●シェーラサイド(前編)
少しだけ頻回に更新していきます。
今日はいつもの3人組が怪しいやつを連れてきた。冴えない顔のどこにでもいそうなやつだった、ただ髪の色が黒かった。黒髪、それは不吉の象徴であり魔族の証。私は別に魔族がどうとか思わないが、街の人にはそうはいかない。魔王と同じ頭髪なんて容認できないだろう。そいつの目は死んだように濁っていた、街で酷い目にあったことは想像出来た。盗賊ギルド所属ってだけで犯罪者扱いされるんだ、私より酷い目にあってても不思議じゃない。
ここまで色んなギルドを回ってきたらしいがそのままの格好だったためか全て断られたようだった。髪が原因ってわかってるなら剃るかヅラでも被るかすればいいのに。
パーティメンバーがいないこともあってロクなんとかって男をパーティに入れることにした。パーティっていっても私とこいつの2人だけだ、男といったが精々男の子と言った感じだ。まだまだ男と呼ぶには体が出来ていないようだ。とりあえずスキルを確認すると歳の割になかなか高いレベルだし前衛も鍛えればこなせそうだ。鍛えるまで生きていれば、だけど。出来るだけ街から離れないで見晴らしのいい平原か街道で出来るクエストを受けてレベルを上げれば何とかなるはず。うん、きっと大丈夫。とりあえず顔を隠せる装備をやった。私の趣味じゃないから丁度いいや。
「ちょっといいかい。」
「なんだ、シェーラか。」
「なんだはないだろ、これでも客だよ。」
「そうだな、これでも客だ。」
「ふん。」
ここは行きつけの武器屋だ。店主は接客態度も目つきも何もかも悪い。良いのは武器の品質の割に安いことだけだ。とはいえ、今日は樽売りの長物を買うためだ。平原か森のごく浅いところまでしか行かないから、とりあえずの武器でいいんだ。これで十分。
「そんな武器持たせられたら生き残るやつも死ぬわ!」
「うるさいね!ローキャットとレッドボア狙いだからいいんだよ!」
「こんなもんでレッドボア相手するほうがどうかしてるぞ。」
「そこは流石に私が相手するに決まってんだろ。」
「まぁ、それならいいさ。中古の中古品なんだから、強度に期待するなよ。」
「分かってる。いくら?」
「2銀貨だ。」
「はぁ、こんなもんにそんなに出せるわけないだろ!?出せても1銀貨がせいぜいだよ。また来るんだから
まけときな。どうせ誰も買いやしないんだろ。」
「ふん、持っていけ。」
「ふふん、どうもー。」
武器はこれで格好がつくだろう。あとは薬類に弁当は明日でいいか。無一文をパーティに入れると大変だ。それでも死なれるよりずっといいのだから。
翌朝、ちょうど鐘の音が二つ鳴る頃に盗賊ギルドの着くことができた。よし、最初から遅刻は印象が悪い。ドアを通り中に入る。盗賊ギルドの活動時間は夜が多い、その為この時間なの利用者は少ない。見渡すと見覚えのある仮面がいた。手を上げてあいさつする、近づくとなんだか、綺麗になってる仮面の格好に目を奪われる。私が準備をしている間にこいつは身綺麗にしていたのか、それにこのツヤ・・・朝から水浴びでもしてきたのか?自分の薄汚れた格好を見て余計にイライラが増す。
「一応、女性と会うから気を使ったんだよ。」
そんな一言でちょっと嬉しくなる自分がいる。盗賊ギルドは他のギルドに増して粗野な奴が多い。そんなやつらは女を抱くときだって体を洗ったりしない。欲望のまま抱くだけだ。それをこいつはただ会うだけで気を使ってくれる、久しぶりに女扱いされた気がする、ちょっと気分がいいじゃないか。もちろん、それをおくびにも出さないがね。
とりあえず、予定のクエストを受領する。この辺に多い初心者用討伐対象のローアキャット、あとは需要もあり高値で引き取ってくれるレッドボアだ。こいつは新人には荷が重いかもしれないが無理そうなら私が引き受けるつもりだ、というかそうなるだろう。まぁ帰りはそれを運んでもらうから体力作りにはもってこいだ。
と、思っていたらローアキャットがいやしない。いつもはこっちの都合お構いなしに襲ってくるってのに要る時には出てこないなんて、なんて人をくったやつだ。いないものは仕方ない、森に入ってレッドボアを狩るしかないか。
「俺は常識なんか知らないからな。」
世間話から常識の話になったら帰ってきた答えに言葉が出なかった。そうだった、こいつは黒髪だからきっとどこに行ってもいい扱いは受けなかっただろう。それを考えると犯罪者にならなかっただけでも十分だろう。ちっ聞くんじゃなかったよ。
無駄話していたら大型のレッドボアを見つけることが出来た。気付かれる前に見つけられたのは運がいいね。決めていたハンドサインで打ち合せをして私が魔法を唱える。あれだけデカいやつにどこまで聞くかわからないけど、動きを鈍らせるくらいはやってやる。
足を狙った私の|風刃≪エアカッター≫は上手い具合に行動を制限させることに成功した。思わず小さくガッツポーズを見えないようにする。次はあんたの番だよ!と発破をかけるが見たことのない光景に目を奪われる。突然、レッドボア足元から動きを阻害するように土槍がでやがった、次の瞬間にはレッドボアの腹の下からせり出した台座が足より高くなったところで停止する。これによりあとは止めを刺すだけになった。ってそうじゃなくて、あいつ!無詠唱で魔法を使いやがった!過去に無詠唱を実現したものいたがそれでも大半は詠唱短縮を工夫して限りなく短くしたものだった。
無詠唱で魔法が使えるなんて仕官したらエリートコースだろうな。関係ないけど。
とりあえず、このレッドボアを仕留めないと、ここまでお膳立てされたら首にナイフを刺すだけだから簡単なもんだ。
「あっ、ちょっと待って待って!血抜きしないと!」
血抜き?なんだそれ?よくわからないがそれをすると肉の味が美味しく保たれるらしい。あいつがするってんなら、その間に血でも拭いておくか。それにしても手際よく解体していく。ほんとに初心者か?
パーティ組んで浅いから聞きにくいが聞いたら何でもない事みたいに答えてくれた。解体は街まで一緒に来たドワーフに教えてもらって魔法は魔王直轄領のやつらはあれくらい出来るってことだ。そういえばちょっと前に勇者が魔王を倒したって聞いたけど無詠唱で魔法使えるようなやつらに勝つなんて、勇者ってのも化け物だね。
雑談してたら、急に真剣な顔して周囲を見渡しだした、出発するのにどうした?
「周囲を探ってくれ。」
不穏な空気を感じてすぐに行動に移すと、いつの間にか周囲に複数の気配を感じる。おかしい、さっきまでこんなことなかったはずなのに。また不幸を呼んでしまったのか。私がいくら索敵や警戒のスキルを習得しても不幸の察知だけは出来なかった。今回もきっとそうだろう。久しぶりにパーティが組めたと思ったら、それももう終わりなのか。あとは何としてもこいつを生きて返さないと。
出てきた魔物はゴブリンだった、しかもアーチャーやメイジも混じってるみたいだ。チッ遠距離で攻撃できる奴がいると格段に難易度が上がってくる。10匹なんて2人で相手にするには多すぎる。
私が囮になれば、多分あいつでも逃げるくらいなら大丈夫だろ。ゴブリンは人間の女を連れ帰って子供を産ませるっていうからな。・・・・・よく見ると、ゴブリン達私を見ている気がする。弱気になるな!私!
「ちっ!まさかいきなりこんなことになるなんて・・・。あんた、私が突破口を開くからそこから逃げな。」
それで最悪でも私が慰み者になるだけで済むはずだ。
「はぁ?置いて逃げるなんて出来るわけないだろ?」
あーもう!状況が見えてないのか?どう考えても手数が違うんだから逃げるしかないのに。不幸を招いた私が残れば済むんだ。それにきっと死にはしないはずだ、今までも私は生き残ったしゴブリンだってせっかくの女をすぐに死なせるような真似はしないだろう。想像するだけで膝が笑って立ってられなくなりそうだ。
初めてはロマンティックな場所がいいなんて夢物語だよね、冒険者なんてやってんだからこういうのも覚悟はしてたはずなのに。今の決心が鈍らないうちに早く逃がさないと。
「そうは言ってもな、一妻多夫ってのは嫌だろう?目の前に未来の旦那がいっぱいいるが幸せがないなら送り出せないなぁ。お父さん泣いちゃう・」
そんなことを言いながら泣き真似をしている。こんな状況なのに軽口を叩くこいつを見てると私の決心はこれで鈍ってしまった。さらに数は増える、もう並大抵の攻撃で突破口なんて作れない。
こうなったらやってやる!私の純潔の安売りはもうやめだ、どうせなら二人で生還してやる。
覚悟を決めて飛び出そうとした時に土の槍が地面から突き出し目の前のゴブリンを串刺しにしている、貫かれたゴブリンは槍から抜け出そうともがくがすぐに息絶えてしまう。それを見て私もゴブリン達も動けなかった。いきなり目の前の味方が死んだ、私は目の前の脅威が突然取り除かれた。正反対の事なのにどちらも動けなかったんだ。ただ一人を除いて。
気が付いた時にはゴブリンアーチャーが槍に貫かれているところだった。首を貫かれた奴が声にならない悲鳴を上げながら崩れ落ちる、すぐに引き抜き隣のアーチャーの顎から後頭部まで勝ちあげるように刃先を突き入れる。そのまま横なぎにして3匹のゴブリンを弾き飛ばす。使っている槍は樽売りの安物なのに、こんなことが出来るなんて・・・。
ここでようやくゴブリン達も呆けていたのが、解けたようだ。武器を構えて向かっていっている。脅威を数で排除しようってことだ。私のほうには見向きもしていない、これは好都合だ。気配を殺し背後から首を切り裂いていく。2匹、3匹、私が倒したのは微々たるものだったはずだ。なんせあいつに引き寄せられるようにゴブリン達が向かっていっていたから。
夥しい数のゴブリンがあいつに殺到しているはずなのに、囲まれることなくさばいている。いや、いなしながら槍や掌底で倒していっている。あの動きは、円の動きだ。しかも流れるように綺麗だ。円の動きで相手の死角に入ってる。相手からしたら消えたように見えることだろう。こんなの私の師匠だって出来やしない。体術の円の動きに槍術を混ぜて武器を弾き飛ばしながら切り裂いていくなんて。
ようやく最後のゴブリンを倒せたみたいだ、私が10匹ほど倒す間にあいつは3倍の30匹近くを倒していた。もちろん正確には数えてない。倒れている死体がそれくらいだったってだけだ。数なんて数えるのも面倒なほど疲労困憊だ。
周りには赤黒い血で汚れ、私の体も血で汚れているがもう動くことも出来ない。酸素が足りず、呼吸が荒いのにアイツときたら。
「横たわってはぁはぁ言ってるとまるで事後みたいだな。」
なんて無駄口叩きやがる。でもあの戦力差を乗り切れたのもこいつのお陰だ。こんな初心者がいてたまるか、何者か来てみたらやっぱり初心者だって言うし訳が分からない。しかも円の動きは練習して覚えたなんて・・・あれはそんな簡単に出来るもんじゃないのに。
何にしろ、生き残れたのはこいつのお陰だ。パーティで生き残れたのは久しぶりだ。こいつとならパーティを組んでやっていけるかもしれない。不幸を招く私を受け入れてくれるかもしれない。
私を受け入れる?こんなガキに何を思ってるんだか・・・頭を冷やさないと。
「綺麗にしてやるから、こっちに来てくれ。」
えぇ!?綺麗にしてやる?拭かれる?触られる?いやいや待って待って。
「魔法で綺麗にするってことだから。」
「あ・・・あぁ!魔法ね!うん、そうだな。やってもらおうかな。」
あぁ、なんか不自然に拒否感だしてしまった!落ち着こう、落ち着こう私。そうだ深呼吸をしよう。すぅはぁすぅはぁ、よし落ち着いたはず。
うわぁぁぁぁぁ、なんか髪が洗われてるって凄い!人に洗ってもらうなんて何年もなかったけどそれ以上に気持ちいい。
「ったく、女の子なんだから手入れはちゃんとしろよ。」
女の子・・・そんな扱いされたことなかったな。手入れもしてなかった・・・水で濯ぐくらい。そう思うと途端に恥ずかしくなってきた!
「仕方ないだろ!冒険者は髪にこだわる暇なんかないんだから。」
「それでもだよ、せっかくの綺麗な髪が台無しだ。」
「綺麗な・・・?なんなんだよ、なんなんだよ・・・うぅ。」
そんなこと言われたことない、女の子扱いなんてされたことない、今まで皆からは疫病神か厄介者、愛人になれみたいな扱いしかない。こんなの知らない。
ついでに服も着たまま洗ってくれてすっかり身だしなみは整わされた。もはやクエスト帰りには見えない。
こうして私たちはようやくギルドへ帰ってくることが出来たんだ。
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