二十二章 姫、忍びを考える
「狐族の長よ、先の話について考えを聞きたい。」
姫の言う先の話とは、この国を左右する忍びとはいかなる者達か、というものである。
長は答える。
忍びも人であるため、かの人々についてよく知らないことに気づいた姫を、喜ばしく思うこと。
忍びは、姫や自分が立てた策を、自分達よりもうまい発想で確実に成し遂げること。
今、姫は狐族より世の状況を知るが、姫の後の世を思うと、姫が直接に忍びと関わり、かの人々からよく教えてもらうとよいこと。
そして、これからできる仲間にも紹介するとよいこと。
「狐族の長よ、私はかの人々をもっと知りたい。」
長は、子狐を姫そっくりに変え、部屋に座らせた後、姫の手を引っ張り、町に連れていく。
「姫よ、まずは忍びを見つける練習から始めようぞ。
かの人々は、自分の存在を悟らぬ者に、信頼を置くことはない。
かの人々を見つけたくば、普通になろうと演技している者を探すとよい。
表情や姿勢など、手鏡でいつでも練習できるような体の部位には、目を向けるな。
そして、耳も使え。」
姫は道を往来する人々を眺める。
姫は往来する人を眺め続ける。
姫は日を改め、往来を眺め続ける。
姫はまた日を改める。
「狐族の長よ、不思議な歩き方をしている人がいる。」
「姫よ、他に何が見えるか。」
「狐族の長よ、不思議な体の揺らし方をする人がいる。」
「姫よ、他に何が見えるか。」
「狐族の長よ、不思議な抑揚をつけて話す人がいる。」
「姫よ、他に何が見えるか。」
「狐族の長よ、不思議にすれ違う者達がいる。」
「姫よ、もう良いぞ。
そなたが不思議に違和感を感じた者達が忍びである。
すれ違い様の不思議な感じは、連絡を取り合った瞬間である。
見事である。」
長は続ける。
忍びの見つけ方は占いと似て、妙な違和感が意味を持つこと。
かの人々の行いには、報酬を弾んで報いること。
報酬には、身分の差など、許されざる恋をした者の、恋路に便宜を尽くすことも、含めること。
かの人々は暗躍はお家芸であるが、陽の下では分が悪いこと。
身分など人の作ったものより、まことの恋路を応援するは、天地人和合の教えにもかなうであろうと、長は言う。
「姫よ、では忍びに話しかけるがよい。
何かあれば私が守る。」
「忍びよ、そこのそなた。
一緒に大国を瓦解させようぞ。
私のことは姫とでも呼ぶがいい。」
長は考える。
忍びと話すときは常識にとらわれないことが大事であること。
しかし、姫には心配無用と思い、話さなかったこと。
しかししかし、往来で他の人々に聞こえる中で、忍びに声をかけないぐらいの配慮をするよう言い忘れたこと。
しかししかししかし、これが姫の姫たる所以かとも、長は思う。
声をかけられる行商は、何事何の事と言うが、裏道に入ると風のように姫の後ろに迫り、首に小刀をつきつけた。
「姫様とやら、何ゆえ私が忍びと分かったか。」
「行商よ、私がそなたに会いたかったから、分かったまでのこと。」
「姫よ、何ゆえ忍びに会いたいか。」
「忍びよ、私は大国と渡り合う策を練る仲間を集めている。
策を施すには、そなた達の力が絶対に必要である。
風のように舞う力も必要である。
さすれば、その小刀で私の首を一思いに切ってみるがよい。
私に妖術を使う者の加護があることを、そなたに示し、私の使命の深さを知ってもらいたい。」
行商は姫の言うまま小刀を振るが、行商の後ろに姫は現れる。
「忍びよ、いかがであるか。
信じるならば、そなたの長に会わせてくれぬか。
なに、礼は弾むぞ、後払いであるが。」
長は、姫ほど物の怪らしい者はいないと、頭を抱えるのであった。




