第3章:交易都市in魔王010
第3章:交易都市in魔王010
ゴトゴトと揺れる馬車の上でのんびりと空を見ながらぼんやり、時折読んでいる本に目を落としながら物思いにふける。その横で走り込みを行うシェーラとリリィ。二人とも俺達に刺激を受けたようで積極的に鍛錬に参加している。二人とも地力はなかなかあるようで
ただ走り込むだけじゃなく時々、バリアルから投石される石を集中力を切らさないように避ける訓練を行っている。
俺達は立ち寄った最初の村で荷車と馬を購入することが出来た。正直、それだけで手持ちの金はほとんどなくなってしまった。今手元にあるのは銀貨6枚と銅貨30枚だ。これは結構不味い。食料は出来るだけ自分たちで調達する必要があるだろう。
金策を考えながら、また読んでいる本に目を落とす。本のタイトルは『ヴォイニッチの科学書』魔王城から適当に持ち出した本の中に入っていたものだが、現代日本に通じる科学の知識が詰まっている。
科学書と言われるだけあって網羅している範囲は広い。なかなかの大きさの本だが、魔法至上主義とも言えるこの世界で科学と名の付くものがあるのは違和感を感じるし他に見せることは控えたほうがいいだろうことは分かる。
「色んな魔法使いが詠唱している理っていうのは、やっぱり科学的なことなんだろうな、それを捻じ曲げて無理やり効果を発動させるのが魔法か。」
魔力に応じて理を曲げる魔素が存在する世界だったからこそ、本来の在り方が重要ともいえる。
暗黒魔法や武技など、もっと極めないと不測の事態には対処できそうにないな。科学書の知識と日本での知識をすり合わせながら暗黒魔法を両手の間に込めて圧縮していく。小さく小さく、もっと小さく。圧縮を繰り替えし・・・ヤバい。出来てしまった。俺の周囲を中心にカタカタと音を立てて振動が大きくなってくる。圧縮を繰り返し、ある一点で反転した力が外部へ干渉しだす。疑似的なブラックホールを形成している。すぐに実験を中止し周囲を確認する。誰も異常に気が付いた様子はない。
なかなか冷汗が出ることを馬車の上でしてしまった。おそらくイメージの力が大きいんだろうが、魔力で無理やり事象を発現させるっていうことは、やはり可能らしい。
嬉しい発見だけど、注意しないと一歩間違うと大惨事だ。気を付けよう。うん、そうしよう。
この圧縮は使えそうな技術であることも分かった。何気なくやったことだけど、自分の力になるのは嬉しいな。光魔法を圧縮して一気に開放すれば・・・あの技になるのかな?あの太○拳に!夢が広がるな!
これはさらに知識欲を掻き立てられる。また影収納から魔導書を取り出す。魔法陣に関するものだ。読もうと広げたところでシェーラの声が響く。
「いたっ!」
「気を抜くでない、集中だ。集中!リリィはまだまだ余裕がありそうだぞ?」
「むー・・・何でそんなに元気なのよ。」
「今まで動けなかった・・から・・・動くの楽しい。」
そんな会話をしている時にバリエルと俺は顔を上げ遠くを見る。どうも何かがこちらの様子を伺っているだけか。
「ロッカク殿、魔物がこちらに向かっているようです。どうしますか?」
「ゴブリンだったら二人に任せるよ。」
「それ以外なら、俺も出る。」
およそ、100mほどの距離に魔物が見えてきたが、どうもゴブリンだけじゃないようだ。数は8、ゴブリン4匹とゴブリンメイジ2匹、オーク2匹だ。リリィや今のシェーラには荷が勝ちすぎているだろう。荷車を止め、俺とバリアルも身構える。
どうも、あんまりこちらを気にしている様子はないが、視界に入ったことでお互い武器を構える。俺は山賊刀、バリアルは大剣と盾、リリィとシェーラはダガーをそれぞれ握りしめている。俺とバリエルが前衛でシェーラ、リリィという陣形をとる。まずはリリィは戦えるとは思えないので守ることを主にしている。
フゴオオォォォォ
オークの雄たけびが聞こえる、それと同時に2匹のゴブリンメイジからファイアボールの魔法が放たれる。俺とバリアルが一つずつ大剣の腹で受け、俺は切り裂き危なげなく対処する。
魔物に魔法で攻撃されたことがなかったのかシェーラは少し腰が引けているようだな。ちょっと震えている・・・か?
「シェーラ、実力はあるんだから油断しなかったら大丈夫だ。」
「う、うん。わかった。」
「初めての実戦といえるから、ゴブリンと戦ってみてくれ。危ないようなら助けに入る。」
「・・・うん。」
「リリィは無理しなくていい、危ないと思えばすぐに距離を取るんだ。」
「・・・ん。」
俺はバリエルがオークに向かって駆け出したのを確認して土魔法を発動させ岩石を2個圧縮し1cm程度の大きさ、弾丸状に固定しゴブリンメイジの頭部目がけて打ち出す。ただ石を飛ばすだけで殴打されたくらいの威力しかない魔法だが圧縮することで頭部を貫通するほどの威力を見せる。
ゴブリンメイジのその様子に他のゴブリンは何が起こったかも理解できないまま刃を合わせることにな
る。いや、違うな。合わせることもなかった。2匹のゴブリンをシェーラ達のほうに通し、俺は2体のゴブリンの攻撃を避けつつ全体を観察する。
オーク2匹を相手にしているバリエルは随分余裕そうだ。こちらのことも気にしているのか時々、目が合う。俺達の目的が同じだからだろう。シェーラとリリィが実戦でどういう動きをするのかを確かめておきたいのだ。
「こ、この!小さくて当てずらい!」
「ふ・・・ん。」
シェーラの半分程度の身長しかないゴブリンに攻撃が当てずらいようで、なかなか有効打を当てられないようだが、徐々に削ることで動きが鈍くなってきたようだ。腹部に深くダガーを突き入れることで戦闘を終わらせた。
特質すべきはリリィだった。手数はもちろんだが右手はダガー、左手は爪が少し伸びており両手で攻撃を行っていた。体が軽いため一撃に重みはないがそれでもゴブリンは全身に夥しいひっかき傷や切り傷があり出血もかなりのものだ。
動きも獣人特有のしなやかな動きで相手に触れさせることなく、その姿は舞でも舞っているようだった。しばらくするとゴブリンも力尽き、倒れたところを止めを刺して二人の戦闘は終了した。それを確認して俺とバリアルもお互いの獲物に止めを刺した。
「二人とも結構、戦えてたな。特にリリィがあれだけ動けるのは嬉しい誤算だ。」
そう言ってリリィの頭を撫でる。リリィの尻尾もパタパタと揺れている。これは・・・癒される!
「わ、私だって結構やれてたでしょ?」
「シェーラはまずビビり過ぎだったな。」
「ビビってなんか・・・。」
「いや、ごめん。けなしたわけじゃない、むしろ逆だ。未知の相手にはビビり過ぎるくらいが丁度いい。俺達はまず生き残ることが大前提だ。勝てない相手に逃走しても生きてれば俺達の勝ちなんだからな。死んだら何にも残らない。」
「でも、せっかくなら勝ちたい。」
「そりゃ、毎回逃げられるわけじゃないし勝てるに越したことはないよ。ただ、意地を張るのと戦略的撤退は別物だし、俺はシェーラに死んでほしくない。逃げられるときは逃げてくれ。」
「う、うん。死なないように・・・ね。・・・死んでほしくない。」
「ん?」
「あぁぁ、なんでもないから。頑張るから。それより、あの魔法何なの!?突然、ゴブリンメイジが倒れたけど。」
「あれは土魔法の岩弾だよ。」
「あれが!?そんなわけないでしょ?あれって拳大の岩を飛ばすだけのはずだよ。」
「え?だから岩を飛ばして倒したっしょ?」
「うー・・・口で言うとそうなんだけど・・・。」
「はっはっは、シェーラが言いたいのは使い方と威力が知っているものとかけ離れているから戸惑ったのでしょう。かくいう儂も驚いてます。通常だとあんな威力はありえません。せいぜい牽制するくらいです。」
「そんなの創意工夫でどうにかなるって。」
ドドドドドドドド
話を遮って聞こえてくる地響き。遠くの地平線に土煙が上がっている。何が起こっているかわからないが良い予感はまるでしない。
「な、なに?」
「ぬ、これは・・・?」
「・・・あ!・・・みんな、ヤバいかも。」
土煙のほうから気炎を上げている集団が見える。あれは魔物の集団だ、さっきの魔物たちは追われていたか先行していたかはわからないが、原因はあの集団だろうな。
そんなことをしている間にも距離はどんどん迫ってきている、ゴブリンやオークもいるがゴブリンメイジも相当数いるようだ、何よりオークの上位種のオークジェネラルも確認できた。数も100をゆうに超えている。
魔物の姿が見えてからシェーラはカタカタと震えている、リリィは尻尾を縮こまらせて顔も蒼白だ。バリアルの額にも汗が浮かび、武器を握りしめている。俺も突然のことにあっけにとられるが、逡巡している時間はない。あのスピードで来るなら間もなく俺達は飲み込まれてしまうはずだ。
パンパン!!
手を打ち、皆の注意を引き付ける。急に注意を引かれて皆が戸惑いながら目を向ける。
「今から、逃げるのは難しい!隠れるぞ!」
「か、隠れるってここ街道の脇だからそんな場所ないよ!」
「そうですぞ、ここは戦うべきでしょう。」
「いや、無理だ。戦力差はどうにもならない、数はそれだけで力だ。いいか、今から穴を掘るからそこに隠れるぞ!」
そこで、俺の服の裾を握って震えているリリィに気が付く。不安そうに俯いている、いや・・・実際不安なんだろうな。頭を撫でながら声をかける。
「絶対、乗り切れるから。心配するな。」
不思議そうな顔で見上げる、せっかく奴隷商館から出られたのにすぐに死ぬなんて容認できない。
地面に向かって急いで土魔法を展開する。急いでたから深さ3m広さ4畳ほどの狭いものだ。広くする意味もないし構わない、屋というか天井部分も覆うように蓋をする。魔物が駆け抜けてもいいくらいには強度を上げておく。そして仕上げに暗黒魔法で幻惑をするように偽造することで周囲の地面との違和感を排除する。これで凌げるはずだ、そこらの魔物に見つかる道理はない。
ドドドドドドドッ
ほんの短い時間だろうことは頭では分かっているが上を魔物が駆け抜けるたびに天井が軋むのを聞いていると正直、生きた心地がしなかった。一対一や一対多での戦いは経験があってもそれ以上の部隊規模の戦いや誰かを守りながらでは押し切られる可能性が高い。
もともと日本でだって武術や戦術の経験なんてないのだ。ある程度の力はあるが魔王なんて名前ばかりのハリボテだというのは自分が一番分かっている。その為にもこの世界のことを知らないといけないし、こんなところで死ぬつもりもない。
俺の腰にしがみついているリリィと腕にしがみついているシェーラを見ながら魔物の
行軍が過ぎるのを待つ。
どれくらいの時間が経ったか・・・気が付けば音は聞こえなくなっていた。どうやら危機は過ぎたらしい。
シェーラとリリィの頭を撫でながらホッと胸を撫でおろす。
「ねぇ・・・もう、いいかな?」
頭を撫でていたシェーラが赤い顔をしながら、声をかけてくる。だが、答えは否だ。俺も結構怖かったんだから、癒しが欲しい。前みたいにゴブリンだけじゃないし数も多いかった。ビビらないほうがどうかしてる。リリィは頭を撫でられるのは受け入れているようで気持ちよさそうだ。子供は順応が早いなあ。
「もう・・・。」
シェーラも諦めたようだ。
「ロッカク殿、そろそろ上に行きましょう。何が起きたのか確認も必要でしょう。」
しばらく二人を堪能した後に声をかけてくる。バリアルは空気が読めるようだ、大人の余裕か。
穴から出ると被害はなかなかに大きかった。俺達が乗っていた荷車は大破。原型なんてとどめていなかった。周囲も魔物に踏み荒らされていた。幸い街道だったが村でも通り道に合ったらとんでもない被害だっただろう。
そこで、はたと気が付く。この方向には何があるのかと。バリアルも気が付いたようだ。
「不味いですな、この先には交易都市があるはずです。」
「マジか・・・。」
今から追ってもまず追いつけないし、かといって追いついても出来ることはない。警告するにも追い越さないといけない。
「都市が落ちることってあるか?」
「あの程度ならおそらく被害は出るでしょうが、大丈夫かと思います。」
「それじゃ困るな、あの都市には落ちてもらう。」
不意に声を掛けられて声を掛けられたほうに顔を向ける。俺達を見下すように浮いていいる人影を確認する。俺も仲間も不穏な空気を感じ臨戦態勢をとっていた。




