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不幸体質の私、勇者の死亡フラグを折ったら世界が詰みました  作者: 梅道
第4章 魔王軍四天王ユウキュ 編 (前編)
16/19

16.勇者が来るらしいので仲間になります

魔王軍四天王の一角のハラヤが討たれた。

その報せは、恐怖に覆われていたピピン王国全土を静かに、しかし確実に震わせた。

重く垂れ込めていた不安と絶望は、まるで夜明けの霧のように少しずつ薄れていく。


囚われていた王族たちは解放され、衰えた足取りながらも再び王城へと戻る。


支配者であった魔族たちは威光を失い、統率を欠いたまま各地へと敗走していった。


そして、すべてが終わった後。


舞台は、荒れ果てた王の間。


かつては絢爛豪華を誇ったであろうその空間は、今や見る影もない。

ひび割れた床、裂けたカーテン、崩れた柱。戦いの爪痕が、無残な形で残されている。

玉座に座る王の衣は破れ、王冠も歪んでいた。顔には深い疲労が刻まれ、その眼差しからは長き苦難の重みがにじみ出ている。


王はゆっくりと口を開いた。

王「……みすぼらしい姿で、申し訳ない」

静かだが、確かな重みを持つ声だった。


王「勇者アイカ、そして仲間たちよ。魔王軍四天王ハラヤの討伐、心より感謝する」


一瞬、言葉を区切る。


王「本来であれば、相応の褒美を授けるべきなのだが……」

王の表情が曇る。


王「財宝はすべて、ハラヤに奪われてしまった。今、与えられるものが……何一つ、ないのだ」

その言葉は、王としての無力さを露わにしていた。


対するアイカは、わずかに首を横に振る。

アイカ「いえ、期待していません」

あまりにも淡々とした返答だった。


アイカの胸にあるのは、達成感よりもむしろ疲労と、そしてわずかな嫌な思い出。


アイカ(早く、ここを離れたい)

ただ、それだけだった。


場が静まり返る。


王は視線を落とし、やがて意を決したように顔を上げた。

王「……ならば、アイカ殿。貴族階級――男爵位を授けようではないか!」


アイカ(鬼のようなこと言ってくるなこの王様)

アイカ(絶対いやだよ)


アイカ「いえ、遠慮します」

即答だった。


間を置かぬ拒絶に、空気がわずかに軋む。



そのとき



「まあまあ、そのお話は後にして」

場の空気をやわらかく包み込むように、王の妃が微笑んだ。


王の妃「まずはお食事にいたしましょう?」

その声には、不思議と人の心を和らげる力があった。


妃は側近に目を向ける。


王の妃「アイカ様とその仲間たちを、食事の間へご案内してちょうだい」

一礼した側近に導かれ、勇者一行は静かにその場を後にする。

去っていく背中を見送りながら、妃はそっと王の肩に手を置いた。


王の妃「私たちも……ご飯にしましょう、あなた」

その笑顔は、疲れ切った王の心をそっと支えるような、やさしい温もりに満ちていた。



そのときだった。



メイメイ「ふよよよよ〜〜〜っ!」

場違いに明るい声とともに、ふわり、と何かが宙に現れる。

半透明の男、霊体のメイメイが、王の間をくるくると飛び回り始めたのだ。

まるで祝福の舞でも踊っているかのように、くるり、ひらりと軽やかに。


メイメイ「わーい! 終わった終わったー!」

無邪気な声が響く。


王「なっ……!? な、何だこれは!?」

王は目を見開き、腰を浮かせる。


王の妃「ひゃああああ!?」

王妃も思わず声を上げ、その場にへたり込んだ。


二人は顔を見合わせ、そして同時にメイメイを見る。

王「ゆ、幽霊……?」


王の妃「幽霊ですわね……!?」

完全に混乱していた。


そんな様子などお構いなしに、メイメイはさらにぐるぐると旋回する。

メイメイ「平和だねー! 平和って最高ー!」


王の間に、不思議な賑やかさが戻る。

荒れ果てた城の中に、ほんの少しだけ確かな「日常」が顔を覗かせた瞬間だった。

王城には、少しずつではあるが、かつての平和が戻り始めていた。





一方。


その喧騒とは無縁の場所、マンマミーア村。


どこまでも広がる草原の中を、一人の少年が歩いていた。

肩には一本の木の枝。まるで剣のつもりなのだろう。

バイオレット「俺の名前はバイオレット!」


鼻歌混じりに、彼は声を張り上げる。

バイオレット「ビッグになってやる……世界一ビッグな男に!」


くるりと回り、枝を振るう。

バイオレット「ふふふふ!!!! ワイワイ!!!」

身長170cm、17歳。


根拠のない自信に満ちたその笑顔は、どこまでも眩しい。

青空の下、その声は風に乗って遠くまで響いていく。


そのとき。

「バイオレット。世界を救いなさい」

不意に、声が響いた。


バイオレット「……だ、誰だ!?」

少年は慌てて辺りを見回す。しかし、そこには誰もいない。


次の瞬間


何もない空間から、一本の杖がゆっくりと現れた。

淡い光をまといながら、静かに降下し、地面へと突き刺さる。


「そ、その杖は……?」

「異世界から来た勇者が使っていた、魔法の杖です」


バイオレット「おおおおおおおお!!!!」

目を輝かせ、バイオレットは駆け寄る。


「想像した道具を、10分だけ具現化できます」


バイオレット「すげえええええ!!!」

心の底からの歓声だった。


「数日後、この村に勇者が現れます」

その言葉に、彼の動きが止まる。

「仲間になるのです」


バイオレット「勇者……!」


次の瞬間、その顔が一気に輝いた。

バイオレット「かっこいい!!」

迷いはなかった。

恐れもなかった。

あるのは、ただひとつ

胸いっぱいに広がる、期待と興奮だけ。


バイオレット「待ってろよ、勇者ーーーっ!!」

バイオレットは杖を掴み、草原を駆け出した。


風を切りながら走るその姿は、まるで物語の始まりを告げるかのように。


新たな運命が、今まさに動き出そうとしていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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