序章;閑話
勇者side
「魔王からは逃げられないんだぞ。」
そいつは事もなげにそう言って俺を、俺たちを見下ろしていた。まさに自分が絶対者であるかのごとき、その姿はこれまで見た王の誰よりも威風堂々としていた。勝てないかもしれない、そう思わせるのに充分な威厳を持っていた。
それが、どういうことだろう?言っている言葉を聞くと戦う前なら見逃してやるって言っているのか?これまで出会った魔族は目の前で能力の底上げをしようがキャンプをしようが何もしてこなかった。それは、アレだ。まさにゲームのRPGと同じようだった。2年前に召喚されて最初からそうだったからそんなもんだと思ってここまで来たが、この魔王はどうやらそんなものは関係がないようだ。
おっと、そんなことはどうでもいい。逃げていいなら一旦退いて鍛え直せばいいことだ。俺たちには帰るべき場所がある。こんなところで立ち止まるわけにはいけないが、だからと言って全滅のリスクが減らせるのなら、それに越したことはないのだ。
「それを臆したと言わなくて、なんと言うんでしたか?尻尾を巻いて逃げ帰る、でしたか?勇者といえど人の子、魔の王は怖いと見える。」
王城へ帰り鍛え直すことを報告に戻ってきたら王の側近の近衛隊長に嫌味を言われてしまった。タカシの肩がブルブルと震えている、マズイな。ブチ切れる寸前だ。
「何とでも言っていただいて結構です。私たちも死にたいわけではありません。魔王討伐の可能性が上がるならそれはチャンスであると捉えます。」
「私もそう考えています。勇気と蛮勇は違うでしょう。そこは近衛隊長も分かっておいででしょう。」
「ふん、口では何とでも言えるだろう。」
「・・・てめぇ!!」
「なんだ、負け犬ども。悔しければ結果を残せ!!」
「双方控えよ!王の御前であろうが!!」
元帥であるレコンさんに一括されて二人ともバツが悪そうに目をそらす。この人は俺たちが召喚されてずっとサポートしてくれている人だ。もともと騎士団団長だったが俺たちが魔王討伐の最終決戦に臨むにあたって元帥に推挙された人だ。この人には頭が上がらない。近衛隊長の元上司でもあるのでどちらも頭が上がらないというわけだ。
「失礼しました。王よ、今勇者が報告した通り勝利を確実にする為の一時撤退だとお考えください。ここで無茶をするわけには行きません。漸く魔王城まで奴らを追い詰めたのですから。」
「そうだな、更に力をつけ勝利を確実なものにせよ。そうでなければ、近衛隊長のように言う者も出てくるだろう。」
「はっ!!必ずや更なるレベルアップを果たし魔王を討伐いたします!」
「うむ、それがお前たちが自分の世界に帰る為の近道になるだろう。」
そのまま、一礼して居心地の悪い王城を後にする。城にいると、やれ晩餐会やお茶会やなどで顔つなぎをうぃようとする貴族に付きまとわれて修行どころではない。俺はここに残るつもりはさらさらないのだ。
「ねータツヤ、貴族の誘い断って良かったの?今まで散々援助してもらったのに。」
「いいさ、どうせ顔を繋ぎたいだけだろ。俺たちは帰るために貴族たちは自分たちの思惑に従っているだけ。お互い利用していたにすぎないだろ。あとは魔王だけなんだ、気を使わなくてもいいだろ?」
「それもそうね。さ、これからのレベルアップの話をしましょうか。」
それから、各地のダンジョンを回ったり強力な火龍と戦ったり、時間が許す限りの戦力増強を行った。作戦も立てた、準備は万端だった。王が送り込んでいるスパイからの情報も随時報告があり、順調だった。数日前からスパイからの報告も途切れてしまった為、魔王が動き出す可能性があると連絡があり俺たちは魔王城へ再戦の為に乗り込むことを決めた。
覚悟を決めてきた。そう決めてきたんだ。なのにこれはどういうことだ?
「よくぞ、ここまで来た。早速相手をしてやろう。かかって来い。」
罠を回避したり破壊しながら進んでいたらまさか魔王が目の前に現れるなんて!だがビビってなんかいられない。俺とタカシが雄叫びを上げながら斬りかかる。
「「おぉぉぉおぉぉぉっぶべ!!」」
魔王に斬りかかったのに何かに阻まれて顔面を強打する。突然のことで俺とタカシは仰向けに倒れる。追撃が来る!そう思い横に転がりそのままの勢いで飛び起きる。
「ふふ、勇者と雖もこの程度か。」
そう言い残して姿が搔き消えるのだった。完全に気配が消えてから魔王が消えた場所まで行こうとするが何か硬いものに阻まれる。さっきぶつかったのはこれだ。
ただの壁だ。城の突き当たりのただの壁に幻術をかけてるだけの子供騙しだ。なんだ?子供騙しで十分だってことか?
「これは馬鹿にされてるようなもんね。」
アイリが口にだす。確かにそうだ、修行し直した俺たちにお似合いだとでもいうんだろうか?
それから仕掛けられている強力な罠に混じって子供騙しの罠が時々混ぜられていることに気づいた。しかも、俺たちはことごとくそれに引っかかってしまった。こうなると、イライラもピークだ。そう思っていると弓矢の罠が発動して俺は飛んで避け着地しようとしたがそのまま下に落下してしまう。どうやら着地地点に事前に掘った穴に幻術で見えなくしていただけのようだ。元々何もないだけに探索魔法に引っかからないから更に達が悪かった。
突き当たりの部屋に入る為の開かない扉を破壊して中に入ろうとして落下したこともあった。廊下の突き当たりの扉を破壊して勢いよく部屋に入ったらそのまま外壁の外だったなんてことも1~2回ではなかった。
俺たちはどんどん口数が少なくなっていた。嫌がらせのような罠にいつも優しいヒマリまで疲労の色を滲ませていた。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか。これだけ罠が続くとちょっと参ってしまいますね。」
「なぁ、早く行こうや。タツヤもヒマリもこんな罠なんかいくつあっても同じだろ。イラってするけど。さっさと魔王の角へし折って、元の世界に帰ろう。」
「そうね、切った張ったは柄じゃないわ。早く帰りたい。」
みんあ思い思いのことを口にしている。俺だって元の世界に帰りたい、それだけでここまでやってきたのだ。今更、足踏みする気はない。
そうこうしているうちに漸く2ヶ月弱ぶりの扉の前まで来ることが出来た。前回は力不足だったが今回はやれる事は全てやった。後は魔王を倒すだけだ。
皆の顔を見ると気負った様子もない。自分で言うのも何だが良いパーティだ、口にするのは気恥ずかしいから言わないが、顔を見るに皆の気持ちは1つのようだ。
「さぁ!ふざけた罠を仕掛けられて頭に来てるんだ、思い知らせてやろう!そして、帰るぞ。俺たちの世界へ!」
「「「おう!!」」」




