二章 姫、日柄を考える
「姫よ、今日は日の話をしよう。」
姫は、一瞬、目眩を起こしたかのように辺りが静かになると、長と子狐が近くにいると知る。
庭に出ると、子狐が走り寄ってきて、姫を押し倒す。
「狐族の長よ、私は子狐と遊びながら適当に話を聞くゆえ、好きに話してくれ。」
長は、自分が話そうとしていたことを、忘れてしまう。
「狐族の長よ、もし気を悪くしたなら、許してほしい。私は可愛げがないと、女中が話していることを知っている。私の言葉一つ一つが、周りの顔を歪ませてしまうため、そなたが最も話しやすい場を作ったつもりなのだ。」
「姫よ、あい分かった。では、私はこの縁側に腰掛けながら、話すとしよう。」
陽が池に反射し眩しいながらも、風に草が身を躍らせる上を踏みつけていく一人と一匹の足を追い見ながら、長は語る。
古の頃、民は月の昇り沈みを、指折り数えていたこと。
十本の指を三回近く折ると、満月は次の満月を迎えること。
それを十二回近く繰り返すと、咲いた花が次の花を咲かせること。
太陽の位置を知る時計が作られた後も、民の間では月を数えることで、季節を知っていたこと。
やがて、「十」と「十二」は特別な意味を持ち、それぞれ「甲乙丙丁」や「子丑寅卯」などと名前が付けられたこと。
日々は天からの贈り物であるとし、「甲子の日」「乙丑の日」と呼ばれるようになったこと。
名があるものは良し悪しを持つように、日々にも吉の日・凶の日が生まれたこと。
よって、季節は巡れども、昨日・今日・明日は違う日になったと、長は言う。
「狐族の長よ、明日の私は今日の私と違うと考えてよいか。さすれば、私の気持ちも晴れるというもの。」
姫は、子狐の腹を枕にし、雲ない空を見ている。
「狐族の長よ、民が見ていた風景を、また教えてほしい。」
「姫よ、おおせのままに。」
姫の瞳に、長は瞳を込めて返すのであった。




