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13.死んだはずの元四天王がうるさい

アイカたちはピピン王国の城へと突入した。


分厚い城門はすでに内側から破壊され、鉄の破片が床に散乱している。

かつては王国の象徴だったはずの城は、今や侵入者の足音だけが響く戦場と化していた。


「来てる……! 勇者、城内に侵入済みだ!」


警鐘が鳴り響く中、廊下の奥から黒い影が次々と姿を現す。

それは人の形をしていながらも、どこか歪んでいた。皮膚の下に魔力が滲み、目は理性を失った獣のそれに近い。

ハラヤの部下、統制された軍ではない。

ただ“あたまが悪そう”な、壊れるまで戦うだけの魔族兵だった。


「ここで止めるぞ!」


一斉に踏み込んでくる魔族たち。

その先頭の一体が、爪を振り上げてアイカへ飛びかかる。


アイカ「ッ!」


だが次の瞬間、鈍い衝撃音が廊下に響いた。

アイカの拳が、魔族の顔面を真正面から捉えていた。

骨が砕ける感触すら構わず、そのまま壁まで吹き飛ばす。


アイカ「王の間まで行く! メイメイ、ナギを守ってくれ!」


アイカの声に、空中に浮かぶ元魔王軍四天王メイメイが肩をすくめる。

メイメイ「幽体だから。無理だよ」


アイカ (こいつ役にたたないな)

アイカ「ナギから離れるな」


ナギは息を呑みながらも、必死に表情で。

ナギ「うん」

その言葉は、自分自身に言い聞かせるようでもあった。


廊下は地獄だった。

一体倒せば、また一体。

血と魔力の匂いが混ざり合い、視界すら鈍くなる。

それでもアイカは止まらない。


そして


ついに、最後の扉が見えた。

巨大な扉。

それはまるで「ここから先は戻れない」と告げているようだった。


アイカは荒い息のまま、それを見上げる。

アイカ「……やっと、ここまで来た」


ナギが静かに頷く。

ナギ「ここからが本番ね」


アイカは拳を握り直し、深く息を吐いた。


アイカ「行くぞ」


重い扉が、軋む音を立てながら開いていく。

その先――玉座の間は、不気味なほど静まり返っていた。

揺れる燭台の火だけが、長い影を床に落としている。

そして王の椅子には、黒い装束の男がふんぞり返っていた。

歯茎だけがやけに目立つ、異様な笑み。


魔族四天王ハラヤ。


ハラヤ「フフフ……よく来たな、勇者どもよ」

低い笑い声が、空間そのものを震わせる。


ハラヤ「我が名は魔王軍四天王・ハラヤ。ここまで来たのは褒めてやる……だが」

ゆっくりと手が上がる。


その指先が、アイカとサクナを正確に指し示す。


ハラヤ「俺を見た時点で終わりだ」

不気味な沈黙。

そして、ハラヤは愉悦を滲ませるように続けた。


ハラヤ「俺の能力はな……俺を視認した生き物の“トラウマ”を呼び起こす」


口元が歪む。


ハラヤ「思い出させてやるよ。忘れたくても忘れられねぇ“あの瞬間”をな」


その瞬間だった。

ナギの膝が、力を失ったように崩れ落ちる。

床に膝が叩きつけられる鈍い音。

ナギはそのまま頭を抱え込み、震えながら声を漏らす。


ナギ「いや……いや……っ……!」


視界が崩れる。

脳裏に焼き付いた記憶が、容赦なく溢れ出す。

ナギの瞳に宿るのは、戦意ではない。

ただ純粋な恐怖と、抗えない絶望だった。


メイメイ「ナギ!」

だが声は届かない。

ナギの世界は、すでに“過去”に塗り潰されていた。


アイカ「ぐっ……!」

アイカの視界にも、別の記憶が侵入する。

かつて守れなかった姫の姿。

自分の手の届かない場所で終わっていく命。


耳の奥で、誰かの声が反響する。

「肝心なときに役に立たないねぇ」

「ナギもきっと、お前のせいで不幸になる」


アイカ「……やめろ」

幻聴を振り払うように、アイカは拳を強く握りしめる。

爪が食い込み、血がにじむ。


それでもアイカは立つ。


膝が震えていても、視界がまだ揺れていても、それでも一歩も退かない。

目の前の“ハラヤ”を、まっすぐに見据えたまま。


玉座の間の空気は重いままだった。


だが、その中に一瞬だけ“異物”が混じる。

ふわり、と。

メイメイの姿が、アイカの隣に現れた。


触れてはいない。

触れられるはずもない。

メイメイはすでに肉体を持たない存在、幽体だ。

それでも確かに、そこに“気配”があった。


メイメイは静かにアイカへと手を伸ばす。

指先はすり抜けるだけだが、その瞬間、アイカの呼吸が整っていく。


アイカ「……っ」


さっきまで侵食していた幻覚が、霧のように薄れていく。

アイカの目に、現実が戻る。


ハラヤ「な……に……?」

ハラヤが初めて動揺の色を見せた。


玉座の背もたれからわずかに身を起こし、目を見開く。


メイメイは淡々と告げる。

メイメイ「俺の記憶操作で、ハラヤの能力の“ネガティブ”を打ち消した」


ハラヤ「記憶……操作……?」


メイメイ「アイカ。いったん目を閉じろ」


アイカは一瞬だけメイメイを見る。

そして、言われた通りにゆっくりと目を閉じた。


その瞬間、ハラヤの能力が遮断される。


空気が変わる。

圧が、わずかに軽くなる。


ハラヤ「……っ!?」

ハラヤは椅子から立ち上がり、珍しく声を荒げた。


ハラヤ「あっわわわ!! メイメイおまえ死んだはずじゃ!!」

その叫びは、これまでの余裕を完全に失っていた。


メイメイは軽く肩をすくめる。

メイメイ「死んだよ。幽体になって現世をさまよってるだけだ」


ハラヤ「どういうことだそれは!!?」

玉座の間に、ほんの一瞬だけ“間抜けな沈黙”が落ちる。


メイメイは淡々と続ける。

メイメイ「お前の能力は“視認した相手の記憶を引きずり出す”タイプだろ」

メイメイ「なら逆に、記憶の“認識そのもの”をずらせばいい」


ハラヤ「そんなことができるわけ」


メイメイ「できるかどうかじゃない。やっただけだ」

その言葉が落ちた瞬間、空気が再び張り詰める。


メイメイは小さく告げる。

メイメイ「さあ、反撃の時が来た。勇者側のターンだぞ!!!」

メイメイ「いいや」

メイメイ「俺たちのターンだ!!!!」


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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