第2章:チアクレアの糸 エピローグ
第2章:チアクレアの糸 エピローグ
「では、依頼は成功ということで報酬をお支払いいたします。」
「あぁ、頼む。」
「今日はシェーラさんは一緒じゃないんですね。」
「あはは、疲れたみたいでね。」
「この間から、シェーラさんの綺麗さに通う男性冒険者が多くて困ってるんです。落ち着いたら顔を出してそういう輩にビシッと言ってやってくださいとお伝えください。」
「あー・・・あぁ、そのうちな。」
ギルドでキルトに報告と報酬の受け取りを行った足で裏道から兵舎に向かう。ここは街の警備兵が詰めてる詰め所の横の宿舎兼訓練場になっている。この間のミリア隊に呼ばれているからだ。事件の詳細と顛末を教えてくれるらしい。
「すいません、第二兵舎はこちらですか?」
「そうだが、何者だ!」
「ミリア隊にロッカクが来たと伝えてもらえれば分かると思います。」
「ミリア隊?ちょっと待ってろ。誰か!ミリアんとこに客だと伝えてやれ!」
ここは第二兵舎。メインストリートの警備は混じりっ気なしの人間が務める為、裏通りや裏町は第二兵舎の仕事となる。もちろん、メインストリート以外の警備はほぼ担っていると言っていい為、その仕事量は煩雑な上に量も多い。約束はしているがいるとは限らないだろうな。
「待っていたぞ、こっちだ。」
ハーフドワーフのダイタツが出迎えに来てくれた、どうやら隊員は全て揃っているらしい。ダイタツが言うにはしばらく休暇がもらえたということだ。
「待ってたよ、ロッカク。」
通された部屋にはミリア隊と殴り書きされた表札が掛かっているだけだ。中には声をかけた隊長のミリアとカイトにアザレアが待っていた。
「元気そうだが、みんな体はもういいのか?」
「ふん、これでも鍛えてんだよ。」
憎まれ口を叩くのは声を上げることなく崩れ落ちたカイトか。良いとこなしだったからな。
「そんなことより、シェーラさんは相変わらずですか?」
「あぁ、相変わらずだ。」
「カイト、ダイタツ。周囲に人が来ないようそれとなく人払いをしてくれ。」
ミリアの指示で二人が部屋から出ていく。カイトはぶつぶつ言っていたが。
あの戦闘が終わってシェーラはすぐに目を覚ました。だが、様子がおかしかったんだ。様子というかもう見かけが変わってしまっていた。
「シェーラ!大丈・・・夫か?」
「う・・んん・・ここ・・は・・・?」
「マイバイからの帰り道だ、ケガはないようだけど・・・その・・」
いつの間にか、シェーラのサイズが一回り小さくなっていた。服がぶかぶかだし、何より胸が一回り小さくなっていた。なんてこった!ってか何が起こったら小さくなるんだ?それにしても気が付いたシェーラの態度も余所余所しい。
「シェーラ?」
「私はシエスタです。シエスタ・レ・カストルです。あなたは?」
「(それって隠していた名前じゃ)俺はロッカクじゃないか、忘れたのかよ?」
「ロッカク・・さん?すごく昔に聞いたような・・」
「いやいや・・・マジで言ってるのか?」
「でも懐かしい感じが・・・。」
「華麗にスルーされた。」
「ところで何で私はこんなところに?」
結局、その場では原因も分からずシェーラに事情を説明してなんとか同行してもらうことになったんだ。
「で?結局街に戻ってからも原因はわからないのか?」
「一応、医者にも診せた。一時的な記憶喪失だろうってことだった。だけど、そうは思えないんだよ。」
「そうか、酷い事件だっらからな。記憶に関しては焦ることはないさ、だが、身体が縮む、若返りか?に関してはもう少し調べる必要があるな。あとこっちも分かったことがあるんだよ。」
「事件に関することか?」
「あぁ、儀式に関することも少しだがわかった。アザレア。」
数冊の本を広げながらアザレアが説明を始める。本にはあの祭壇によく似た絵が描かれている。
「こちらを見てください、これは現地調査に行った人から聞いたものなので信憑性はあると思います。ロッカクさんが見た祭壇はこれと同じか似た物じゃなかったですか?」
「あぁ、よく似てる。これはボタンを押すと下から剣が飛び出す仕掛けだった。」
「やはり・・・これは吸験の祭壇というものでここで捧げられた供物の血を介して経験を任意の相手に送ることが出来るという魔族の儀式道具です。」
「魔族の?」
「現状、魔族が一番その道具を使いそうだからだ。魔王様への供物とも言ってたしな。」
「なるほどね。」
「続けますね、それでですね。本来はこの上で絶命することでその者の全てを捧げることになるんですけど、途中で儀式も破棄されて実行役の司祭も死亡したことで中途半端な儀式になったと考えられます。道中調べたところ、シェーラさんには魔力的な繋がりは見えませんでしたから多分、大丈夫だと思います。ただ・・・。」
「ただ?」
「失った記憶や経験は元に戻ることはないと思います。」
「確かか?」
「絶対とは言えませんが、送った先には色んな人の経験が集合していることを考えると咀嚼され混ぜ合わされていると考えたほうが自然ですので・・・。」
「経験・・・つまりその人が過ごした時間ってことか?」
「詳しいことまでは・・・そう考えたほうが自然ではありますね。捧げられた分の経験つまり年齢分、若返った。」
「魔王に捧げられてなければ若返りの儀式ってことで戦争でも起こりそうだな。」
「確かに危険ですね。魔王復活の危険があっても使いたい人は多いと思います。」
「こちらでも報告に関して誤魔化す方向で話をしている。今のところ、知っているのは私とアザレアだけだ。他の二人は儀式に対しては興味もないようだからな。」
「そうか、まぁそれはどうでもいいが。」
「すまん、力になれなくて。」
申し訳なさそうにミリアが頭を下げるが別に彼女のせいではない。謝られても困る。ミリアの頭の猫耳もペタンと垂れてしまっているし、尻尾も申し訳なさそうにうなだれている。うん、触りたい。そのタイミングでカイトとダイタツが戻ってきた。
「気にしなくてもいいよ。それより俺の疑いは晴れたと思っていいんだよな?」
「あぁ、真犯人捕縛に協力してくれたしな、もともと罪を犯してないんだから。あと犯人のメイドは魔王信者だった。」
「魔王信者?なんだそれ?」
「おいおい、そんなことも知らねーのか?冒険者失格だぞ?」
「カイト、ちゃちゃを入れるんじゃない。」
「倒された魔王の復活を目論む者がいるということだよ。」
「魔王って人類の脅威だったんだろ?なんでわざわざ復活なんて?」
「その力を利用したい者や破滅論者やら求められる理由は様々らしい。いい迷惑だがな。」
「全くその通りだ。」
「あと、この街での失踪事件の犯人でもあったから、私たちが追っていた相手でもあったから一石二鳥だったわけだ。手柄の二重取りってわけだ、むふふ。」
「きっとこれは金一封が出る気がします!」
「そうそう!きっと出る!出たら酒場のメルちゃんをデートに誘うぞー!」
「うむ。」
ミリア隊の面々がそれぞれ金一封に思いを馳せながらニヤニヤしている。兵士とはいえ生活はそこまで贅沢が出来るってわけではないらしい。その話をしたときのミリアの尻尾は嬉しそうに跳ね回っている。わかりやすいな、おい。
「あ、あぁ。実入りが良くて羨ましいな。」
「で?これからどうする?治療の目途はないんだろ?」
「んー。とりあえず街は出るつもりだよ。」
「街を出るのか?」
「シェーラはこの街じゃ目立ちすぎるからな。ここじゃ落ち着いて治療が出来ないなら別のところに行くまでだ。これでもパーティだからな。」
「そっか。ま、それもいいんじゃないか。キルトあたりは残念がるだろうけど。」
「キルトと知り合いだったのか。」
「兵士だからな、そこそこ顔が利くさ。出るなら挨拶くらいはしてやりなよ?」
「分かってるよ。」
話が終わり兵舎を後にする。結構気軽に話せるようになった連中だったが、この街ともお別れとなればもう会うこともないだろう。
一応、出る前にキルトにも挨拶しておかないとな。その前に、目的地の情報収集と装備品の補修と食料の補充、寝床の引き払い。やることは結構多いな。
にしても、ミリア隊長の猫耳・・・触ってみたかったなぁ。く~!初めて出来た獣人の知り合いだったのにここのところずっとシリアス路線だったからかあんまり話せなかったし頼めば触らせてくれたのかなぁ。でもきっとあれだな、触らせるのは好きな相手だけとかって感じだろうな、異世界ものじゃど定番だ。頼むのはタダだし今度言ってみよう。
「ミリア隊長、師団長が呼んでます。師団長室までお願いします。」
呼び出しの兵が帰ったあと不安そうな顔で見ている。
「心配するな。すぐに戻る。」
「おう、すぐに戻って来てくださいな。皆でメルちゃんの店に行きましょうや。」
「そうですよ、今日は打ち上げしましょう!打ち上げ!」
「うむ。」
「分かった分かった。」
「席、取っといてくれ。」
コンコン
「師団長殿、ミリア参りました。」
「入れ。」
「失礼します。」
師団長室には副官と師団長がこちらを見据えている。見るからに戦士然とした佇まいの師団長と頭脳派と言わんばかりの華奢な副官だ。正直、兵舎にいても分隊の中のさらに小隊の隊長程度では軍法会議でもなければ会うことなどまずない。やましいことがないわけではないが今回は咎められるようなことした覚えはない、にも関わらず冷汗が流れる。
「今回はよくやった。この街での失踪事件に加え、マイバイの村での冒険者の失踪ならびに魔王信奉者による魔王復活の足掛かりになりうる儀式の阻止。第2兵舎がこの事件を解決できたことは僥倖だった。」
「ありがとうございます。」
「第1・・正規軍の鼻をあかすことにはなったことは喜ばしい・・・が、それによりお前たちに小隊は他の
街に派遣されることになった。」
「派遣ですか?」
「そうだ。」
それまで黙っていた副官が口を開く。
「今回の事件解決の手腕を見込んで、技術指導に行ってほしいということです。」
「え?技術?我々の・・・ですか?」
「そうです。」
「あの・・こう言っては何ですが・・我々の小隊はどちらかと言えば落ちこぼれの部類なんですが。」
「それでも、ほしいというところは多いということでしょう。それにあなた方が落ちこぼれだとすればこの
街の戦力を大きく減らすことなく他の街にも貢献できるということです。」
「そうですか、それで期間はどのくらいでしょうか?」
「未定です。そもそも出張というわけではありません。」
「・・・失礼ながら左遷と言われているように聞こえなくもないんですが。」
「ここより大きい街に行く場合は栄転というのではないでしょうか。」
ガタッ
師団長がおもむろに立ち上がり、ミリアの前まで歩み寄る。
「というよりもな、もう決定事項となっている。これに関して拒否権はない。」
「そんな・・・。」
「出来るだけ、良い条件の街を選ぶつもりだ。詳細は追って通達する。下がっていいぞ。」
「・・・はっ!失礼します。」
ミリアが退室した後
「よろしかったのですか?」
「よろしいも何も、どうしようもないだろ。」
「それはそうですが。」
「大体、第2兵舎が力をつけることを恐れた一部の正規軍から圧力がかかって屈しました、なんて言えるか
よ。情けねぇ。」
「そこを何とかするのが師団長なんじゃないですか?」
「無茶言うなよ、この街で・・この国で亜人の扱いなんてたかが知れてるだろ。あいつらかばったくらいで変わるとは思えないが、まだ早いだろ。時期じゃねーよ。」
「その割に苦虫を噛みつぶしたような顔ですね。」
「理屈と感情は別もんだよ。現状で正しいってわかっているが、心情的にはクソくらえだ。」
「それには同意です。巻き込まれるほうはたまったものではありませんが。」
「少しでもマシなところに送ってやるくらいしかな出来んがな。」
遅くなりましたが、連載は続きます。
ゆーっくりですが。
これからもよろしくお願いします。




