18.聖女は救われたい
マンマミーア村にナギたちが滞在しているその頃、
魔王四天王ユウキュに支配された大聖堂では、
聖女マイがユウキュに捕らえられていた。
マイには幼い頃から不思議な力があった。
手をかざすだけで傷は癒え、病は消える。その力はやがて「聖女の奇跡」と呼ばれ、人々に崇められるようになる。
しかしそれは祝福というより、人生を縛る仕様バグだった。
親は生活費という現実的な理由で、マイを教会に売った。
(あ、私は“この人たちの子供”じゃなくて“物”だったんだ)
その瞬間からマイの人生は「聖女業務(休みなし)」に固定される。
笑顔で治癒、笑顔で治癒、たまに感謝されるが基本は連勤地獄。
(私、いつ自由になるんだろうなぁ)
そんなある日。
大聖堂は魔王軍四天王・ユウキュによって突然襲撃された。
「ドゴォォォン!!」という派手な効果音とともに壁が消し飛び、
気づいたら教会は“経営権ごと”奪われていた。
男たちは地下の労働施設へ、
女たちは「美少女コレクション展示室」に搬送。
そしてマイも、その棚の一角に丁寧に並べられた。
ユウキュ「ディふでぃふ……ふふふ……マイマイ、こちらにおいで」
玉座に座るユウキュは、やたらと舞台演出じみた動きで手を広げている。
マイ「……はい」
ユウキュの部屋は奇妙だった。
壁には謎のアート作品。
たくさんの美少女のフィギア。
意味はわからないが、本人はとても誇らしげだった。
ユウキュ「マイマイ、今日も“美”を磨く時間だよ」
マイ「私は人形とかじゃないんですけど」
ユウキュ「まずは心の準備運動」
マイ「そんなの初耳です」
ユウキュ「では……いつもの“お願い”」
マイ「またそれですか」
ユウキュ「“いつもの”って言える関係、いいよね」
マイ「最悪の関係性です」
ユウキュ「まずは……“軽く頬を赤らめてみて”」
マイ「やりません」
ユウキュ「では2秒だけでも」
マイ「時間指定するのやめてください」
ユウキュ「じゃあ1.5秒」
マイ「きも!」
マイは諦めて、ほんのわずかに視線を外し、軽く表情を崩す。
ユウキュ「……っ!!」
ユウキュは机に手をついて震えた。
ユウキュ「今の……“儚さ”が完璧すぎる……!!」
マイ「あたま大丈夫ですか?」
ユウキュ「次は“ぶりっこ”」
マイ「それさっきの続き?」
マイは無表情のまま、ほんの少し首を傾ける。
ユウキュ「ッ……!!」
ユウキュ「世界が……かわいいに包まれた……!!」
マイ「どこが?」
ユウキュ「いいこと考えた……これだ」
ユウキュは真剣な顔で言った。
ユウキュ「肘と肘を合わせる“調和の儀”」
マイ「なんのためですか?」
ユウキュ「お願い致します。」
ユウキュ「よよよよよ!!!!」
マイ「説明になってないです」
仕方なくマイは腕を寄せる。
ユウキュ「……見えた」
マイ「何がですか」
ユウキュ「肘と肘を合わせられるのは、貧乳の証拠だよッ!」
マイの眉が、ぴくりと跳ね上がった。
その瞳には、怒りが宿る。
ユウキュ「でも心配しないで!」
ユウキュはへらへらと笑った。
ユウキュ「貧乳はステータスだからっ!」
その後もユウキュの“奇行”は止まらない。
ユウキュ「両手をグーして」
マイ「はい」
ユウキュ「首を傾けて!!!」
マイ「はい」
ユウキュ「両方のグーを頭の上に持ってきて」
マイ「はい」
ユウキュ「かわいい」
マイ「……」
マイ(この人、本当に魔王軍四天王なの?)
数日後。
ユウキュ「今日は特別メニューだ」
マイ「嫌な予感しかしないです」
ユウキュ「“無言で見つめ合う会”」
マイ「ただの沈黙ですよね」
ユウキュ「芸術です」
五分後。
ユウキュ「……」
マイ「……」
ユウキュ「今、心が通じた」
マイ「通じてません」
十秒後。
ユウキュ「涙が出そうだ」
マイ「それ疲れてるだけでは?」
さらに数分後。
ユウキュ「これは……恋……?」
マイ「違います。げろ吐きそうです」
そんな中でも、マイは冷静に分析していた。
ユウキュ「マイマイ、最後に一つ」
マイ「まだあるんですか」
ユウキュ「“心から嫌そうな顔”してみて」
マイ「今ずっとそれです」
ユウキュ「完璧だ……!!」
マイ「何がですか」
その日も、魔王軍四天王の拠点は平和だった。
ただしマイの精神は、そろそろこわれそうだった。
マイは心から思う。
マイ(誰かたすけて)
謎の声 (大丈夫、今日あなたは勇者に救われる)
マイ (!!!!!!)
謎の声(あなたに、真の聖女の力を授けます。この力で勇者とともに魔王をたおしなさい)
最後まで読んでいただきありがとうございます。




