第1章:無職からの盗賊へ04
ギィィ
入り口のほうを見ると、シェーラが入ってきてキョロキョロしている。俺と目が合ったら手を挙げながらツカツカと胸を揺らしながらやってきた。なんか近づくにつれ不機嫌そうな顔になってる。なんで??
「あんた、馬小屋に泊まってるくせに随分なご身分だねぇ。」
「おはよう、シェーラ。いったい・・・何の話かな?」
「はっ!そんなに綺麗な格好して、朝から水浴びかい!?今からクエストに行こうっていうのに、余裕あるじゃないか!」
「いや、そういうんじゃないから。一応女性と会うんだから気を使ったんだよ。」
「・・・一応って何だい!ふん、まぁいい。行くよ!」
あ、当り屋みたいだな。完全な言いがかりだよ、まったく。更年期かよ。これは口にしてはいけないな。またシェーラの小皺が増えてしまう。うん、俺優しい。
「早く来なよ!」
キルトのいる受付からシェーラが怒鳴る。あぁ、せっかくの俺の気遣いが意味ないくらい眉間に皺が寄ってる。あーぁ。
「おはようございます、シェーラさん。今日はクエスト受領でよろしいですか?」
「あぁ、それで頼むわ。何か簡単で割のいいやつない?」
あぁ、また無理難題だな。そんなのあったらすぐになくなるだろうに。本来は掲示されている依頼を見て受付に来るんだがこの時間はガラガラだから直接相談することも可能なんだろうな。キルトとシェーラであーだこーだ言ってるな。
「はぁ、ならこのローアキャットの討伐とレッドボアの討伐をお願い。」
「分かりましたが、ロッカクさんはランクFなので無理は禁物ですよ。危なくなったら必ず逃げること。いいですね。」
「分かってるわよ、お守りしながらなんだから無理はしないって。」
「では、お気をつけて。」
こうして俺とシェーラの初パーティでの冒険は始まった一応持ち武具がない俺はシェーラが用意した長槍を渡されていた。見た目完全な安物だ、素人には十分すぎるくらいだな。木製の槍で先に金属の刃が付いたシンプルなものだ。これで準備万端だったんだが、一つ問題があった。
「あぁもう!なんでどこにもいないんだい!?いつもは勝手に寄ってくるのに!」
「まぁまぁ、怒ると小皺が・・・。」
「うるさいっての!」
誰かが狩りつくしたのかローアキャットは一匹も寄ってこなかった。昨日かなり狩ったからさすがに俺がいると寄ってこないみたいだな。数えてないが100本くらい尾があったし、絶対数がかなり減ってるかも。すまん、シェーラ。
「あぁ、もう!時間の無駄だから森へ行くよ!森のレッドボアを狙うから。気合い入れな!」
「あぁ、分かりましたよ。女王様。」
「・・・・・。」
返事がないからシェーラのほう見るとスゲー表情で睨みつけられてた。そんな目で見られたら世の中のⅯ男はイっちゃうだろうな。俺にその気はないけど。もう装備も黒のボンテージと鞭でいいんじゃなかろうか。
「行くよ!もたもたすんな!」
「へいへい。」
昨日に増して機嫌が悪いです。雰囲気悪いながらも森へと足を伸ばす。森自体はそんなに遠くにはなく町から5㎞といったところだ。結構深い森だがレッドボア自体は浅い箇所にいる魔物なのですぐに見つかるだろうってことだった。奥に行けば危険な魔物も多くいるようだが浅いところにはレッドボアやゴブリンくらいだそうだ。
「ゴブリンよりレッドボアのほうが難易度が高いのか?」
「そうだよ、ゴブリンは力は弱いが数押してくるしたまに魔法を使うやつもいて厄介なのはやっかいだけ
ど、金にならないからね。初心者向けだけど面倒なんだ。その点、レッドボアは単体ではゴブリンなんて目じゃないほど強いよ。突っ込んでくるしか攻撃はないけどとにかく頑丈で闘争心が強い、それに肉が旨いから飯屋に卸されるんだ。」
「ふーん。」
「そんくらい常識じゃないか。」
「俺は常識なんて知らないからな。」
「・・・・・・そうかい。」
ん?なんか変な空気になったぞ。・・・あぁ、俺が黒髪で迫害されてて常識なんて身についてないと思って哀れそうな目を向けたんだな。ま、常識を教わる間もなかったから同じことか。これから覚えていけばいいから気にしなくていいんだけど、この空気は重いなぁ。
「・・・なぁ、おっぱい。」
「だ、だだ誰がおっぱいよ!」
「何で良くしてくれるんだ?見ず知らずの・・黒髪の俺を。」
「別に。クエストするなら前衛がいたほうが生存率あがるからね。・・・はん!それにあんたなら悲しむやつもいないでしょ!」
「それもそっかー俺、天涯孤独だもんな。」
「・・・・・・その、悪かったわよ。」
「あぁ、いいから。何にしろ、冒険者のイロハっての教えてもらえるなら大助かりなんだし、前衛させてもらうよ。今は尻を見ながら歩いてるだけでも役得だ。」
「あんたに謝った自分がバカみたいだわ。」
前を歩くシェーラの尻を見ながら、なおも呟く。
「いやーいい尻だ。」
「ちょっと黙ってなよ!」
怒られちった。と思ったら獲物を見つけたようだ。10mくらい先に体長1.5mくらいの大型のイノシシに似た魔物がいるのが見える。まだこっちに気付いてないようだ。事前に決めていた段取りでまずシェーラが風魔法でレッドボアの足を攻撃し突進力を奪ってそれから俺が土魔法や雷魔法で動きを止めて後はタコ殴りっていう作戦だ。
「我、理を知る者也、今変革の時、そよ風よ荒ぶりて刃と成せ。|風刃≪エアカッター≫!」
魔力が風に変換されレッドボアの右の前足と後ろ足に深い切り傷を付ける。ピギィィィッと悲鳴を上げながら辺りを見渡している。傷が深いのか思うように歩けないようだ。あぁいう魔法って切断したり出来ないんだな。
「思っていたより硬い、でも動きは鈍った。あとはあんたの魔法を見せてもらおうか。」
「おう!」
今度は俺の番とばかりに魔法を使おうとするが・・・えっと手加減しないとだよな。なら殺さないようにか。
レッドボアの足元から土槍を四隅に展開させ腹の下から台座のように足が付かない程度にせり出させる。これで身動きが取れない。上手くいったな。
「よし、シェーラ。後は近づいてタコ殴りだ。・・・シェーラ?」
「・・・・・は・?あぁ、そうだね。」
近づいても土槍はビクともしないことを確認してシェーラは首の急所にナイフを差し込む。ビギィィィッと断末魔の叫びを上げながら頸動脈から血を大量に流しながら息絶えていくレッドボア。出血の勢いが強くてシェーラはその血を浴びて真っ赤な髪がさらに赤く染まるがそんなこと気にならないかのように解体に入ろうとしている。
「あっ、ちょっと待って待って!先に血抜きをしないと!」
「なんだい、それ?」
「先に血を抜いておかないよ肉の味が落ちるんだよ。」
「ふーん。そんなもんかね。」
「そんなもんなの。解体は知ってるから顔でも拭いてなよ。」
「・・・そうさせてもらう。」
危ない危ない。血抜きしない肉なんて食べたくないからな。大人しく血を拭ってるシェーラを横目で見ながら借りた専用ナイフで手早く腹を裂き内臓を取り出す。水魔法で中の洗浄と低温に保つ処理を行う。内臓はどうするか聞いたが多分いらないだろうってことで土に埋めることにする。コイツだけでも200㎏近くあるので今日はこれで狩りは終わりかなとか思っていると俺の解体を見ていたシェーラが話しかけてきた。
「あんたさ、ほんとに初心者なの?」
「ん?正真正銘初心者だよ。この前、ギルドカード初めて作ったんだし。」
「解体が手馴れてるし、何よりそのレベルで無詠唱で魔法使えるなんて聞いたことない、使い方だって見たことなかったし。」
「んー解体は街に連れてきてもらったドワーフに教わったんだよ。魔法は・・・えーっと魔王直轄領じゃこれが普通だったよ。」
うん、嘘は言ってない。魔王直轄領から来たってのがどんな反応されるかわからんけど。
「そうなんだ、逃げてきた口?」
「・・そうそう!住みにくくなったからさ。こっちもあんまり変わらないけどね。」
「魔族って魔法が得意ってことだし、レベルが低くても応用力高いとあんなこと出来るのね。」
「そうそう。向こうじゃ俺くらいいっぱいいたよ。」
魔族にあったことないけどね。
「まっ、あんたが何者かなんてどうでもいいわ。良いサイズのレッドボアも狩れたし戻りましょうか。じゃ、持ってきてね。」
「・・・いやいや、手伝おうよ。」
「あんた怪力スキルあったじゃない。私はか弱い乙女なの。」
「乙女??」
「いいから持つ!」
「へいへい。」
軽口を叩こうとしたが周囲に気配を感じた。じわじわと包囲を狭めようとしているようだ。
『索敵スキルを覚えました。』
このタイミングで覚えるならもう少し早くてもいいんじゃないかとも思うが周囲には10匹の気配を感じる。




