十八章 姫、祭りを考える
「姫よ、そのままで良いから、これから祭りを見に行こう。」
姫は、何ゆえ人は厠に行くのかを哲学しながら、布団でモゾモゾしているところを、長に手をつかまれ、お姫様抱っこされる。
長は、姫に毛皮をかけると、村の入り口まで歩き、立ち止まる。
今日は豊穣祭のようである。
村の広場で盛大に火をたき、その周りを、獣の面をつけた村人達が踊り歩く。
火の明かりが届くか否かのところに、ご馳走が積まれている。
‐歌い踊れや、飲めや食え。交わる者に、神宿る。‐
「姫よ、私は吉と凶の違いを考えたことがある。
気づいたことは、昨日と同じ今日を過ごせることが吉なのだと。
日々異なる、でも変わりなく過ごし、また次の祭りで騒ぐ民の暮らしを守ることが、私の使命かもしれぬと。」
「姫よ、先の話で、そなたは人でなくなることが怖いと言っていた。
私が思うに、そなたは鳥かごから出ようとしているのだ。
鳥かごの中は不自由かもしれぬが、無知であっても安全である。
しかし、そなたは自由を求めた。
自分を守るかごから出ることは、危険にさらされる代わりに、まことの太陽の明るさを知る。」
「姫よ、どうか私と一緒に、鳥かごから出てくれぬか。
ここにいる民は、大国の脅威など知らぬ。
ましてや、鳥かごを守っている人がいるなど夢にも思わぬ。
いつかは人も狐族も、皆が鳥かごの外を知るべきときが来る。
しかし、今はまだそのときではない。
まず、外を知る者が必要である。
外の世界を語ることのできる者が、今は必要なのである。
後は何を言ったらよいのか。」
「狐族の長よ、私はそなたの手を離したことはない。
この人だと思い、手をつないだ日から、この想いは変わらぬ。
そなたも不器用であるな。」
長は、きびすを返し、来た道を戻る。
わずかな月明かりをも通さぬ森の道は真っ暗である。
姫には、それでも道が先に伸びていることが分かる。
長の胸に顔を埋めた。
帰ると姫は、すぐに厠に行った。




