魔王軍緊急会議と勇者の過去
魔王城の最奥。
そこに存在する円形の大机。
五つの席。
それは魔王軍四天王と魔王のためだけに用意された絶対の座であり、
世界の裏側を決める場所でもあった。
はずなのだが。
妙に静かすぎて、逆に落ち着かない空気が漂っている。
そのうち三つの席には、すでに“影”が座っている。
だがそれは肉体ではない。
魔力を媒介にした遠隔投影。
……なのだが、輪郭はゆらゆらと揺れ、時折ノイズのように崩れる。
どうにも安定しない。
ハラヤ「メイメイのやつ……遅いな」
指先で机をとん、と叩く。
音がやけに大きく響くのは、ただ静かすぎるせいだ。
ユウキュ「魔王様がもうすぐお見えになるというのに」
冷ややかな声。
だが、その言い方はどこか「面倒ごとが増える前に終わらせたい」という響きがある。
リョウキ「……無礼だな」
低い声。
空気がわずかに張り詰める。
……が、影の揺らぎのせいで、威圧感がほんの少しだけ損なわれていた。
そして、その瞬間だった。
空気が沈む。
「現れた」というより、「最初からそこにいた」と錯覚するような存在。
魔王。
扉は開かない。
光も差さない。
ただ、そこに“いてしまう”。
座っただけで、場の重みが変わる。
呼吸すら、わずかに重くなる。
リョウキ「魔王様、お呼びでしょうか」
即座に頭を垂れる。
迷いは一切ない。
魔王はゆっくりと息を吐き、無駄な言葉を一切挟まずに告げる。
魔王「メイメイが勇者に倒された」
一瞬。
完全な静止。
音も、思考も止まる。
ユウキュ「……は?」
間の抜けた一言。
ハラヤ「……それは、冗談ではなく?」
わずかに眉をひそめる。
リョウキ「馬鹿な」
短い否定。
だが三者に共通していたのは
“理解したくない”という感覚だった。
魔王は続ける。
魔王「ハラヤ。勇者はお前の領域に向かっている」
一拍。
その間だけ、世界に猶予が与えられたかのようだった。
魔王「油断するな」
ハラヤ「……はい」
短い返答。
だが、その声にはわずかな緊張が混じる。
魔王はそれだけ言うと、静かに立ち上がる。
その瞬間、場の圧が一段軽くなる。
誰も言葉にしないが、確かに空気が緩んだ。
ユウキュ「メイメイがやられるなんてねぇ……」
軽く言うが、目は細められている。
リョウキ「心配はいらん」
腕を組む。
リョウキ「やつは“四天王最弱”だ」
ユウキュ「……まぁ、それはそうだけどさ」
あっさり肯定。
一切のフォローがない。
リョウキ「事実だ」
さらに重ねる。
いない相手への扱いが雑である。
リョウキは視線を横に流す。
リョウキ「ハラヤ、手を貸そうか?」
ハラヤ「いらない」
即答。
次の瞬間、気配ごと消える。
移動というより、“切り離された”ような消え方だった。
リョウキ「……相変わらずだな」
ユウキュ「さぁね」
肩をすくめる。
しばし沈黙。
ユウキュが、ふと思い出したように口を開く。
ユウキュ「リョウキ、最近、魔王様の“過去”みたいなの流れてこなかった?」
リョウキ「ああ」
短い返答。
ユウキュ「メイメイが死んだ影響かねぇ」
リョウキ「おそらくな」
腕を組み直す。
リョウキ「我々は魔王様によって生み出された存在だ。いわば分身体に近い」
ユウキュ「分身体、ねぇ」
楽しげに言葉を転がす。
ユウキュ「じゃあさ」
ユウキュ「魔王様、人間に恋してたってことか?」
一瞬。
空間が、わずかに硬直する。
リョウキ「……驚いたな」
否定しない。
それが答えだった。
ユウキュは口元を歪める。
ユウキュ「へぇ……そういうこと」
そして、堪えきれず笑う。
ユウキュ「じゃあさぁ!」
ユウキュ「おいらが人間の美少女好きなのも、本能ってやつじゃん!」
ユウキュ「ひゃはははっ!」
重苦しい空間に、不釣り合いな笑い声が響く。
リョウキはわずかに眉をひそめる。
リョウキ「本能って。やめてくれ。」
リョウキ「俺にそんな趣味はない。」
***一方、その頃***
ナギたちは、ピピン王国へ向かう途中の草原で野営していた。
夜は深い。
焚き火だけが、彼らの世界を照らしている。
ぱち、ぱち、と木が爆ぜる音が響く。
その中に、当然のようにメイメイがいる。
なお、死んでいる。
メイメイ「なぁ、アイカ」
アイカ「なんだ」
メイメイ「なんで元の世界に帰らなかった?」
ナギ「私も知りたい」
自然に混ざる。
アイカは少しだけ沈黙する。
やがて口を開く。
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【回想】
空は、どこまでも青かった。
つい数時間前まで世界を覆っていた黒雲は消え去り、崩れた魔王城には静かな風だけが吹いている。
焼け焦げた石畳の上に、勇者たちは立っていた。
長すぎる戦いが、ようやく終わったのだ。
その時だった。
空から、一人の女が降りてくる。
白い翼。
銀色の髪。
透き通るような白い肌。
人間ではない。
そう理解できるほど、美しかった。
女は静かに微笑む。
「魔王討伐、お疲れ様でした」
鈴のような声だった。
「私は世界の管理者。この戦いの終結を確認しました」
勇者パーティーの全員が息を呑む。
女は続けた。
「あなたたちには、二つの選択肢があります」
その瞬間。
誰もが真剣な顔になった。
「一つ。力を失い、元の世界へ帰る」
「一つ。この世界に残り、力を保持したまま生きる」
静寂。
風だけが吹いていた。
召喚されてから一年。
彼らはずっと戦ってきた。
魔物に仲間を殺され、飢え、逃げ、傷つき、それでも戦った。
だからこそ。
今、彼らの脳裏に浮かんだのは故郷だった。
「お母さんに……会いたい……」
少女が涙を零す。
「もう戦いたくないよ……」
別の少女は、その場に座り込んだ。
「……帰れるんだよな、俺たち」
震える声。
みんな限界だった。
そんな中。
「俺は、残ります」
一人だけ。
真っ直ぐ前を向く少年がいた。
全員が驚いて振り返る。
黒髪黒目の少年。
アイカ。15歳。
勇者ではない。
剣の才能も、魔法の才能も、何もなかった少年。
戦いではいつも足を引っ張っていた。
それでも。
最後まで生き残った少年だった。
「はぁ!? 本気かよ!」
仲間の少年が声を荒げる。
「お前、家族いるんだろ!?」
アイカは少しだけ黙る。
脳裏に浮かぶ。
厳しいけど自分を叱ってくれる父。
いつも食事を作ってくれる母。
帰りたい。
本当は。
死ぬほど帰りたかった。
でも。
アイカはゆっくり顔を上げた。
その視線の先には、一人の少女がいた。
青い髪。青い瞳。ボロボロになったドレス。
国を滅ぼされた姫。ソフィア。
彼女はずっと、泣くのを我慢していた。
城が燃えた時も。
父親が殺された時も。
国民の亡骸を見た時も。
一度も。
アイカ「……この世界には、ソフィアがいるから」
その言葉に、ソフィアの肩が震えた。
アイカは続ける。
アイカ「俺、この世界で初めて……必要だって言われたんだ」
戦えなかった。
強くなかった。
何度も、自分はいらない人間なんだと思った。
だけど。
『あなたがいてくれて良かった』
瓦礫の中で、泣きながらそう言ってくれた少女がいた。
だから。
今度は自分が支えたい。
それだけだった。
長い沈黙のあと。
ソフィアが、小さく頭を下げる。
ソフィア「……ありがとうございます」
その声は震えていた。
世界の管理者は静かに微笑む。
「選択は確定しました」
次の瞬間。
光が溢れた。
仲間たちの姿が、一人、また一人と消えていく。
「アイカ!!」
「絶対、生きろよ!!」
「好きだったよ!!」
叫び声だけを残して、全員が元の世界へ帰っていった。
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アイカ「ってことで、この世界に残ったんだ」
ナギ「その、ソフィアさんは?」
アイカ「死んだよ」
ナギ「そんなぁ」
アイカ「いや~、人間って思ったより簡単に死ぬよね」
アイカは悲しそうにつぶやいた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




