第2章:チアクレアの糸
とりあえずの新章突入です
ポツポツと降り出した雨が地面に広がる血だまりをゆっくりと洗い流していく。このままだと全て洗い流すまでにかなりの時間がかかるだろう。それだけの時間を放っておくわけにはいかない。騒ぎになればそれはそれで面倒だ。
佇んでる人物が小声で詠唱を行い「無音」で高密度の火球を血だまりの中にある肉塊に放つと地面ごと炭化させ、そのまま風を起こし吹き飛ばす。これで痕跡は消すことが出来た。その人物はそのまま闇に紛れるように街中に消えていく。
路地から数m先には何事もなかったかのような光景が広がっていた。通りを行き来する人々がそこでの出来事に気付くことはなかった。そこには日常と非日常が混在していた。
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「なにさ、ちょっとした勘違いをしただけじゃないさ。あんまり弄るんじゃないよ。」
「悪かったよ。ほんの冗談だって。」
臍を曲げたシェーラをなだめつつ昨夜から今朝までのことを思い出していた。元はと言えばシェーラが酔い潰れて帰る場所を教えてなかったのがいけなかったんだ。
昨夜は飲み過ぎたシェーラを連れて仕方なく俺の定宿、馬小屋へ連れてきたわけだ。とりあえず毛布と干し草はあるから俺の服をシーツ代わりにして毛布を掛けて、俺は少し離れた場所で寝たんだ。もちろん色々葛藤があったのは言うまでもない。酔ったシェーラは尋常じゃないくらい色っぽかった、ってか顔がめっちゃエロかった。トロンと潤んだ瞳に微笑みながら俺の顔をその胸に押し付けた時にはもうどうにでもなっていいかと思ったがかろうじて理性の鎖が勝ったことを褒めてほしいくらいだ。
そんなわけで悶々としたまま、そう悶々としたまま寝たわけだ。・・・いや、朝方まで本当に寝れなかった。悩ましい寝息、吐息・・・俺の体が若返ってるのを実感することになるのだが、理性は大人なので我慢をするという拷問に耐えて疲労困憊で気が付くと寝ていたというわけだった。
むしろ、褒めてしかるべきところにも関わらず。
「な、な、な、なな、なんで!なんで裸なんだよ!はっ!え?もしかして?え?でも、記憶ない・・・。そんな・・・うそ・・。」
ひとしきりブツブツ言った後、おもむろに立ち上がり俺のところに来て俯きながら、聞いてきたんだ。
「・・・な、なぁ。もしかして昨日・・その、何かあった・・のか?」
「何かって?」
「そりゃ、その・・ナニしたのかってことだよ。」
小声でぼそぼそと聞いてくる。顔も耳も真っ赤にして。初めてでもあるまいに初々しい反応だな。
「昨日は激しくて朝まで寝れなかったよ。お陰で寝不足だ、今日は昼まで寝てたいなぁ。」
「え?私が激しく?朝まで?あれ?記憶にない・・・。」
腑に落ちないようでうんうん唸ってる。そりゃ俺みたいなガキが相手じゃ悩みもするか。あんまりからかうと後が怖そうだな。そろそろ・・・。
「嘘ついてないだろうね?嘘だったらタダじゃおかないけど。」
「嘘と認めよう。ごめんなさい。」
「即答?意味ない嘘つくんじゃないよ!」
「なんかテンパってたからからかいました。」
「無駄に素直だね、襲おうとか思わなかったのかい?」
「はい、面倒くさそうなので。」
「面倒ってなんだい!」
「じゃ、後半の臭そうで。」
「え?く、臭い・・・かな?」
「まさか、いい匂いしかしない。」
「さっきからからかうんじゃないよ!」
「まぁまぁ、とにかく何もしてないから、安心してよ。」
「そうかい、ならいいけど・・・何もなかったのか・・・。」
微妙な表情でブツブツ言ってるけど、起きたんなら今後のことを計画立てたりしないといけない。その前にとりあえず飯を食べようってことになった。
「で、ギルドに来たわけですか。」
「あぁ、いいクエストあれば教えてくれ。」
盗賊ギルドで受付のキルトと雑談がてらクエストの情報を集めている。掲示板のほうは朝食を酒場に頼みに行ったシェーラが見てくることになってる。朝の時間は盗賊ギルドは人がいないからカウンターのキルトから情報を貰いやすい。ピークの時間だとそこまでの時間は取れないし、事務手続きだけでキルトもいっぱいいっぱいみたいしね。
「そうですね、昨日のゴブリンの群れを二人でって話は正直見てないので何とも言えないですが、同一ランクではかなりの人数でパーティを組まなければ無理でしょう。高ランクなら可能かもしれないですが、ここにはいませんし。」
「信じてないっていうことか?」
「いえ、私からすると客観性に欠けるということです。私が見たわけではないですし、ゴブリンの討伐部位を可能な限り先に集めていたって可能性もあるでしょう。」
「それもそうだなぁ。」
以前自分が、ローキャットでそういったことをしていたってことにしているし、今更違うって言ってだめそうだ。
「ただ、レッドボアを仕留めたのは間違いないと思いますのでEランクの討伐も可能と思われます。紹介いたしますか?」
「ぜひ頼む。」
「では、ロータスの討伐ですね。こちらはEランクの依頼になります。討伐達成数は3匹です。期間は5日で達成となります。場所はこの街から出て馬車で4時間ほど行ったところにマイバイという村があります。そこの牧場を荒らすので何とかしてほしいとのことです。」
「全部討伐しなくてもいいのか?」
「えぇ、間引くだけでいいそうです。数が多くなれば人間のほうに来ますが、そこまで多くなければわざわざ人のところまでは来ないそうです。それに縄張り意識が強いのでいてくれると魔物の侵入を防いでくれるので益獣の側面もあるそうですよ。」
「そうか、なら結構近いしそれを受けるかな。ちょっとシェーラと相談してまたくるよ。」
「あー、馬車ってのは何でこんなに尻がいたいんだろうね、全く。」
「シェーラの尻は肉付きがいいから俺より痛くなくていいじゃないか。」
「太っているとでも言うのかい??喧嘩を売ってるんだね?」
「あははは、嫌だなぁ。そんなわけないじゃないですか。なんなら膝の上にでも座りますか?」
「膝の上?・・・・・ば、バッカ!そんなの出来るわけないじゃないか!」
耳まで赤くして怒らなくてもいいのに。からかいがいがあることです。結局シェーラのほうはいい依頼がなかった為、ロータスっていう獣の間引きクエストを受けることにした。聞くところによるとロータスは野牛のような魔物らしい。敵だと思われなければそこまで危険がないから村の近くにも生息しているということだ。ただ数が増えれば今回みたいに討伐を依頼するってことみたいだ。
「おい、あんちゃんたち。そろそろ村が見えてくるぞ。」
定期便の御者に促されて村のほうに目をやる。なんとものどかそうな村が見えてくる。昔は田舎暮らしに憧れたもんだが、一度都会に出た身からすると横のつながりが濃いってのはそれはそれで息苦しいこともあるんじゃないかと考えて踏み切れなかったのを思い出す。仕事も何もかもほったらかして田舎に・・・。なんて逃げだよなぁ。それにも文句をつけようとする自分が酷く我儘にも感じる。
「どうしたの?見入っちゃってるけど、知ってる村だった?」
「いや、そういうわけじゃないけど。・・・今はどう生きられてるのかなって考えた。」
「はぁ?」
「あー、なんでもないよ。ほらそろそろ降りるから、重たいならその尻押してやるけど?」
「ふざけんじゃないよ!」
遠目からのどかだった村だが入ってからものどかだ。玄関先で近くのおばちゃんたちが集まって井戸端会議をしながら野菜の仕分けをしている。小さな子供たちはその周りで走り回ってる。ごくありふれた農村の風景だ。もちろん、馬車から降りた俺達には奇異の目が向けられる、仮面をつけた怪しい奴と赤髪の美人だとどうしても目を引くようだ。まずは依頼主の村長の家へと向かう。
「こんな怪しげな連中しかいなかったのか・・・全く。」
ブツブツと聞こえないように声を落としてなおしっかり聞き取れるのは普段から大きな声で喋ってるからだろう。村長であるこの男は体格もよく声もでかい、典型的なワンマンタイプの男だ。案内された応接間には茶も出してはくれていない。早く出て行ってほしいってことだろうな。あからさまなんで、ちょっと笑えてくる。
「何かおかしいのか?」
「いえ、情報を教えていただけたら早速取り掛かりますので、お話を聞かせてください。」
「あぁ、出現する場所は村の東にある放牧地だ。現状は10頭ほど群れがいるが3頭も間引けばこっちまではこないだろう。それ以上は間引いてくれるなよ。」
「わかりました。あと私たちの寝床はどうなりますか?ギルドではこちらが用意してくれると聞いてますが。」
「あぁ、村に空き家が一軒あるからそこを使ってくれて構わん。家具一式そのままだからな。食料は村で買うことが出来るからな。」
「わかりました。ではこれで失礼します。」
「ふん。」
極めて事務的な話のみで村長の家をあとにし、拠点となる家に案内された。村長の家のメイドはその家を見るのも嫌だという風に目を背けている。えっと、俺たちここに泊まるのにそんな目をされたら泊まりにくい。
「この家ですか、この家がどうかしましたか?」
「・・・いえ、カギはこちらです。では私は行きますので。」
「はい、ありがとうございます。」
「・・・・・・。」
メイドを見送ってからシェーラに話しかける。そういえばずっと黙ってたなぁ。珍しい。
「シェーラ?」
「ん?」
「何でずっと黙ってたんだ?」
「何でって、口を挟む必要がなかったからだよ。きっちり必要な情報取ってたし、村長の態度にも顔色一つ変えなかったからさ。もちろん食って掛かるようなら止めてたけどね。」
「あら、信頼されてる?」
「ばか、まだ仕事に関しては様子見だよ。何せまだ2回目の依頼だからね。」
「仕事に関してはってことはそれ以外は信頼されてるのかな?」
「どうだかね!さ、入るよ。」
中に入って、顔を見合わせてしまう。
家具は一式揃ってるが生活感は感じられない綺麗に片づけられた部屋。ベッドもシングルが2つにベビーベッドが1つ。きっと若い親子が住んでいたんだろう。にも関わらず、部屋中に充満した血の匂いが鼻に付く。室内に争った形跡もない。いや、片づけられているんだろうがこれだけ血の匂いがするのに、何故か部屋が綺麗というちぐはぐさが不気味な感じだ。
「なぁ。」
「あぁ、血の匂いだね。でもどっから・・・。」
部屋の中におかしなところはない、どうしたものか。
「とりあえず、何も変わったところはないようだし、警戒しながらだけど様子を見よう。」
シェーラの提案を受け、荷をほどいていく。もやもやとした胸騒ぎが止まることはなかった。
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