十九章 姫、国史改ざんを考える
「姫よ、先の話について考えを聞きたい。」
長の言う先の話とは、この国に紛れている大国の忍びを、いかがするか、というものである。
姫は答える。
三つの方法を考えていること。
一つ目は、信頼のおける人だけで話を進めること。
二つ目は、暗号とともに偽の情報を交えつつ、話を進めること。
三つ目は、大国の忍びが嗅ぎ付け、本国に話を送り、この国の意図が分かると冷や汗をかくという、情報の洗練化を計ること。
この国には、そこかしこに忍びがいるため、いかなる秘密も漏れることは時間の問題であること。
さすれば、探りを入れていることは分かっているという意を込めつつ、忍びに丁重に秘密をお持ち帰り頂く三つ目が上策であること。
「姫よ、では、どの情報を、いかなる形にするか。」
姫は答える。
各国には、大抵、国を守る戦略があること。
この国も例外ではないこと。
この国と大国の間に隣の国があるが、隣の国に戦乱が起こるならば、この国が戦場にならぬよう、この国から兵を差し向け、大国の侵攻を食い止めること。
しかし、隣の国を緩衝国にする策は、戦略ではなく常識であること。
これからは、隣の国が大国の占領下に置かれ、この国に大国の軍が攻めて来たときに、この国はいかに戦うかという策を練る必要があること。
しかし、今はこの議論を進めることができないこと。
この国は、治水工事といった土木工事を、大国や隣の国の帰化人の技術に、頼っていること。
土木工事は大規模になるため責任が重く、中央の高官にも帰化人がおり、また、大国に留学した者が買収されていないとも言い切れないこと。
このような状況で極秘裏に戦略を練っても、いざ守りに備えて工事をすれば、技術者を通じ大国に連絡が行き、この国の意図がばれ、目をつけられてしまうこと。
今のこの国は、大国から守る術を持たないことで、大国はいつでもこの国を支配できるという、慢心から平和が成り立っていること。
姫は続ける。
ここで、先に話した三つ目の策を用いること。
国を守る策を、この国の歴史書に載せること。
新しい帝になったときに合わせ、この国の歴史を正すという名目で、新しい国史を作ること。
国守りの策の詰まった国史書を、地方の有力者に直接に配り、人払いをして意図を説明すること。
具体的な工事が動き出せば、大国の忍びが、中央の人間が人払いしてまで渡した国史書と結び付け、大国に書の写しを送るであろうこと。
大国で受け取った者が、書に出てくる地名を調べ上げることで、この国を守る策が浮かび上がるようにすること。
仮にその策が、大国を道連れにするものであれば、大国はこの国への侵攻をためらうようになる余地があること。
大国の者は、要所の工事の進み具合を見て、この国の真意を知ること。
大国がこの国を攻める策を練る間に、この国も国守りの策を練り上げるという、イタチごっこをすること。
さすれば、その間は平和であること。
加えて、この国の文化を低く見せるために、国史書は誤字脱字・矛盾飛躍が多いことが望ましいこと。
そして、本当の国史書は、まことの平和が訪れるまで隠し続けること。
言い換えると、本当の国史書を隠さなければならないほど、この国の歴史を改ざんすると、姫は言う。
「姫よ、そなたが国史改ざんの業を背負わなければならないほど、この国は危ういか。」
「狐族の長よ、民は知らないだけである。」




