第3章:交易都市in魔王04
第3章:交易都市in魔王04
最後の扉の小窓を開けるとむせ返るような匂いが溢れかえる。何の匂いかは分からないが肉が腐るような匂いが立ち込めている。奥にいるカッツも顔を顰める。シェーラも今にも吐きそうに口を押える。そんな匂いの中、小窓を除く。中には二人の男女がいる。
正確には男のほうは壮年から老年に入ろうかという年齢だろうか、無精髭が伸びまくりだ。だが年齢に似合わず戦う者の体つきだ。ただこちらも身体欠損があるようで、右足と右腕が膝と肘より先がなかった。ただケガに関しては一応の治療が済んでいるようだった。女・・・いや女の子といったほうがいいかだいぶん若いようだ。「ようだ」というのはその女の肌は爛れ所々皮膚の下の皮下組織まで露出している。見ているこちらが痛くなるような状態だ。顔も同様で左瞼が溶けたような状態でここまでになると正直乳房が見えていないと性別も分かりかねるだろう。
「これはまた・・・酷いな。シェーラは見ないほうがいいだろう。」
「そんなに?」
「そんなにだ。」
正直、このままだと長く持たないだろうな。だけど、老人のほうは目が死んではいない様に感じた。耐え忍んでいるって感じかな。事情がありそうな二人組だけど面倒ごとはごめんだ。
名前:バリアル・クロール
性別:男
年齢:62
種族:人族
職業:騎士
Lv:86
HP:560(身体欠損状態)
MP:400
称号:奴隷
スキル:怪力Lv3 頑強Lv4 剣術Lv5 大剣術Lv5 体術Lv5 鉄壁Lv3 自己犠牲Lv3 統率Lv5 指揮Lv4 先読みLv4 火魔法Lv3
武技:強打 大旋風 盾打 鉄壁
武技?なんだろう?たぶん技・・・なんだろうけど、使ってるところをみたことないな。にしてもレベルがかなり高い、これはきっと掘り出し物だ。身体欠損はたぶんどうにかなる。気になるのは同室の女か。きっと事情ありだな。
名前:リリィ・リーズフェルト
性別:女性
年齢:12
種族:針狐人
職業:家事手伝い
Lv:5
HP:80(皮膚欠損状態)
MP:60
称号:奴隷
スキル:忍び足Lv1 軽業Lv1 聞き耳Lv1 風魔法lv1
思いのほかレベルが低いが年齢を考えるとそんなもんだろうな。それにしても針狐人か、知らない種族・・いや、ハーフか。種族名ではないから間違いないだろうな。にしても、どっちも苗字持ちか。貴族や豪族も奴隷落ちすることがあるからないこともないだろう。さっきのリザードネスよりかは目立たないか?皮膚の欠損はどうするか、治せるのか。治せないなら全身包帯で巻けば・・・ミイラだけど、ローブでも着せればいいか。
「ちょっと聞くがシャン・フレーシュまでの道は分かるか?」
「・・・・・・・・。」
「・・・聞こえているか?」
「聞こえている、道は分かるがそこまで行くことは出来ない。この身体だからな。」
「あぁ、そのことかとりあえず道が分かれば後は馬車でも手配するから大丈夫だろう。」
「そうか。」
俺は振り返ってカッツを見る。カッツは驚いたように目を見開いている。
「そんなわけで、この二人を買いたい。商談と行こうか?」
最初の部屋の隣が商談室になっている。そこで細かい話を詰めていくことになる。とりあえず、1階に戻ると空気の旨さを実感する。あんな空調もないところに怪我人を置いておくなんて売る気がないとも言える。
「それで3号房の2人を購入ということでよろしいので?」
「まぁ、値段次第ってところか。俺たちは極力道が分かる安い奴隷がほしいんだ。」
「えぇ、存じてます。ただこう言っては何ですがあの者たちは旅の足手まといにしかなりませんよ?よろしいんですか?」
「あぁ、男のほうはレベルも高そうだしな。」
「レベル自体は70を超える者ですが、身体の欠損でその力の半分も出せないと思います。
」
「道を知っていることが第一条件だ。それ以外はどうでもいいさ。馬車なら目立たないだろうし。」
「それなら2号房の者のほうが適任ではないですか?」
「そうか?道案内以外にも使い道はありそうだから、結構高いんじゃないか?あんたが進めてくるくらいだし。その点、あの二人は足手まといだ。それで安くなるならそのほうがいいさ。」
「そうですか、確かに役立たず2人を買っていただいたほうが維持費を引いても得でしょうね。」
「で、いくらになる?」
「そうですねー二人で金貨1枚ってところでしょうか。」
「え?そんなに?」
予想外の高値にシェーラが驚きの声を上げる。それはそうだろう、それに対し諭すように話を続ける。
「お嬢さん、人を買うということはそれ相応の責任も伴うのです。それに人の価値を金額の高い低いで測れるものではないでしょう?」
「そうだな、だがあの二人にその値段では釣り合わない。ではこの商談はなかったことにしよう。」
「・・・お客様、駆け引きというものを分かっていらっしゃらないようですね。」
「お前も、客を見て物を言うんだな。俺たちは別に道案内が絶対に必要というわけではない。あればいい、程度だ。そこに無駄な金を使うつもりはない。しかも、あの二人・・・役立たずの無駄飯食らいなのだろう?せいぜい出せて銀貨20だな。」
「そ、それはこちらの儲けはないということではないですか。」
「おや?維持費をこのままいつ来るかわからない次の客の為に支払い続けるより売れる時に売ったほうが賢いと思うんだがな。」
「それでも銀貨50がいいところです。」
一気に半額か、これはまだ下がるな。
「銀貨25」
「銀貨40!」
「銀貨28」
「ぎ、銀貨35!」
「ふむ、銀貨29」
「えぇい!銀貨33!ここが限界です!!今までの維持費だってあるんですから!」
「・・・わかった、それで買わせてもらおう。」
「あ、ありがとうございます。では早速契約を行うとしましょう。」
そう言って手早く俺の血を用いた契約を施すことになった。
「とりあえず、着る物と水浴びをさせてもらえるか?」
「着る物は持たせます。水浴びは裏の井戸を使ってください。」
こうしてシェーラが呆然と俺達のやりとりを見ているうちに奴隷の売買は終わり、奴隷紋もしくは従属紋の刻印による従属契約、つまり従属の魔法による契約者の書き換えを行い、幾つかの禁則事項を設定した。奴隷紋は二人の手の甲に浮かび上がり契約成立となった。
「さて、二人とも俺が君たちの主人となったロッカクだ。よろしく。こっちはシェーラ。俺のパーティメンバーだ。」
いきなりの紹介に驚き、たどたどしいながら挨拶をする。
「あっ・・・シェ、シェーラ・・です。よ、よろしく、お願いします。」
「・・・・・・・・バリアルだ。・・・こっちはリリィだ。」
「・・・・・・・。」
「あの・・・?」
「喋れないのか?」
言葉を発さないリリィにシェーラは不思議そうな顔を見せる。
「・・・・・おそらく、痛みが強すぎて意識が飛んでいるんだろう。体を洗うのは構わないが・・・見ての通りの体だ。出来れば優しく洗ってもらえないだろうか?」
およそ、奴隷と主との会話とは思えないやりとりだ。案内してきた使用人は嫌な顔をしたが売ってしまった奴隷と主のことには口出しするようなことをせず、服を取りに行くといいその場を後にした。
後から聞いた話だが普通に高値が付く奴隷は、ある程度の教養を身に付けさせてから売る場合もあるということなのでそういう表情をしたのも納得がいった。奴隷の中にも序列というか等級があるということなんだろう。
「洗うのは手を使おうが布を使おうが痛いだろう。だから魔法を使うがそれでも染みるだろうし痛いはずだ。我慢しろよ?」
痛みでこちらの話が聞こえているのか聞こえていないのか分からない顔を見ながら軽く頭を撫でながら声をかける。頭に手を置くと体をビクンと震わせた、それだけでも痛いんだろう。撫でた手に浸出液や膿が付く。横で見ているバリアルがビクビクしている。なんでお前がビクつくんだよ。
俺は膿や浸出液で固まった服だった布を脱がそうとしたがそのままだとどうしても皮膚が剥がれてしまうので水の魔法でリリィがスッポリ入るくらいの150cm程度の微温湯の水球を作り出し、それでリリィを包む。水球に漬けて柔らかくしてから服を剥がしていく。服と言えるようなものではなかったが、乱暴に扱うと皮膚が剥がれてしまって痛々しい姿となるだろうことは容易に想像できたので慎重に行う。
それが済んだらシェーラの髪を洗ったのと同じように水の魔法の癒し効果と洗浄を二重で発動させ、さらに対流を起こすことで汚れや膿を洗い流していく。
「え?なにこれ?魔法?。」
「な、なんと・・・。」
横にいたシェーラとバリアルが訳の分からないといった表情でその光景を眺めていた。以前にもシェーラに驚かれていたからきっと使い方がイレギュラーなんだろうな。なんせコンセプトは洗濯機なんだから。この世界にはない道具だから驚くのも無理はないか。現代日本で洗濯機に人を入れて洗うなんてことしたらワイドショーのいいネタだ。
「よし汚れはこれで終わりだな。」
あとは皮膚のほうだけどこれ俺の見立てでは病気というより毒のようだ。どうにも皮膚のアレルギー反応を起こすような毒じゃないだろうか?水の魔法には解毒もあるがここは暗黒魔法のほうが良さそうだ。洗っている最中も虚ろで目が合っていないリリィを見ながら精神的にも衰弱しているように感じた。暗黒魔法での回復は負の感情が多いほうが効果は高いのだ。
「今から回復させるから二人ともあんまり驚くなよ?」
「回復?水魔法で?」
「・・・効果があるとは思えんが少しでも楽になるなら頼む。」
水球に両手を突っ込んで暗黒魔法を発動させる。手から黒い靄が水球の中に広がりやがて全て、息継ぎの為に出ていた顔も覆い尽くす。さすがにそんな怪しい魔法を見たことがなかった為かバリアルが身構える。といっても拳を握るくらいだが。
暗黒魔法での回復は発動すれば治せるというものではない。身体の構造をある程度知っていなければ発動しても効果は薄い。現代日本レベルの知識があればこそいかせるということ、つまりこの世界の人に使いこなすのは難しいということだ。
まず、身体から不純物を取り出す。毒と考えた結果、原因物質を除去すれば後は皮膚と体力の回復でどうにでもなると考えた。あとはそれを行う負の魔力をリリィ本人から消費することで精神の負担を減らす。これは水魔法には出来ないことだった。
「よし、これでいいだろう。」
深く水球に腕を差し入れ、リリィを引きずり出す。そこには大きな狐耳をした裸の美少女がいた。瞼の欠損や皮膚の爛れなど一切ない、薄い茶髪の小柄な少女がいた。あんまりの美少女に正直、ビビった。水に濡れた前髪から滴る水滴がうなじを通り胸元へ滴る。まだ成長過程の体は健康的な色香を放っていた。これはちょっとまずいか。
「うっ・・・あ・・・。」
「ん?まだ寝てろ。」
「ん。」
少女はそれだけ言うと開きかけた瞼を再度閉じ眠りにつく。シェーラに後を頼もうと顔を向けるとシェーラとバリアルの二人は口をパクパクさせていた。金魚か、お前ら。
さてさて一体いつになったら出発するのか。それは作者も分かりません、すいません。




