二十一章 姫、降伏を考える
「姫よ、先の話について考えを聞きたい。」
長の言う先の話とは、大国がこの国に軍を進めてきたとき、早々と降伏したらどうなるか、というものである。
姫は答える。
まず大国の王が、名君か暗君かを考えること。
この国が大国を攻める気配もなく、東の端にあるこの国に向け、海を越え軍を進めるならば、それなりの暗君を想定すべきこと。
暗君であるならば、この国の民は間引きされ、奴隷となること。
この国の地位ある座は全て大国の人か、大国の息のかかった人が占めること。
この国の民を第一に想う有力者など、いないこと。
この国の民は、大国の人が食べるもの、大国の商人が売るものを作るようになること。
この国の民の家に並ぶ料理が減ること。
前よりも力が出ず、でも税を大国におさめるために働き、体を壊す者が増えること。
倒れる者が相次げば、仲間を簡単に見捨てることに慣れてしまうこと。
奴隷に成り立ての頃は、その様子に胸を痛めることもあるが、その子または更にその子の代では、当たり前になり何も感じなくなること。
暮らしの質が落ちれば、口から出てくる言葉も汚くなること。
男女の言い争いも増えること。
子どもは親の喧嘩を見ても、やはり何も感じないようになること。
自分に何かできるという考えがなくなっていくこと。
不満が溜まれば、一時の感情で反乱を起こし、束の間の開放感は得られども、その次の策を考えるにはいたらず、すぐに鎮圧され、民への抑圧はより厳しくなること。
一度奴隷になってしまえば、再興にいたる道のりは果てしなく長いため、大国からの侵攻に対しては、降伏ではなく講和を結ぶ策を今練っていると、姫は言う。
「狐族の長よ、降伏することは天地人和合の教えに背く。
降伏した後の世が、男女仲睦まじく、子が海や山の幸で腹を満たし、気高く生きる姿を、千年先に見いだせない。」




