第2章:チアクレアの糸03
第2章:チアクレアの糸03
「ちょっと失礼するよ。」
「ゲッ、ミリアさん。」
客もいない、のんびりとした昼下がり。盗賊ギルドの受付でキルトが書類整理に精を出していると、警らの兵士が入ってきた。兵士と言ってもその格好はブロードソードに皮鎧に肩当、皮兜といった平時の兵装だ。しかも着崩しているため、鎧の紋章がなければゴロツキに見えてしまう。
「ゲッてなんだ?テメェは、連行されたいのか?あぁ?」
「そこらのゴロツキより態度悪いじゃないですか!」
「なんだよ、せっかく仕事を斡旋してやった舎弟の様子を見に来てやったってのに。」
「はぁ、感謝はしてますけど。あと舎弟じゃないですから・・・で?あなたがそれだけでここに来るわけないでしょ?」
「まぁな。捜査のついでだよ。ここ最近変わったことないかい?」
「変わったことですか?特に変な依頼はないですけど。」
「依頼に変わりなしか。死者が増えたりとかは?」
「・・・依頼、未達成で死者が出ることは別に不思議じゃないですよ。ただマイバイの村での依頼未達成が増えてるくらいです。」
「マイバイ?あんな何もない村で?」
「時期的にロータスが増えてきているようです。村の支払い能力は低いので依頼のランクも低く設定されてるので、それが原因でしょうね。といってもロータスですから、よほど準備不足や油断がなければ大丈夫なんですけど。」
「それなのに依頼が達成できない、ってか。」
「えぇ、それは冒険者側の問題だとは思います。」
「んー・・・何とも言えないな。」
「一体なんですか?不真面目なミリアさんがここまで捜査に来るなんてよっぽどだと思いますけど。」
「不真面目じゃねーよ!やる気がないだけ。ヤル気はあるんだけどな!」
「いやいや、下品ですから。」
「こんなギルドの受付やってんだから少しは免疫つけとけよ!」
「はぁ・・・。」
「で、変わったことの続きだけど、無幸がまたパーティ組んだんだってな?」
「・・・耳が早いですね。でも相手はランクFの駆け出しですから、シェーラさんも無茶はしないと思います
よ。この前もレッドボアを無難に狩ってましたから。」
「無幸のことはいいんだよ。パーティメンバーのことを教えな。」
「・・・あんまり当ギルドのメンバーのことを詮索されたくないんですけど。」
「別にいいんだぜ?捜査権使って、書類を全てチェックさせてもらうことだって出来るんだからなぁ。」
ミリアと呼ばれた兵士が意地の悪そうな笑みを浮かべながらテーブルをトントンと指で叩いている。盛大な溜息を付きながら、ない腹を探られるなら最近知り合った冒険者の情報をある程度提供したほうがいいだろうと計算する。
「分かりましたよ。別に隠しているわけでもないですから。名前はロッカクさんで年齢は自分じゃ分からないって言ってました。なんでも田舎から出てきたばっかりだとか。見た目は15~17歳ってところですか。ただ仮面を付けているのでこちらも正確なことはわかりません。仮面と言っても目を隠すくらいなものなので、別人かどうかはすぐに判断できますよ。」
「お教えできるのはこのくらいですね。」
「仮面ねぇ・・・そいつのレベルとスキルは?」
「・・・そこまで聞くんですか?」
いつもはちゃんぽらんで仕事も不真面目なのに今回に限って真剣に話を振ってくるミリアに違和感を覚えながら問いかける。
「あぁ、こっちも訳ありだ。ほれ、続き続き。」
「はいはい、レベルは5。その割に多才で闇魔法、水魔法、土魔法、雷魔法の使い手です。それに魔法職では珍しい怪力も持ってます。」
「レベル5でそれはすげーな。軍に入ればエリートコース確定じゃねーか。なんで冒険者なんてやってんだよ?」
「それは・・・そんな個人的なことはわかりませんが、事情があるみたいですよ。」
「それもそうか、こんなギルドに入るくらいだからな。案外、凄腕の暗殺者だったりしてな。」
「それはないと思いますよ。一番最初に来た時にシェーラさんにぶん投げられてましたから。」
「はっ!無幸らしいな!」
カウンターをバンバン叩きながら笑う。今はキルトしかいないのでギルド内に響き渡っている。
「にしても、仮面か。・・・怪しいっちゃ怪しいな。魔法も使えるし、条件には一致する点も多いか。」
「なぁキルト、そいつが村に行ったのはいつだ?」
「昨日ですよ。今頃依頼達成してるかもしれませんね。」
「真面目に依頼達成してればな。」
「何があったのかは知りませんが、人格的には好感が持てる人ですよ?」
「そんなのはいくらでも取り繕えるんだよ。」
「ミリアさんが言うと説得力皆無ですね。」
「・・・うるせー。ま、いいや。邪魔したな」
数日前から街中で行われたと考えられる数件の失踪事件もしくは殺人事件。実際の被害者、犯人は見つかっていない。共通点は現場と思しき場所には焦げた石畳と焦げた匂いがかすかに残るだけ。目撃者は酔っ払いの証言一件のみ。さらに言えば確証はないが兵士の無断欠勤が増えてきている。
それで何故、不真面目兵士のミリアが捜査をしているかというとミリアの周囲で行方不明の者が一人。その者は同僚であり上司であり顧客だった。それが仕事にも出ず、その皺寄せがミリアに回り、夜の仕事もすっぽかされて稼ぎが減るに至り、ここ最近の事件により昼間の仕事量の増加、夜間見回りの強化ですっかり仕事漬けの日々にうんざりし本腰入れて捜査を始めたわけだ。
「はぁ、とりあえずマイバイの村に行ってみるか。」
「ミリア、兵士になりたいなら俺の愛人になればいい。ふふん、どうだ?」
「そ、それは本当に?」
「もちろんだとも。」
兵士徴用時に今の上司からそう持ち掛けられて渋々受け入れて早3年、15歳で兵士になったミリアと上司の関係は週1回の関係は続けられていた。さすがに3年も周りにバレないわけもなく公然の秘密となっていた。それをネタに関係を迫ってくるアホもいたが、そこは武力で黙らせてきた。さすがに3年もそんな関係を続ければ情も沸く。仕方なく捜査をすることにしたのだ。
武力には自信があるが頭を使うのは苦手だった。だが体を使うのは得意だ。そうなればやることは一つ。聞き込みで情報を集める。その結果、マイバイの村に怪しい冒険者がいるなら手掛かりのない今は、現地に向かうしかないだろう。
「で?俺たちはそのマイバイの村に行くわけで?」
「そうだよ、文句ありそうな物言いだなぁ?」
「そりゃ、俺たちミリア隊は行方不明事件を担当してるからいいんですけど、でもその怪しい冒険者って火魔法使えないんでしょ?根拠として弱いんじゃないですか?」
「別に私は文句ないですよー」
「俺も・・ない。」
馬車でマイバイに向かう途中、ミリアの小隊の隊員であるカイト、アザリア、ダイタツの3人にミリアを加えた4人で構成されている。猫の獣人であるミリア、ハーフエルフで狩人のカイト、人族の魔術師のアザレア、ハーフドアーフの槌使いダイタツ。この4人が裏町担当の警ら小隊の一つである。
「はぁ、まったくお前らは・・・今頃、飲み屋のメルちゃんと楽しくお話しているところだったはずなのに。」
「「それはない。」」
「揃ってんじゃねーよ!にしても、隊長、よく許可おりましたねーさすがに街を離れるのは難しいとおもったんですけど。」
「まぁ、上もこう兵士ばかり狙われると世間体が悪いからな。可能性は潰しておきたいんだろうよ。」
干し肉を齧りながらつまんなそうに呟く。
数時間前。
「あの男がいなくなったんだ、次は俺でもいいだろう?なぁ?」
「ふふ、だったらもう少し騒動が落ち着いてからってことでもいいでしょう?それにいきなり鞍替えすると私の評判も落ちるから、しばらくは必死に捜査してるって建前で行きたいんですよ。だから、マイバイの村への出張・・・認めてくださいよ。そしたら・・・ね?」
「ぐふふふ、それくらい任せておけ。楽しみだなぁ・・・ぐふふふ。」
失踪した上司のさらに上の上司に呼ばれたと思えば、愛人になれって誘いだった。下卑た笑いと脂ぎった顔、臭い息が嫌で拒否しまくってたが、出張の許可を出すのがその豚だったので仕方なく交換条件を出した。ま、終わった後ならいくらでも口実つけてはぐらかせばいいか。
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