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もう魔王やめます。  作者: まさきえき
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第2章:チアクレアの糸04



「いなくなった?いや、酒が飲みかけで放置・・・それはないか。尋ねてくるような人もいないだろうし。」


 灯りがついてないってことは、付ける前に何かあったか、誰かに灯りを消されたか。それにこの酒は・・・家にはなかったはずだし持ち込みの物の中に酒なんてなかった。いや、討伐が終わったのは獲物を見ればすぐにわかるはずだ。村の男どもはシェーラには注目していたし、俺が村長のところに行ったのなんてすぐに分かるだろう。

 と、いうことは差し入れをするような奴がいても不思議ではない・・・か。それに悪戯目的ならこの酒に何か細工することもあるか。


名称:ライリーの酒(初年度)

説明:この地方の代表的な果実酒。フルーティな甘みと程よい酸味が人気。女性でも飲みやすく等級に応じて価値が変わる。年代物になればなるほど高価となる。

状態;睡眠作用付与


 あちゃー、睡眠作用ってことは眠ってるな。まんまと騙されたってことか。それにしても連れ出したような痕跡もない。室内に秘密が?


 部屋の中を見渡す。まだ帰ってきて明かりもつけていない、それは周囲で様子を伺っているであろう者に動きを掴ませないためだ。暗黒魔法の付帯効果で夜目が利くがこれだけでは足りないな。


「あれを使ってみるか。」


 水魔法を発動させる。しかし水弾や水壁を作るわけではない。もっと小さい単位で発動させる、それは分子の振動で温度変化を起こさせることが出来るロッカクには出来て当然のことだ。家の中の空間という空間にある水分を振動させる。その振動が及ぶのは半径50mほどだが今回は家の中に限定して発動させる。


「水性範囲索敵|ディメンションウォーター」


 土の中や障害物だと水分の分布に違いが出てくる。その分布差で空間を把握しようというわけだ。索敵の能力が低いことで敵の接近を許した前回の教訓から、考えた末の方法だった。それに伴い、分子振動による温度変化の有効性を見出した。エールを冷やしたのもその応用だ。


「これは・・・。」


 部屋の片隅に空間があるのが分かる。空間というか長く伸びた通路と言ったほうがただしいだろう。床にもよく見れば継ぎ目がある。ここから侵入して眠ったであろうシェーラを連れ去ったというわけか。


 それにしても何故?悪戯目的?確かにシェーラは魅力的だが村人ではどうにもならなかったロータスを倒すような冒険者相手に?それはないだろう、リスクが大きい。そのリスクを冒してまで行う何かがあるんだろうか?それにこの家に入ってきた時に感じた強烈な血の匂い。通路からはさらに濃い匂いがしている。これは嫌な予感しかしないな。急いだほうが良さそうだ。


通路自体は床下に掘った穴のようなものだが緩やかに下のほうに伸びている空気の流れがわずかにあるみたいだから他に出口があると考えたほうがいいか。問題は誰がこんな真似をしたかだ、単独犯・・・ではないよな、流石に。


 緩やかだった通路が平坦に変わり他の通路が出てくる。んーこれはどう進んだらいいものか。


「おい、そろそろ始まるのか?」

「あぁ、もうすぐみたいだ。急ごうぜ、遅れたら順番が後回しにされちまう。」

「それは勘弁だな。」


「影潜り|シャドウレイテント」


 呟いた俺は通路から出てきた村人の影に潜り込む。これで目的地まで行けるだろう。それにしてもそろそろ始まるってのは何のことだ?村人の影に入ってしばらくすると20平方メートルほどの広さの場所に来ていた。どうやら前には他にも村人が集まっているようだ。ざわざわと人の気配が多数聞こえてくる。


 くそ、影からのぞいても足元だから良く見えないな。多分、前に台座っぽいのがあるからそこにシェーラはいるのか?


 誰かが入ってくる気配があり、それと同時にざわめきが小さくなっていくのがわかる。誰か中心人物が来たんだろうか?台座を照らす篝火の音だけが響いている。


「皆の者!司祭様のお言葉がある、聞くがよい。」


 この声は、村長?それに司祭?何が始まるんだ?


「さて、皆さん。再びお集まりいただきありがとうございます。こうして皆さんと時間を共に出来て私は感無量です。今回栄誉ある王の元への旅路に向かうのは美しき冒険者の方です。この方は我々の考えに賛同してくださり、その身を捧げてくれることを快く了承してくださいました。これにより王の帰還にまた一歩近づくことが出来るでしょう。そして、この村のさらなる繁栄をもたらしてくれることでしょう。さぁ、王と王の元へ旅立つ者への祈りを捧げましょう。」


 思いのほか若く張りのある声だが、「王の元へ旅立つ」か、これは命に関わるかもしれん。台座に四肢を拘束されたシェーラに向かって祈りが始まる。祈りの言葉を斉唱し広間に響き渡っている。頃合いか、主要なメンバーも出揃ったみたいだし、真相を聞かせてもらうぞ。白いローブに錫杖を持ち深くフードを被っている司祭の傍へ気配を殺して忍び寄る。


「さぁ、ここに集いし村を憂う者たちよ。王に願いを捧げこの純白の乙女を捧げよう。」


「司祭様、乙女ですか?」


「紛れもなく乙女ですよ、宝珠もそう反応しています。」


「見た目は到底生娘には見えませんがね。」


「そういうのが好きなのもいるでしょう。」


「ぐふふ、司祭様もわかっていらっしゃる。」


「何はともあれ、まずは王への供物として、それからは・・・好きにしたらいいでしょう。」


「高く売れそうで、嬉しい限りです。」


「だけど、性格は結構キツイから大変じゃないか?」


「性格など問題ではない。どうせ人形に成り下がるんだからな。その容姿があれば欲しがる好き者は多いさ。」


「それは困った。俺の相棒なんだからな。」


「相棒?・・・!な、何者だ!」


 村長の怒声に祷りが止まり村人は戸惑っている。皆が仮面の男、俺に注目している。


「お前は冒険者の片割れか!皆の者、捉えよ!逃がしてはならんぞ!」


「「「は、はい。村長様!」」」


「ち、無駄に数が多い。」


素手で襲ってくる村人なんかゴブリンに比べたら相手にもならないが、数が多いし、人数のわりに狭く戦いずらい。長物は殺してしまうし、拳骨で気絶させるしかないか。迫ってくる村人を殴り飛ばしながら周囲に目を向けると司祭がシェーラに近づいていくのが見えた。


何かをするのは明白だった。シェーラに向かって駆け出すが、村人が邪魔をする。司祭が懐から何かを取り出すのが見えたが、腰にしがみついた村人が歩を進めさせてくれない。


「ふ、何者かは知らないがこの者はすでに魔王様への供物となる運命なのだ。諦めるがいい、その後でお前は涅槃へ旅立たせてやろう。」


「そんなもの望んではいないんだよ!」


「ふん、遅かったな。」


 司祭の取り出した小瓶の中身をシェーラの上に振り掛けると、シェーラの体が痙攣を始める。ビクビクと痙攣を繰り返しながら口からは泡を履き力のない目から涙を流している、一目見て不味い状態だとわかる。泡だらけの口からは食べた物も吐き出している。


 村人を吹き飛ばして司祭というその男との距離を詰め、胸ぐらを掴みあげる。ここにきてその男は笑っていた。さも目的は達したとでも言わんばかりだ。


「言え!何をした!」


「言ったでしょう?この女は供物だと。魔王様への供物である、この女も本望だろう。」


「ちっ!何を掛けた!?何が起こっている!」


「そんなこと言うわけがなかろう?」


「くそ!」


「ぐっ!村長!おやりなさい!」


 シェーラのそばまで来ていた村長の手にはナイフが握られている。そんなことをさせるわけにはいかない、長槍を影から取り出しそのまま村長に投げる。一直線に村長の背後から右背肩甲骨部から肩を貫き壁に貼り付ける。しぶといことにまだ生きているようだ。


「ぐぅあぁぁ、肩がぁぁ!!」


「村長、役立たずですね。なら、私がするしかないのですね。」


 痙攣が収まり、荒い呼吸を繰り返しているが吐物で上手く息が吸えていない。このままだと窒息してしまう。シェーラの体が薄い光を放つている、何かが起こっている、何とかしないと。


「仮面の君よ。その武力、私の為に生かしませんか?そうすればこのままこの女を楽にしてあげましょう。どうせこのまま生き残れるわけではな・・・。」


 顔面の真ん中を拳で打ち抜く。もうこれ以上、話を聞いている時間はなさそうだ。台座に近づこうとする俺に司祭はさらに声をかけてくる。


「素晴らしい!その力!だが足りませんでしたね。私を止めるには至らなかった。これでお終いです!」


 倒れたまま、床のギミックを叩く。






家の近所はズバットしかいませんでした。

更新は遅いですが、宜しくお願いします。

夏休みですが私の休みはもう終わりました。切ないです。

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