17.設定が渋滞してるパーティに加入しました
穏やかな風が吹き抜ける、豊かな自然に囲まれたマンマミーア村。
ナギたちは、そののどかな村の広場に立っていた。
旅の疲れを軽く伸ばすように、ナギはカバンを地面に下ろすと、隣にいるアイカへと声をかける。
ナギ「今日はここで一泊しようか」
アイカ「ああ、そうだな」
短いやり取り。だが、その空気はどこか落ち着いていた。
その時。
バイオレット「うおおおおおおおおお!!」
突如として、場違いな絶叫が広場に響き渡る。
次の瞬間、一人の少年が砂煙を巻き上げながら、ものすごい勢いで三人、そしてふわりと浮かぶ幽霊の前を駆け抜けていった。
ナギ「……って、あれは」
ナギが目を瞬かせる。
その少年バイオレットの手には、ひときわ目を引く一本の杖が握られていた。
それにいち早く気づいたのは、アイカだった。
アイカ「……おい、そこの少年!」
鋭い声が飛ぶ。
呼び止められたバイオレットは、数歩先で急停止し、息を切らしながら振り返った。
バイオレット「な、なんですか……っ」
アイカ「その杖……元勇者のものにそっくりだな」
その言葉に、バイオレットは目を丸くする。
呼吸を整えながら、彼はどこか困惑した様子で語り始めた。
バイオレット「さいきん、謎の声が聞こえてさ……そしたら突然、目の前にこの杖が現れたんだ」
アイカ「謎の声……?」
アイカの眉がわずかに動く。
その横で、ナギがくいっとアイカの服を引っ張った。
ナギ「……ちょっと」
背伸びをして、アイカの耳元へ顔を寄せるナギ。
それに合わせて、アイカも少しだけ腰を落とした。二人の身長差が自然と距離を縮める。
ナギは声を潜める。
ナギ「この人……私の“前の人生”の記憶だと、アイカたちと一緒に魔王を倒した人だよ」
アイカ「……っ!?」
なぜか、アイカの頬がわずかに赤くなる。
コホン、と小さく咳払い。
何事もなかったかのように顔を上げ、バイオレットへ向き直った。
アイカ「その声は俺をこの世界に召喚した、“この世界の管理者”だ」
バイオレット「えっ」
ナギと、横で漂っていたメイメイが同時に目を見開く。
バイオレット「なんだってー!?」
バイオレットも盛大に驚いた。
一拍の間を置いて、バイオレットはおそるおそる問いかける。
バイオレット「あなたが……勇者、なんですか?」
アイカ「……」
バイオレット「謎の声は言ったんだ。“勇者と一緒に世界を救え”って」
沈黙が落ちる。
風が、ひゅるりと草を揺らした。
やがて
アイカ「多分、その勇者だ。おそらく」
歯切れの悪い肯定。
だが、その言葉を聞いた瞬間
バイオレットは両手を大きく広げ、空へ向かって叫んだ。
バイオレット「マンマミーーーア!!!(なんてこった)」
*
なんやかんやあり。
アイカたちはバイオレットとともに、村の飲食店へと入り、同じテーブルを囲んで食事をとることになった。木のテーブルに料理が並び、ようやく落ち着いたところで、ナギが小さく手を叩く。
ナギ「まずは、自己紹介」
場を仕切るように、ナギは姿勢を正した。
ナギ「私は、勇者の仲間のナギです」
一拍置いて、隣を指さす。
ナギ「そして、この幽霊は元魔王軍四天王のメイメイさんです」
メイメイ「よう!!」
軽いノリで手を振るメイメイ。
バイオレット「……はあ?」
バイオレットは間の抜けた顔で固まった。
無理もない。
情報量が多すぎる。
コホン、とアイカが咳払いをひとつ。
アイカ「俺はアイカ。一応、勇者だ」
ぶっきらぼうに名乗ると、そのまま視線を向ける。
アイカ「君の名前は?」
バイオレット「バイオレット!!これからもよろしく!!」
勢いよく答え、にかっと笑う。
そのまま二人は手を差し出し、がしっと握手を交わした。
短いが、確かな契約のような瞬間。
アイカはふと、彼の手にある杖へと目をやる。
アイカ「ちなみに、その杖は使ってみたのか?」
バイオレット「いや、使ったことはねぇな」
アイカ「そうか。なら、使い方を教えてやる」
そう言うと、アイカはテーブルの上のコップを手に取り、入っていた水を一気に飲み干した。
空になったコップを、コトンと置く。
アイカ「バイオレット。杖を構えて、そのコップに向けろ」
バイオレット「お、おう!」
バイオレットは椅子から勢いよく飛び降り、杖を握りしめると、言われた通りコップへと向けた。
アイカ「コップに水があるイメージをしろ」
バイオレット「水……水水水!!」
半ば気合いのような叫び。
次の瞬間。
空だったはずのコップに、透明な水がすっと現れた。
ナギ「……えっ」
バイオレット「うそ……」
ナギとバイオレットの声が重なる。
アイカは小さくうなずいた。
アイカ「そう。その杖は“イメージを具現化する”」
淡々とした説明。
しかし、その力の異常さは隠しきれない。
アイカ「だから、前任者。異世界から来た勇者で、その杖を持っていたやつは……最強だった」
(……まあ、俺がいた世界の方が科学は発展しるから、近代兵器作ったりしてたし)
心の中でだけ、ぽつりと付け加える。
バイオレットは、目を輝かせたままコップと杖を見比べていた。
まるで、新しい世界の扉が開いたかのように。
アイカはそんな彼を見て、わずかに口元を緩める。
アイカ「これからよろしくな」
その言葉に、バイオレットは力強くうなずいた。
こうして。
魔法使いバイオレットが、正式に仲間に加わった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




