二十章 姫、国守りの策を考える
「姫よ、先の話について考えを聞きたい。」
長の言う先の話とは、大国がこの国を攻めたとき、いかに戦うか、というものである。
姫は答える。
この国が大国に勝つ方法はないこと。
ましてや、大国の軍を前に、民を守る策など無いこと。
大国には、広大な土地に多くの民が暮らしていること。
この国は、四方八方を海に囲まれ、地の獲得競争に負けてしまっていること。
海を越え軍を送っても、後から送る人と物資が続かなければ、かの地は一時の占領しかできないこと。
ただし、一時でも占領地があり、かつ、一時の戦の拮抗があれば、占領地を手放すことを条件に講和を結び、戦を終えることができること。
しかし、一時の占領の策は、あくまで国家と国家が戦い合えるほどに、この国がまとまっていて始めて使える策であるため、今の状況では国守りの策としては机上の空論であると、姫は言う。
「姫よ、では、今この国でできる戦いとは、いかなるものか。」
姫は答える。
国守りの策の妙は、伝達網の整備と、捨て身の山岳の戦いにあること。
まず、大国が攻めてきたとき、闇雲に水軍を出してしまえば戦線が広がってしまうため、この国の西部のみから水軍を出し、大国の軍が西部に上陸するよう誘導すること。
次に、西部の軍が大国の軍を引き留めている間に、狼煙を上げ、その日の内に国内全土に大国の存在を知らしめること。
大国の軍が西部の平野を制圧した後は、捨て身の山岳の戦いを繰り広げること。
今後の都は盆地に作り、高い城壁のない守りにくい形にすること。
大国の軍が都に近づいたときは、民は山々に移り、中央軍が玉砕すること。
大国の軍が都に入れば、山に入った民が、夜襲をかけ、捨て身の山岳の戦いを繰り広げ、大国の軍を休ませないこと。
主な街が制圧される度に中央が責任を持って、戦線がどこまで後退しているかを国内全土に伝える狼煙を上げること。
中央と地方の駆け引きにより大国への対応が遅れないよう、中央軍以外は、大国に降伏するもよし、徹底抗戦するもよしとすること。
余計な思惑がなくなることで、皆、戦うことに舵を切りやすくなること。
中央軍が早く散ることで、大国は軍を進める度に、降伏勧告や交渉をしなければならないこと。
かのように面倒くさい行軍になることを匂わせる国史を編纂すること。
おそらく何度策を練り直しても、再興するに足る人数だけを守る策にいたるであろうと、姫は言う。
「姫よ、国史を読んだ大国の者が、そこまで読みとれるだろうか。」
姫は答える。
守りにくい都を見て、守るつもりがないことを見抜けないならば、この策は大国の軍を跳ね返すであろうこと。
しかし、最善は大国の者がこの策を見抜き、この国を攻める策を練る時間を作らせること。
そすれば、その間は、どちらも被害がないこと。
都に死体が積み重なることを匂わせるよう、都の近くに広い墓地を確保することもよいと、姫は言う。
「狐族の長よ、大国の軍が攻めてきたら、狐族も妖術を使い、山の中で迷わすぐらいのことは約束してくれ。」
姫は口を隠しながら、長に微笑むのであった。




