第3章:交易都市in魔王017
ボチボチ再開して早速パソコンの調子が悪いです。
悲しいかな、古いものの宿命です。
そんなわけでブックマークをいただけるととても嬉しいです。
第3章:交易都市in魔王017
ゴブリンキングはこの勝ち戦をつまらなそうに見ていた。もはやこの街は死に体だ。防衛は門の前のバリケードのみ、その周りには少数の兵がいるのみ。街には大勢の兵がいるにもかかわらず、打って出ることもない。つまり腰抜けなのだ。そんな腰抜けどもなど我が軍の敵ではない。契約に従い殺し犯し蹂躙する。その光景を浮かべただけで興奮が止まらない。種としての本能・魔物としての本能がそうさせているのだが、それに身を任せるのも時にはいい。それが目前に迫っているのだ。涎が止まらない。両脇のジェネラルも同様のようでニヤニヤと笑みを浮かべている。
その300ⅿ程後方、踏み荒らされた平原の隅の草むらに身を潜めた3人。人族のバリアルとシェーラには感じないがリリィにはハッキリと自分たちが風下にいることが分かる。犬人族や狼人族ほどではないにしろ獣人として鼻は人族を凌駕し集中すれば大きな耳は会話をしているであろうゴブリン達の動きをなんとなくだが感じ取っていた。
「ほんとに・・・やるんだよね。」
「実践がこんな戦場で申し訳ないが、覚悟を決める必要があるぞ。二人とも。守り切れるとは言えないのでな。」
「ん・・・分かってる。」
「やるしかないのよね。なら・・・やるべきことをやるわ。」
震えながらも、しっかりとターゲットを見据え詠唱に入る。その真言には力強さを感じる。実践で肝が据わったということだろう。シェーラの準備が整えばあとはやるだけである。持っている武器をゆっくりと抜き、盾の握りを確かめる。自分自身のリハビリもまだだが、せめてこの一戦の最中で勘を取り戻し敵を屠れるようにならなければ。そう思うバリアルの顔にも緊張が浮かんでいた。
ゴブリンの軍勢の片隅、いや内部で眺めている。暗黒魔法で周囲に溶け込むように幻術を展開し、気配遮断と隠密を駆使することでほぼ察知することは出来ない。
シェーラ達がゴブリン達に強襲し、ジェネラルを引き離したところで、俺がキングを倒す。この奇襲をリリィが立てた。奇襲の2段構えとは敵も思わないだろう。しかも、相手には油断がある。その隙を付こうというのだ。戦力の分断とは戦術の基本だが、リリィがそれを提案したというのが驚きだった。およそ、戦いとは無縁だと思っていたからだ。
そんな物思いに耽っていたが、それはゴブリン達の動揺を持って破られることになる。
「始まったか。」
闇を纏ったロッカクは騒ぐゴブリンの群れからそっと抜け出し、キングの元へと駆け抜けていく。その姿に周囲のゴブリンは気が付くことが出来ない。おそらく先日の魔族も気が付くことは出来なかっただろう。ロッカクが使っている技術はそういう類の者なのだ。暗殺特化の能力はスキルの多重仕様という無意識で使うには高等すぎる技術を常識にとらわれない日本人的発想で使用していた。
そのまま、キングの元にたどり着く。無名の刃が右下からかち上げられ、ジェネラル達のほうを向いていたキングの首を斬り飛ばしても、本人は気が付いていない顔つきだった。突然、空中に視線があり落ち際に自分の胴体を見下ろしていた。そのまま現実を理解しないまま絶命していくのだった。胴体はまだ直立してジェネラル達のほうを向いていた。が、首が飛ばされ一拍おいて、その切断面から鮮血が吹き上がり、ゆっくりと崩れ落ちる。
それを見たジェネラル達にも動揺が走る。その隙に風魔法が足を薙ぎ、痛みで顔を歪めている間にバリアルの剣が胸を貫く。引き抜くその反動を利用してもう1匹のジェネラルの肩から腹部にかけて大きく袈裟懸けにしていた。
周囲のゴブリンもシェーラの風魔法により足を切られ切断には至っていないが、それなりに深い傷を負ったゴブリン達は近づけなかった。
その間にも、ゴブリンキングの王の威光が切れたことで軍の足並みはあからさまに乱れてきていた。もともとオーガなどは多種族と行動を共にしたりしないので威光が切れた時点で周囲のゴブリンやオークと争っていた。
そこからは酷いものだった、ゴブリンの軍勢に壊された鋼線やロープの罠が再度、同様に逃げ帰ろうとした者たちを容赦なく襲った。この混乱でさらに魔物側にも多くの被害がでていた。しばらく街には近づくなんて考えらいだろう。
ゴブリンキングとジャネラルの討伐証明部位と、その魔力の結晶である魔晶石の剥ぎ取りを行うが、拳ほどの魔晶石とそれよりやや小ぶりの魔晶石を2個とキングの使っていた大剣を1本手に入れることが出来た。赤黒い魔水晶はゴブリン種としてはかなりの大きさで希少価値も入れると中々の値が付くだろうとバリアルが言っていた。正直、懐が寂しくなってきた俺達には朗報だな。キングの使っていた剣もどうやら魔剣の類らしく希少なものだろうということだ、街で詳しく調べられたらいいな。
さて、退却してきた魔物たちが俺達を避けるように逃げていくのを確認して街のほうに向かう。そこには困惑したような顔のミリア達がいた。
「どうしたんだ?」
「あぁ、ロッカクか。お前、何か魔法を掛けたんだよな?打ち漏らした魔物たちがバリケードのほうに殺到したから、もう駄目だと思ってたら急に消えてしまったんだ。何をしたんだ?」
「あぁ、それか。一応聞くが誰も先に進んでないか?」
「それは事前に跳ね橋に向かう時は屋根を伝えって聞いてたから大丈夫だ。」
「なら、問題ない。」
「一体、どんな魔法を使ったんだ?」
「それは・・・秘密だよ。手の内をさらすってのは良くないだろ?」
「・・・そうだな、無粋だった。すまん。だが、これだけは言わせてくれ。作戦は上手くいった。ロッカクのお陰だ。ありがとう。」
「みんなが出来ることを最大限やった結果だよ。俺は手を貸しただけだ。だから、顔を上げてくれ。」
そういうとミリアは深々と頭を下げた。集まってた兵士や冒険者も異論はないようで、温かい目で見守ってくれていた。実際、俺が施したのは羽部橋前のバリケードの手前から斜め下に向けて穴を掘っただけだ、堀の中に向かって。それを暗黒魔法と光魔法の目くらましで効果的に罠にかかるようにしたってわけだ。防具を付けた状態の奴らはもちろんそのまま沈んでいったし、泳げたとしても登れるところなんてないので力尽きて沈む寸法だ。
皆が足止めで判断力を奪い時間を稼ぎいでくれてないとこうも上手く罠にかからなかったはずだから、俺だけの手柄じゃないんだけどね。と、こっそりと空けた穴を埋めなおす。
グゴゴゴゴッ
皆で討伐できたゴブリンやオーク・オーガの討伐部位の採取をやってたら格子柵が上がる音が響いてきた。どうやら、守備隊が戻って来て上げたらしい。撃退からゆうに1時間以上経ってからだ。あいつら街を守る気なんてあったのかね?今更来てもやることなんかないだろうに。
完全防備の綺麗な鎧をきた守備隊と隊長が馬に乗り辺りを警戒しながら出てきた。いや、馬って・・・。跳ね橋の前にバリケード作ってるの見えてないのかね?
「皆の者ご苦労。街の平和は守られたようだ。魔物の群れも街にいないことが確認出来た。我々は周辺の安全を確認に行く。バリケードを片づけよ。」
魔物の群れがいないことを確認して安全を確認に行くんだ。意味がわからん。矛盾してるやん。しかも、今迄戦いっぱなしの俺達にバリケードどけろだって・・・イラッとするな。
「隊長殿、我々はさっきまで前線で命を懸けていたのだ。そういうことは『待機』していた者達が行うのが筋でしょう?」
こめかみに青筋を立てたミリアが可能な限り礼をかかないように返答する。隊長が何か言い返そうとしたが副官っぽいやつから耳打ちされて、考え直したようだ。
「おい、お前たち!馬が通れるだけの隙間を開けるのだ。」
結局、自分の部下に命じてバリケードをどうにかこうにかどかして周囲の安全を確認に出て行った。なんなんだよ、あいつは。あーいうのってきっと親の七光りであの地位に就いたんだろうな。きっとそうだ。
「あのような者が街を守る守備隊長でこの街は大丈夫なのか?」
バリアルの心からの呟きが聞こえてきた。呆れた表情から本当に心配しているようだ。実際、今回は俺達がいてギリギリ間に合ったってところだし、次はないだろうな。
「親の権力とかで守備隊長になったんじゃないのか?本人に志なんてないだろうさ。勝ちが分かるまで出てこなかったくらいだし。」
自分の命が大事なのは分かるし否定はしないけど、責任がある立場なら逃げていいってわけでもないだろう。もしもの為の守備隊なわけだし。もしもの時に逃げてたら世話ねーわ。
1時間ほど剥ぎ取りを行いようやく、一段落着くことが出来た。討伐できた魔物はゴブリンが主だったがオークやオーガもそれなりにおり、使えそうな武具や防具を集めたり、怪我人を手当てしたりで忙しくしてた。
「おい!お前たち!ゴブリンキングとジェネラル2体の魔晶石はどうした!?隠すと為にならんぞ!」
守備隊長の怒声を浴びながら皆に動揺が走る。魔物撤退したのは知っていたが、率いていたのがキングとジェネラルだとは思っていなかった。それもそうか、俺達は誰にも見られることなく強襲でその3匹を倒したからな。
「それなら、ごsyむぐぐ・・・。」
いきなり名乗りを上げようとしたリリィの内を慌てで手で制しながら口を押える。ダメダメ、そういうのは面倒くさいことになるフラグだ。
「どうした!!誰かいないのか!?」
怒鳴り散らす守備隊長。皆は知らないわけだから、どうしようもないがミリア隊はチラチラこっちを見ていた。俺が黙って首を横に振るとそれを見ていたメンバーも「さぁ?」「知りません。」など口にしていた。
「ふん、役立たずどもが。」
そう捨て台詞を残して守備隊長たちは街の中に戻っていった。しばらくして避難していた第三層外苑街の住人が戻ってきた。その頃には門に近い一般街の住人たちも避難から戻ってきた。俺は第2層一般街の住民たちを訝しい目で見ていたが、互いの住人が生きているのを喜び合っているのを見て腑に落ちない思いでいた。
「中と外の住人が仲良くしているのは珍しいか?」
「いや、さっきまで中と外でいがみ合ってたと思ってた。」
「実際はそんなことないさ。外苑街の住民だって中の住民が自分たちを殺そうとしたなんて思ってないよ。お前たちが来る前に門の内側で格子柵を開けようと住民たちがしていたのを兵士たちが止めさせようとして争いが起こってたくらいだ。住民たちはわかってるのさ、悪いのは上の人間だってことくらいな。」
「暴動でも起きそうだな。」
「・・・実際は無理だろうがな、今はいないがこの都市にも切り札ともいえる騎士団がいる。めったなことでは起きないよ。」
「そんな奴らがいたのか?」
「あぁ、だが残念ながら今は遠征中だ。その隙を突かれたんだろう。詳しい話は私もわからないが。とりあえず私たちは一般街の兵舎に着任を報告に行かないといけない。すまないがまた、改めて礼をさせてくれ。宿は決まってないだろ?出来れば一般街の宿に泊まってくれると助かる。連絡はギルドに残せば取れるはずだ。」
「それはいいが、ここの手伝いはいいのか?」
「もともと我々もお前たちも巻き込まれたんだ。これ以上は住民やギルドに任せてもいいだろう。」
そう言ってミリアは顔を向けると、各ギルドの職員や所属冒険者が為すべきことがわかっているように動いている。ここまでの規模はないにしろ魔物の襲来はそれなりにあっているようだ、皆の手際がいい。けが人はすでに指定の場所でもあるのだろう、担架に乗せられて運ばれていた。
それじゃ、と言いながらミリアは仲間たちと一般街のほうへ向かっていく。それを見かけた兵士たちは拳を胸に当て敬礼のようなポーズをとっている。それに倣ってか住民たちも同じようにしている。後ろから見ているその姿は、静かだが英雄の凱旋と言ってもいいだろう。
仲間のほうを振り向きながら、無事を確認する。バリアルもシェーラもリリィも大きな怪我もなく無事だ。まずはこれで一段落。ホッとして俺達も一般街へ行こうとすると数名の獣人から声を掛けられる。
「あ、あの・・・私たちは外苑街冒険者ギルドの者です、ぜひギルドにお越しいただきたいのですがどうでしょうか?」
獣人の武装集団の中に1人だけいた犬耳の女の子が中心に声をかけてくる。よく見れば女の子を守るように布陣されている・・のか?
「え?・・・えぇ、構いませんが疲れたので休めるところを提供していただければ行きますよ。」
「おぉ!ありがとうございます!では、提携の宿もございますので後ほどご案内いたします。」
俺が了承を告げると周りの集団も力が抜けたのか、安堵の表情だ。なんなんだ?とはいえ、そろそろ仲間たちも疲れがピークのようだ。リリィはゆらゆらと立ったまま寝そうだ。先に宿で休みたいことを告げると案内をつけてくれた。




