十七章 姫、愛を感じる
「姫よ、そなたはどのような遊びが好きか、聞きたい。」
長と子狐は、また見舞いに来ているのだが、改めて長は姫を知らないことに気づく。
姫は答える。
自分は、寝るか、書を読むか、占うか、考える以外のことはしないため、好きな遊びと聞かれても分からないこと。
世に貝遊びはあるが、貝の姿形が覚えられず、目をうつす間に忘れるため、遊びとして成り立たないこと。
世に球遊びもあるが、地に置いた球にも足が当たらないこと。
長と子狐と出会うまでは、よく雲の上を旅することばかり想像していたこと。
どこまでも続く白い地を歩き、切れ目につけば新たな雲とくっつくまで待ち、また歩くこと。
青い空と優しい星を交互に眺めながら、一人歩き続けること。
そのような遊べもしない、空想にふける自分に、女中は身の世話以外には話しかけたりせず、障子一枚の向こうで可愛くないと言っていることを聞いていたこと。
でも、今は違い、いつも長と子狐がいてくれること。
占いも考えることも面白く、寝る時間がもったいないこと。
私は幸せでもあると、姫は言う。
「狐族の長よ、そなたは自分の考えを話すことが減り、私の話を聞くことが多くなった。
何ゆえに聞くことにしているのか、教えてほしい。
それが今の私の望みである。」
長は答える。
大昔、大きな船が沈む事故があったこと。
船が傾く中で船乗り達は、乗客に「よくあることであり、安心してほしい」と言ってのけたこと。
船はそのまま沈み、乗っていた人は皆、死んでしまったこと。
唯一、生き残った者が言うには、船は明らかに大丈夫でなかったこと。
周りの人に、ともに逃げることを呼びかけても、船乗りが大丈夫であると言った以上は、嘘であったら重く罰せられることが道理であるため、船乗りの言うとおりにしていることが最善であると言っていたこと。
そして、気の小さい者の言うことを、聞く道理はないと言う人までいたこと。
かの人は、いよいよ傾く船に、呼びかけることを諦め、坂になり果てた床を駆け上り、甲板にあった板をつかみ海に飛び降りたこと。
遠くに見える岸に向かって泳ぐ中、涙が止まらなかったこと。
自分一人が生き残ってしまったことが苦しく、どうすれば良かったのかと、悪夢から目覚める度に考えたこと。
そして、皆が自分の目で見て判断し、動く力を身につけることが無ければ、国が沈むときも、同じことが起きると思いいたったこと。
姫との対話では、自分の考えを押し付けてしまえば、姫自らが考えることの妨げになると思い、できるだけ聞くことに徹していたと、長は言う。
「狐族の長よ、話を聞くばかりで、寂しくはなかったか。」
「姫よ、それでも私には、そなたに考えてもらうことが大事であり、また楽しくあった。
自分と同じ意見のときもあれば、全くいたらなかった考えに触れることもあり、まことに心満ちるときを過ごしていた。
それもあり、より聞こうとしたのだが、今思えば、もう姫もしっかり考えられるため、心配無用とも思い直した。
これからは、もう少し語ることにする。」
「狐族の長よ、月を指折り数える話はとても好きであった。
そなたの見ている景色を見たいと思った。
今、船の話を聞き、そなたの優しく強く心豊かな眼差しを、一層好きになった。」
長は、庭に出ると花を摘み、編んで作った冠を姫にかぶせた。
「姫よ、薄く白粉を塗ったかのようなそなたの肌に、この花はよく似合う。」
姫は、長の気配りに安心し、眠りに落ちるのであった。




