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15.魔王の記憶 その2

魔王軍四天王の一角のハラヤが、勇者アイカによって討たれた。


その報せは、ハラヤの部下たちの間に静かな波紋を広げる。

やがて彼らは堰を切ったように、一斉に逃げ出した。


そのときだった。


魔王軍の裏切り者、メイメイの意識に、突如として異質な記憶が流れ込んできた。


メイメイ(……これは、記憶?)


他人のもの、しかも、強烈な感情を伴った映像が、脳裏を焼きつくように駆け巡る。

視界が切り替わった。


一面に花が咲き誇る丘。

その中心に、黒衣をまとった魔王が立っている。


風が花弁をさらい、彼の足元へと舞い落ちていく。

その正面には、一人の人間の女性。

どこかナギに似た面影があった。


魔王の表情は、普段の冷酷さとはまるで違う。

ぎこちなく、それでいて真剣だった。


魔王「種族の壁があることくらい、わかっている」

低く、わずかに震える声。


魔王「それでも……この気持ちは止められない」

拳を握りしめ、ほんの一瞬目を伏せる。


そして顔を上げ


魔王「あなたが……好きです」

不器用で、真っ直ぐな告白だった。


しばしの沈黙。


風が止み、花弁が地に落ちる音さえ聞こえそうな静寂の中、女性は魔王を見つめる。


そして、ふっと、笑った。

はにかむように見えたその笑みは、次の瞬間、鋭く歪む。


女性「いや、その顔で告白すんの、気持ち悪っ!」

言葉は、刃のように鋭かった。


魔王の表情が固まる。

何かが、音を立てて崩れ落ちた。


女性の目が潤う。

女性「私たちはもう会わないほうがいい。お互いのために。」


場面が歪む。

暗転。


次にメイメイが見たのは、長い時間が流れた後の光景だった。


森の奥深く。

木々に囲まれた静かな場所に、小さなログハウスが建っている。

ベランダには椅子が二つ。

そこに座る女性は、かつて丘にいたあの女性だった。

年を重ね、柔らかな雰囲気をまとっている。

その隣には、一人の男。

二人は穏やかに言葉を交わし、ときおり笑い合う。

その様子からは、満ち足りた幸福が自然と伝わってきた。


その光景を、魔王は木々の影から見ていた。

顔には、もはやかつての面影はない。

そこにあるのは、抑えきれない感情の濁流だけだった。

魔王「私を選ばず……そんな男を選ぶのか」

魔王「うらやましい」

低い声が、森の奥に沈む。


魔王「私を拒絶しておいて……そんな顔で笑うのか」

魔王「うらやましい」


魔王の手が、ゆっくりと持ち上がる。

魔王「うらやましい」「ならば」

その目は、完全に憎悪に染まっていた。


魔王「呪ってやる」

空気が張り詰める。


魔王「お前と、お前たちの子孫が……永遠に不幸になる呪いを」


伸ばされた手の先で、闇が渦を巻く。

それは世界を滅ぼす力ではない。

ただ個人に向けられた、歪んだ祈りのようなもの。

それでも、あまりにも強く、重い。

魔王は言葉を紡ぐ。

呪いの言葉を、祝福の対極にあるものを。


女性は魔王に気づいた。

女性「いま、私になにをしたのですか?」


そして


視界が再び引き裂かれた。


メイメイは、はっと目を見開く。

荒い呼吸。額には冷たい汗。


メイメイ「……今のは」

誰の記憶かなど、考えるまでもない。

魔王のものだ。

それも、誰にも見せたことのないであろう、最も個人的で、最も醜い感情の断片。


メイメイはゆっくりと息を整え、ぽつりと呟く。

メイメイ「魔王様が人間を滅ぼそうとしてる理由って……」

少しだけ間を置いて。

皮肉めいた、小さな笑み。


メイメイ「もしかして、ただの逆恨みなんじゃないの」

言葉は軽い。

だが、その意味は重かった。


もしそれが本当なら

この戦争は、あまりにもくだらない理由から始まっていることになる。

花の丘で砕けた一つの想いが、やがて世界を巻き込む災厄へと変わった。


メイメイはゆっくりと立ち上がる。

胸の奥に残る、奇妙な違和感を抱えたまま。

それは怒りでも、悲しみでもない。


ただ


理解してしまった者だけが抱く、やりきれなさだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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