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12.元魔王軍四天王、魔王軍にブチギレる

ピピン王国。

かつて勇者召喚の儀が行われ、栄華を誇った大国。

異世界から呼び寄せられたアイカが最初に暮らしていた場所でもある。


その巨大な城門を、アイカたちはゆっくりとくぐった。


門は開いたまま。

だが、それを守るはずの兵の姿はまばらで、

かつての厳かな警備の面影は、ほとんど残っていない。


アイカ「ピピン王国か……懐かしいなぁ」

どこか気の抜けた声。

感慨というより、“昔の知り合いの名前を思い出した”くらいの軽さだった。


風が吹く。

乾いた風が、石畳の上をなぞるように流れていく。


確かに懐かしい匂いはする


焼き立てのパン、香辛料、行き交う人々の熱気。

かつてここにあった、生活の匂い。


だが、それ以上に鼻につくのは

長く放置されたような、淀んだ空気だった。

かつては人で賑わっていた大通り。


露店が並び、子どもたちが走り回り、

兵士が巡回し、商人が声を張り上げていた場所。


今は、人はいる。

いるにはいる。

だが、どれも虚ろな目で、ただ歩いているだけ。


視線は定まらず、足取りも重い。

誰も会話をしない。

誰も笑わない。

ただ、同じ場所をぐるぐると回っているような、そんな錯覚すら覚える。


活気はない。

笑い声もない。

あるのは、疲れきった沈黙だけ。


ナギ「……なに、これ」

思わず声が漏れる。


普段の明るさは影を潜め、その声には戸惑いと嫌悪が混じっていた。

ナギの視線は、通りを歩く人々に釘付けになっている。

誰一人として、“生きている顔”をしていなかった。


アイカ「んー……」


周囲を見渡しながら、特に驚いた様子もなく。

むしろ、少しだけ目を細めて、状況を確認するような仕草。


アイカ「だいぶ荒れたね」

軽い。

あまりにも軽い。


ナギ「そんなに!?」

ナギ「どうして、そんなテンションでいられるの!?」

思わず強めにツッコむ。


だがアイカは肩をすくめるだけだった。


アイカ「いやさ」

アイカ「ピピン王は、いきなり俺を異世界から召喚してきたし」

さらっと、とんでもないことを言う。

アイカ「ピピン王国の兵の仕業で、一緒に召喚された仲間からもハブられることになったし」

さらっと、重いことも言う。


ナギ「えっ」

一瞬固まる。


アイカ「正直、あんまりいい思い出ないんだよな」

どこか遠い目。

だがその語り口には、深刻さよりも“もうどうでもいいや”という投げやりさがあった。


メイメイは、そんな会話を横目にしながら、荒れ果てた城下町を見渡す。

崩れかけた建物。

荒らされた店。

道端に座り込んだまま動かない人影。


メイメイ「ひでぇな……」

眉をひそめる。

その反応は、完全に“外から来た善人”のそれだった。


メイメイ「魔王軍めぇ……」

低く唸るように言う。

完全に自分が“元魔王軍幹部だったことを忘れている”反応である。


ナギが振り向く。

ナギ「そうだよ!こんなの許されるわけ」


メイメイ「こんなことするやつ等、ろくなもんじゃねぇよ」


ナギ「ほんとそれ!」

即座に意気投合。


アイカ(お前だよ)

心の中だけでツッコむ。

一応、言わない優しさはある。


その時。


近くにいた兵士が、こちらに気づいた。

兵士は一瞬、虚ろな目のまま立ち止まり

まるで何かを思い出すように、ゆっくりと顔を上げる。


そして次の瞬間。


目に、はっきりとした光が戻った。

兵士「あなたは……!」

兵士「勇者様!? 本当に……!?」

兵士「アイカ殿!!」

勢いよく駆け寄ってくる。


その足取りには、先ほどまでの覇気のなさはない。

まるで希望を見つけたかのようだった。


アイカは内心で考える。

(……誰だっけ)

まったく思い出せない。

だが顔には出さない。

こういう時の対応は慣れている。


アイカ「……ああ。久しぶりだな」

とりあえず、それっぽく返す。


兵士「覚えていてくださったのですか!!」

アイカ(覚えてはいない)


兵士「感激です!!」

完全に信じている。


メイメイ、小声で。

メイメイ「今の、絶対覚えてなかっただろ」


アイカ「静かに」

同じく小声で返す。


兵士は気づかないまま、勢いよく続ける。

兵士「ハラヤです。」


その名前に、メイメイが一瞬だけ首をかしげる。

メイメイ「……ハラヤ?」

どこか引っかかる。

だが、思い出せない。

霧がかかったように、記憶が曖昧だった。


兵士「すべては魔王軍のハラヤのせいなんです……!」


メイメイ「最低だな」

即答。

一切の迷いがない。


アイカ(お前ほんとに大丈夫か)

アイカ (あ、こいつ自分の能力である記憶操作で都合の悪い記憶をわすれさせたな)


兵士「奴に城を奪われてから、魔族がこの地を支配しています!」

兵士「人間は道具のように扱われ……この町は、もう……!」

声が震える。

悔しさと無力感が滲んでいた。


その言葉に、ナギの表情が変わる。

ナギ「……許せない」

ぎゅっと拳を握る。

ナギ「こんなの……こんな、理不尽!ゆるせない!」

ナギ「人を、こんなふうにしていいわけない……!」

怒りが、そのまま言葉になる。

まっすぐで、隠しようのない感情。


メイメイも頷く。

メイメイ「だな。こんなやり方、センスねぇよ」


ナギ「そこ!?」


アイカ(評価基準そこなんだ)

微妙にズレている。


アイカは一歩前に出る。

だがその顔は、どこかやる気がない。

アイカ「ふーん……なるほどね」

軽く状況を受け流すような反応。


兵士「勇者様……!」

期待に満ちた目。


その視線を受けながら、アイカは目を閉じた


アイカ「とりあえず、城行けばいいか?」

アイカ「ハラヤいそうだし」


ナギ「“いそう”って」

ナギ「どうして城にいるってわかるの??」


メイメイ「城にハラヤいるだろうしな」

メイメイ「相変わらず、派手なやつだ」


ナギ「なんでわかるの?」


アイカ「だよね。城に向かうか」


ナギ「ええ!?」


アイカは城を指さした。

城のバルコニー?で、叫んでいる男がいる。

ハラヤ「勇者よ!!!!!お前なんかにやられないぞ!!!!」


ナギ「遠すぎて、わからないけど」

ナギ「ああ、なるほど」


兵士だけが、なぜか一番感動している。

兵士「さすが勇者様……迷いがない……!」


完全に勘違い。

アイカ(めんどくさいだけなんだけどなぁ)

誰も気づかない。


そしてアイカ達一行は

妙に温度差のあるまま、

荒れ果てた城下町を抜け、王城へと向かうことになった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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