序章:ここはどこ?012
「う?え?勇者?もう?早くないか?」
「予想はあくまで予想ですので。ご準備を。」
「あ、そうだな。え~っと・・・城の罠を起動して通路の変更を頼む、あと3階8番通路に向かうように仕向けてくれ。前回マッピングしてるだろうから早い段階で前回のマップが使えないことを思い知らせてやろう。」
「畏まりました。」
「それから再突入してくると思うから次は5階の3番通路に出るように誘導をしてくれ。」
「はい、何か仕掛けでもあるのですか?」
「ちょっとした嫌がらせだよ。」
すぐさま、指定した通路に向かい仕掛けを施す。ノエルの中間報告によると勇者たちは罠などないかのごとく突き進んでいるということだ。さすがに前回よりもレベルアップしていると見える。俺もレベルは上がっていても勇者に叶うとは思えない。どうにかやり過ごさないと、でないと死・・・。嫌な考えを振り払い作業を終える。そろそろ玉座に戻っていて欲しいと連絡がありノエルのところへ戻る。
「ご苦労様です。準備とやらは整いましたか?」
「あぁ、これで少しは曇ってくれたらいいんだけど。」
「今日は曇天です。十分曇っています。」
「・・・それにしても他人行儀だな。以前に戻ったみたいだ。」
「戦闘前ですから。・・・・・・いらっしゃったようです。」
5mはあろうかという金属製の扉にビキビキとヒビが入り、崩壊していく。一体どんな魔法を使ったのか知らんがそんな魔法がもうすぐ自分に向けられると思うとゾッとする。
額に青筋を浮かべ、いかにも怒ってますという感じの雰囲気を垂れ流した勇者と疲れきっている仲間達が現れる。
「よくぞ、ここまでたどり着いた。人の勇者たちよ。我がもてなしは気に入ってくれたかな?」
「うるさい!馬鹿にしやがって!御託は抜きだ!即効で決着付けてやる!」
「魔王様、勇者たちはすでに強化魔法で最大限強化しているようです。お気をつけください。」
「わかっている。お前も被害がないところまで離れていろ。」
「わかりました。」
勇者たちを一瞥して、どうしたものかと考えを巡らせる。
「さて、勇者たちよ。お前たちに問おう。我が軍門に下る気はないか?そうすれば世界の半分をくれてやろう。」
「はっ!手にしてもないものをやれるわけがないだろう!それにお前の部下は逃げ出して城にはいない、それで世界が取れるとでも思っているのか。おめでたいな!」
「それに魔王が半分支配してるって考えただけでも生きた心地がしないわよ!」
「そうだ、安心して暮らせないなんてまっぴらだ。」
「タツヤ、ヒマリ、タカシはそう言っているがお前はどうなのだ?」
「お前、名前まで調べ上げて・・・。」
タツヤがそうつぶやく。いやいや、お前らこの前呼び合ってたじゃねーか。都合よく取るんじゃねーよ。たまたま俺が覚えてただけなのに。
「私もやっぱり・・嫌です。」
「そうか、ではいいんだな?魔王からは逃げられないんだからな。」
タツヤの目が見開かれたと同時に抜剣し魔法使いのヒマリと僧侶のアイリが詠唱に入る。タカシは左側面からタツヤは真正面から斬りかかってくる。一撃に全力を乗せたいい斬撃だ、時間差でタカシが横薙ぎの一撃を入れる。一撃離脱でその場を離れると同時にアイリの速度低下の魔法とヒマリの爆裂魔法が炸裂する。修理した玉座の周りがまた大きくえぐり取られる。
土煙が立ち込める中、俺は悠然と立っている。一切の傷を負うことなくだ。
「な、なに!?レベルアップした俺達の攻撃が通じない!?」
「私の魔法も効果がありませんでした!」
「こっちも切る瞬間手応えがおかしかった。」
ほう、違和感に気づいたのは2人か。速度低下魔法が効果があったかどうかは判定が出るのかな?戦士のタカシは攻撃特化だけあって敏感みたいだ。
「理を曲解し眼前に降り注げ!豪炎雨」
詠唱を短くし即座に魔法を完成させ20数本もの炎の槍がヒマリの周りに作り出された。その瞬間に降り注ぐ高熱の槍が何度も俺の身体を穿つ。あんなのが刺さったらひとたまりもない。
「みんな!あれは幻よ!本体は別にいるはず!」
「索敵!」
ヤバイ!もうバレた!出来るだけ時間を稼ぎたかったのに、もう見つかるなんて。伊達に勇者を名乗ってないな。クソ!
「あそこだ!」
戦士のタカシには俺の気配などすぐに察知出来たらしい、そのまま俺に斬りかかろうと飛び出してきた。予想以上に早い踏み込みですでに俺の眼前まで迫って剣を振り上げている。ヤバイ、スローモーションで見えてるってことは走馬灯か!?魔法を。魔法を使わないと!
暗闇!咄嗟だったが詠唱破棄で発動することが出来た、反復練習しててよかった。そこから流れで影潜りまでを発動させる。傍から見てるとタツヤと俺が闇に包まれて俺が消えたように見えるはずだ。
「理を正し闇を払え!浄化の光!」
即座にタカシの闇が払われる。俺はタカシの影の中からその様子を伺う。ずっと4人で旅をしてきたであろうことから連携もいいし、言葉にしなくても信頼している様子がわかる。こんな連中にこの世界のことを知らないまま独りで戦うなんてことは自殺行為だな。
俺がここに隠れたのはいいが、ノエルは大丈夫かな。俺より強いしスキルも豊富だから逃げ切るくらいわけないだろう。プランAでは魔力が続く限りこのまま影に潜み諦めて人の街まで戻ったところで隙を見て逃げ出すつもりだ。ほかにも幾つかプランはあるがリスクが付き纏う。
「くそ!どこだ!?タカシ、何が起こった?」
「斬りかかる寸前に真っ黒な闇に包まれて気づけば魔王はいなかったぞ。」
「また幻だったのかしら?」
「わかりませんね。」
「索敵しながら周囲を警戒だ!」
せいぜい探してくれ。灯台下暗しってな。
それから2日に渡り城内をくまなく捜索したが俺を見つけることは出来なかった。3日目にはどこかの軍が入城し、さらに捜索が行われていた。俺もいい加減、影の中は飽きてきて早くどっかの街にでも行って欲しいと思っていたんだが、そこで事件が起こることになる。
「あなたたちはいつまでそうしているつもりですか?」
「あっ。でも、見つからないものはどうしようもなく・・・。」
「私がいなければ探し物一つ出来ないのですか?せっかく城に招いたというのに。」
「探索魔法も使っているんですが、魔力の残渣はあるんです。ただ、私達の周りが一番濃いので他との区別がつかないんです。」
「答えならそれで出ているでしょう?」
ヒマリも首をかしげながら問い返す。
「どういうことですか?」
「あなた方が魔力の残渣が一番濃いのは魔王様と戦ったことだと思っているんでしょうが、違います。近くにいることの証でしょう。」
「え?そうなんですか?でもアイリと私の探索魔法には何も反応しなかったですよ?」
「そういえば人族には闇魔法はほとんど失伝しているんでしたね。」
「アイリもヒマリもその存在は知ってるが、それ自体ユニーク扱いだ。」
不機嫌そうにタツヤがつぶやくが周りは、答えを知ってるなら教えて欲しいという雰囲気だ。探索を続けている兵士にも見つけられるなら早くしてくれという目で見ている。
「仕方ありませんね。戦闘になるかもしれないので玉座の間まで行きましょうか。」
影の中で俺は焦っていた。声の主は俺の存在を知っている風だった。それに戦闘になるっていうのは此方に向けて言っているような印象さえある。どうもプランAは破棄するしかないようだ。プランBはリスクが高いし、実行出来るのか不安が残る。覚悟を決めるしかない。
戦闘に備え人払いされた玉座の間に声の主と勇者一行が揃う。
「さて、出来ればそちらから出てきて欲しいのですが。」
「・・・・・・。」
辺りを見渡し警戒している勇者たちだが、声の主は一点を見つめている。視線が見えていないはずの俺に突き刺さる。
「諦めの悪い。」
ボソッと吐き出された言葉にゾッとする間もなかった。勇者が警戒する中、声の主ノエルはタカシの影に手を入れ俺を引きずり出す。バキバキという嫌な音とともに影が割れ首根っこを掴まれた俺が投げ出され受身も取れずに無様に這いつくばる。呆気に取られている勇者たちだが、すぐさま戦闘態勢に入る。
「お久しぶりです、魔王様。ご機嫌いかがでしょうか?」
いつもの執事服姿でいつもの口調でいつもの無表情で恭しく一礼する。
「ちっ・・・ノエル、どういうつもりか聞いてもいいか?」
「どうもこうも私にはこうするしか生き残る道がないということです。」
「ノエルでも勇者から逃れることは出来ない、ということか?」
「ご想像にお任せします。・・・あとは勇者一行にこの場はお任せします。成すべきことを、するといいでしょう。」
そう言い残し、後ろに下がり見守るように佇む。戦闘に参加する気はさらさらないようだ。ノエルが逃げ切れないなら俺が逃げられる道理はないんだろうな。
「魔王・・・これがラストバトルになる。覚悟しろ。」
静かに声をかける勇者タツヤに前回の奢りや怒りはなく冷静だった。これはマズイ。冷静になられると成功率が落ちる。
「あえて聞くが、我が軍門に」
「くどい。お前はもう終わっているんだ。諦めろ。」
せめて、最後まで喋らせろよ。人の話は最後まで聞けって習わなかったのかよ。
「なぜ、俺を憎む?」
「なぜ、だと?」
「お前ら魔王軍が王国をめちゃくちゃにしたせいで・・・どれだけの町や村が犠牲になったと!」
あ~もう、まったく身に覚えがない話だ。っていうかここに魔王軍とかいないから!なんて話しても命乞いの戯言にしか聞いてくれないんだろうな。
「もう、話は終わりだ。その魔角、貰い受けるぞ!」
「待て!魔角をどうするつもりだ?」
「自分が死んだ後のことなんか、聞いたところでどうしようもないでしょう?」
「教えといてやろうぜ、自分が死んだ後にようやく人の役に立てるんだからな。いいか、お前の魔角を触媒にして死で溢れた瘴気を浄化して大地を蘇らせるのさ。そうすれば大地に残った魔族や亜人も駆逐して人族の繁栄の時を迎えるってことだ。」
「まぁ、その時は私達はこの地にはいませんけど。ようやく私達の旅は終りを迎えるのです。元の世界に帰れます。」
「元の世界?ってことは・・・。」
お前たちも異世界から召喚されてきたのか?という俺のつぶやきは声になることはなかった。抜き手で喉を潰され、もんどり打って床に転がされる。息が出来ず声も出ず、かろうじて肺がヒューヒューとか細い呼吸で命を繋ぐ。
次の瞬間には勇者の聖剣に腹部を、そのまま背骨ごと地面に縫い付けられてしまう。腹部と背中から夥しい血が出ている。不思議と息苦しいが痛みはない、いや熱く感じているこれこそが痛みなのかもしれないが脳が拒否しているのか思ったより苦しくない。背中に広がる自分の血が熱いのか汗が噴き出す。
「あとは、この2本の角を取るだけか。それにしても呆気なかったな。前回の時はもっとこう恐ろしい相手だった気がしたが。」
「細かいことはいいじゃねーか、タツヤは心配性だな。角取って終わりにしよう。素材の剥ぎ取りは魔王もモンスターも同じだろう?」
「私達は人型はちょっと遠慮させてもらうわね。やっぱりいい気しないから。」
「そうだな、これで最後だしヒマリもアイリも休んでていい。俺とタカシでやっておく。」
なんだよ?俺は素材扱いか?魔王なんて所詮そんなもんか。ゲーム脳のこいつらには言っても分からないか。こいつらはこれで元の世界に帰る。俺は・・・?死ねば帰れる?そんな保証はどこにもない。だけど、帰ったところで幸せって訳でもない、ここで終わっても別に・・・。
「じゃぁしっかり抑えててくれタカシ。」
「おう。」
タツヤが俺の首に足をかけて固定する。どけろよ、ただでさえ息できないのに余計に苦しくなる。余裕があったのはそこまでだった。




