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もう魔王やめます。  作者: まさきえき
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第2章:チアクレアの糸08

第2章:チアクレアの糸08


「では皆さま、その後ろの荷台は処分させていただきますね。あぁ、皆さんは死んじゃってください。生き残れたら魔王様の供物にして差し上げますので。」


 メイドの雰囲気が変わったことが開戦の合図となった。アザレアが詠唱を開始しカイトが牽制なしでメイドの足を奪いに弓を放つ。それと同時にダイタツと私が駆け出す。跳躍を使い一気に距離を縮めるつもりで駆け出すがそこには地面を穿つ矢があるのみでメイドの姿はない。


「きゃぁ!」


 アザレアの悲鳴に振り返るとどうやったのか吹き飛ばされて馬車に叩きつけられて気を失った彼女がそこにいるだけだ。またもメイドの姿はない。


次に見えたのはこちらに吹き飛んでくるダイタツだった。さすがにダイタツの体を受け止めることは出来ずに一緒に吹き飛んでしまう。彼は気を失うことはなかったが、腕を折られたらしい、これでは戦線に復帰は難しいだろう。

 

 一体何が起こっているんだ。こうもあっさりと小隊が無力化されようとしているなんて。


「あらあら、もう終わりですか?では皆さん供物いきということでよろしいですね。ふふ、皆さん生きているなんて私も手加減を覚えました。喜ばしいことです。」


 その声に、顔を上げるとカイトがメイドの足元に崩れ落ちるところだった。ここからでは生死は分からない。


「うふふ、心配しなくても皆さんも供物としての役目を終えたら同じようにしてあげますからね。」


 そう言い終わるやいなや、魔法の詠唱に入る。


「聞け!そしてこの声に応え顕現せよ!其は業火!全てを焼き払う者也!焼き尽くす者(バーストエンド)!」


無音で立ち上る業火、包まれる馬車。悲鳴を挙げることなく消失する馬。こんな特殊な炎の魔法があるなんて・・・。


「アザレア?アザレアは?馬車のところにいたはず!」


「あら?一緒に燃やし尽くしちゃいましたか?あらら、こうなっては燃えカスも残りませんよ。今までもそ

うでしたから。」


「今までも・・・?まさか、街での失踪事件は・・・お前が?」


「あら?そんなところまで捜査してたんですか?ふふ、証拠なんてなかったでしょう?骨も残りませんから。まぁすぐに同じところに逝けるんですから、嘆くことはありませんよ。」


「お前がぁぁぁ!!」


 そう叫びながら全力で駆ける、今までにないスピードで駆ける。手には使い慣れたブロードソードで渾身の突きを放つように、いや私自身が一本の矢のように敵を貫く為に駆ける。そしてその首を貫くその瞬間に相手の姿が掻き消える。耳元で一言囁くように声が聞こえる。


「残念、惜しかったですね。」


そのまま腹部を蹴り上げられ吐物をまき散らしながら地面に叩きつけられる。目の前に敵がいるのに何もできない。こんな無力感をあじわったことない。


「そんなに怒るなんて、もしかしてお知り合い殺しちゃいましたか?ふふ。ならすぐにあなたも送ってあげましょう。それが私の慈悲ですから。」


 ゆっくりと歩いてい来るメイドを見ながら、涙がこぼれる。敵も討てない、仲間も助けられない、手も足も出ないまま殺される。悔しい。こんなことならやる気なんて出さずに兵舎でダラダラしてたら良かった。ごめん、みんな。


「ちょっと気が早いんじゃないか?焼け残ってるぞ?」


「誰!?」







 メイドが隊長さんに止めを刺しそうだったから声をかけて注意を引く。両脇にシェーラとアザレアを抱えており動きが取れないため、二人を下ろす。他のやつも一応、息はあるみたいだ。


「あら、あなた。逃げていたんですね。運が良いことで。でも声をかけてくるなんてバカなんですか?」


「何言ってんだ、そうしないとお前、皆殺しにする気だっただろ。」


「それはもちろん、贄ですからね。もちろんあなたも。」


「悪いが、やられるつもりはないし、身の潔白を晴らすためにもあんたには捕まってもらうよ。せっかく手に入れた身分を手放すわけにはいかんのよ。」


「ふふ、訳の分からないことを。新人冒険者が私に勝てるつもりでいるのは若さゆえ、なんでしょうか?」


「良くしゃべるのはアレだろ?弱い犬ほど良く吠えるってやつだろ?」


「うふふふふふ、減らず口を。後悔なさいな。」


 メイドは一気に加速して俺の背後から拳による攻撃を仕掛けてくるが、見えているぞ。拳の方向を右の手の甲でいなしながら、そのまま回転力を左の拳に乗せて右側腹部に叩き込む。その瞬間まで薄笑いを浮かべ自分がカウンターを食らうことなんて夢にも思っていないって顔をしてやがる。


「!!!!!!」


 びちゃびちゃびちゃびちゃ


驚愕の表情を浮かべながら声にならない声を上げながら嘔吐を繰り返す。それもすぐに収め体制を整えている。さすがに油断はなくなっているようだ。


「はぁはぁ・・・なにを・・なにをした・・?」


「何って腹パンだ。」


「バカな!あのスピードで返し技など出せるわけがない!」


「そうか、ならそうなんだろうな。」


「バカに、バカにしやがって!!」


「興奮して男が出てるぞ?」


「!?貴様気付いて!?」


「お前が男ってことか?」


「殺す!私の秘密を知った者は全て殺す!」


「う・・・ん・・・。」


「シェーラ?」


最悪のタイミングでシェーラが目を覚ましそうだ。血生臭い時に目を覚ますなんてさすが「不幸招来」といったところか。寝てても発動するのね。


メイドが両腕を掲げ詠唱を終えようとしている。なら止めるまでだ。


「終わりだ!!燃え尽きろ!焼き尽くす者(バーストエンド)!」


 発動する前、唱え終わるより早く落ちたブロードソードでその両腕を前腕より切り飛ばす。吹き出す血、地面に落ちる腕、炎は巻き起こることはなく集まった魔力は霧散する。そのまま左の掌底を顎の下からかち上げ意識を奪う。こうして犯人の無力化は成された。


 成されたんだが、いくつか問題も出てきた。俺は問題をどうするか困ることになる。






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