、ユウキュ様の大切なものだから触ると怒られるぞ!」
アイカ(小声)「むりにきまってんだろ!!」
ナギは心の声で、(何のフォローにもなってない!!)
メイメイはそのまま天井をすり抜けるように移動し、二階へと消えていく。
馬頭の魔族がゆっくりと樽へ一歩近づいた。
馬頭の魔族「……なぁ兄者。これ、開けてみるか?」
鹿頭の魔族はしばらく考えたあと、深く頷いた。
鹿頭の魔族「弟よ、ユウキュ様の大切なものだから触ると怒られるぞ!」
馬頭の魔族「……たしかに」
沈黙。
そして馬頭の魔族は納得したように頷き、手を引いた。
馬頭の魔族「じゃあやめとくずら」
鹿頭の魔族「うむ、仕事に戻るぞ」
二体はそのまま踵を返し、正門を閉じると、再び外の警備へと戻っていった。
ギィィ……。
バタン。
重い門が閉じる音が、大聖堂に響く。
静寂。
樽の中で、ナギはようやく息を吐いた。
ナギ「……どういうこと……」
アイカ「警備員として終わってないか、あいつ等……」
隣では、バイオレットが小さく親指を立てていた。
バイオレット「ほらな?やはり、吾輩は天才である。」
三人は、樽の中からそろそろと這い出た。
冷えた大聖堂の床に足をつけた瞬間、ナギはようやく生き返ったように息を吐く。
ナギ「はぁ……助かった……」
アイカは立ち上がるなり、バイオレットを一瞥した。
アイカ「なんでだ。」
その一言には、もはや説教の余力すら残っていない呆れが滲んでいた。
バイオレット「いや、結果オーライってやつだろ?」
アイカ「どこがだよ」
そこへ、ふわりとメイメイが戻ってくる。
メイメイ「助かって、よかったね」
ナギはすぐに頭を下げた。
ナギ「ありがとうございます」
アイカも短く頷く。
アイカ「たすかったよ」
メイメイはにこっと笑ったあと、ふと思い出したように首を傾げた。
メイメイ「アイカ、良い報告と悪い報告があるけどどっちから聞きたい?」
アイカの頬に、うっすら汗が浮かぶ。
アイカ「おおお……じゃあ、良い報告から」
メイメイ「ユウキュがいる部屋と、そのルートを把握してきたよ」
ナギ「さすが!!」
ナギは思わず声を上げた。希望が一気に差し込む。
アイカは横目でバイオレットを見た。
アイカ「バイオレット、こういうのを天才っていうんだぞ」
バイオレット「ぐぐぐ……」
バイオレットは悔しそうに歯を食いしばる。
アイカ「で、悪い報告は?」
メイメイは一瞬だけ、虚ろな目をした。
アイカ「ききたくない」
アイカは何かを悟った。
メイメイ「ルートを把握するときに敵に見つかって、敵を連れてきてしまった」
ナギ「え」
メイメイは無表情のまま、ゆっくりと後ろを指さした。
その先。
大聖堂の奥から、ぞろぞろと押し寄せる魔族兵の群れ。
鎧の擦れる音、武器の軋む音、そして殺気。
空気が一気に重くなる。
アイカ「なにやってくれてんの」
その一言が、大聖堂の静寂をぶち壊すくらい綺麗に響いた。
……いや、綺麗というか、だいぶ怒ってる声だった。
正門がギィィィと嫌な音を立てて開き、例の“馬鹿ブラザーズ”が堂々と乱入してくる。
なぜかドヤ顔である。
アイカは一瞬だけ天を仰ぎ、
アイカ「もう知らん」
と小さくつぶやいてから、こぶしを構えた。
アイカ「メイメイ! バイオレット!!」
メイメイ「なんだい」
バイオレット「なにかしら」
アイカ「俺がこいつらをぼこぼこにする。その間、ナギを守れ」
アイカ「たとえ死んでも守れ」
メイメイ「いや、もう死んでるんだけどね?」
メイメイは幽霊である。
バイオレット「さすが、めいめい。天才か!!!」
アイカ「うるせぇ馬鹿ども!!」
馬鹿ブラザーズ「よんだか?」
バイオレット「おもしろいなぁ!!こいつら。」
アイカは魔族の兵隊へ向かって突撃というか、ほぼ転がる勢いで突っ込んだ。
こぶし一つ。
戦略ゼロ。
気合い百。
そして大聖堂に、激しい戦いが始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




