【J】騒動勃発
たった1日留守にしただけなのに、何故か問題が山積みになっていた。
地下の貯蔵庫の扉が開かなくなった、騎士団の任務表が届いておらず一部の部署で混乱が起きている、得体の知れない請求書が届いた等等。
部下が慌てて道を開けるのに目もくれず、大股で城内を横切り目的の人間を見つけた瞬間に怒鳴った。
「フェイト!!」
「あ、おかえり、ジェイドー。」
「おかえり、じゃねぇ……てめぇ、また妙なもんに手を出しただろう!! ついでに書類業務怠りやがったな!」
勢いよく突き出した請求書の束を見てきょとんと、目を見開く子羊のような顔は当たりだ。元凶はコイツだ。
フェイトは本来魔導具関連の研究に携わっていて、城内の警備にもなる物もかなり開発している。その研究心は副団長の任に就いた今も全く衰えていない。
王にも許可を取って城内に1か所、人が寄り付かない森の中に1か所と研究スペースを確保している。隙あらば研究実験をしたいフェイトが、口煩い上司のいない時を逃すはずもない。
「えー、僕、副団長だよ? ジェイドの留守をちゃんと守ってたよー?」
「……確かに書類業務以外はやってくれたようだ。だがな、」
「ん?」
「地下貯蔵庫のは、やり過ぎだ。一体どんな警備を考えた?」
「各地の情報から食料庫を燃やして備蓄を一気に削ぐ手法を用いられることがあるっていうから、火に反応して一気に特殊な植物が防御。貯蔵庫ごと囲んじゃえば心配ないでしょ?」
「松明程度の火で発動されたら飢え死にするだろうが! ……解除法は?」
ビシッと固まるフェイト。更に険を濃くする視線からゆっくりと目を逸らす。逃がさんがな。無言で続きを待つ。
「えーっと、切って薪にしちゃう、みたいなー。」
「普通の斧が悉く刃が欠けて使い物にならなくなっているようだが。そもそも火に対する防御で薪になるのか?」
「間違えた、建材。建材だよ。」
「切れないが?」
「……ごめんなさい。」
漸く観念したように深々と頭を下げたフェイトの頭を見ながら深いため息をつく。研究に熱心過ぎるだけであって悪気はない。いっそあってくれた方が怒れるのだがと苦々しく思うも今更だ。
今回実験的に仕掛けたのは2つある貯蔵庫の内のひとつだけ、支障は今のところ出ていない。部署の混乱は真っ先に片付けて来てある。
「今度から請求書は自分のところに直接届くようにしろ。あれを使うなら対応手段も開発してからにすること。それと、城中の欠けた斧の修理費は全部お前の給料から払うこと。」
えー!と叫んだのを視線だけで黙らせ、無言で地下を指さす。さっさと片付けてこいと暗に言えば操り人形のように頷いて背中を向けて走っていく。……やけに嬉しそうなのは気のせいか。頼むからこれ以上の問題を起こすな。起こすなよ!?
真剣に祈り通常の任務に戻ろうとして……部下が何人かそれこそ血相を変えて走ってくるのが見えた。
「団長……!」
「今度はなんだ。」
返す反応が多少げんなりしていても決して責められはしないと思うが、しがみ付かんばかりに詰め寄られ眉間に皺を寄せる。激しく動揺していて必死で何かを伝えようとしているが言葉になっていない。一体何だっていうんだ。
「場を騒がせてしまったようだ。忙しいところすまないが……ちょっといいかな。」
さすがに脳内が停止した。部下の背後から放たれたすまなそうな、穏やかな声。部下達がざざっとさり気なく俺の背後にずれて頭を下げた。
困った顔をして、そのくせ絶大な存在感を持って立っているのはプラチナブロンドをオールバックにした薄氷のような青い瞳の美丈夫。30歳前半にしか見えないが実際は43歳。
そう、彼は自分達が忠誠を誓っているフェザーリオ王国を統べる王。レオルシード・アキツ・フェザーリオまさしく本人だった。
なんで一国の王が普通に、城内といえども警護も付けず歩いているんだ。部下の狼狽ぶりを激しく納得しながら、昔からそういった気軽な面を持つ王のことを知っているジェイドとしては物言いたげな視線をちらりと向け、最敬礼を取った。
「わざわざ出向かれなくても、呼び出してもらえば。」
「うん。一応私も探そうと思ってね。」
「探す?」
「やっぱり城内にはいないようだ。城下に行ってしまったみたいだね。」
ひらりと掲げられた上質の紙には、流れるような筆跡でたった一言、
『リオンと民の様子を見てきます。』
その筆跡は著名を見るまでもない。今年15歳、成人を1年後に控えたカルディレナ・セレスト・フェザーリオ王女。一緒に書かれているのは彼女の双子の兄フェナリオン・カイト・フェザーリオ王子に他ならない。
つまり、王位継承者である2人が、警護も付けず城から出奔したということらしい。ちょっと待て、なんだこの連続した災難は。ステラの呪いか、それともノアが何か呼び寄せているのか!?
「レナがね、民を知ってこその王族だってよく話していてね。じゃあ、と言わんばかりに行動に移してしまったようなんだ。できればあまり大事にしないでほしい。ジェイドなら2人も懐いているし、見つけてくれたら安心だ。」
無言で激情を押さえているジェイドを見ながらマイペースに話すレオルシード。いっそ怒鳴りつけたい衝動を抑えて必要な情報を聞く。
2人がいなくなったのに気付いてから小1時間ほど経過していること、王女は濃紺、王子は深緑のマントを羽織っていたらしいこと、守護獣に過剰な反応は見られないことから今のところ危険はないらしいことを(そもそも守護獣が付いて行かなかったことも、その裏付けになるだろう)確認して拝命する。
護身術など戦闘面では心配ないが世間知らずなところは否めない。しかも怪しい動きがないわけではないのだ。
緊急招集後、半時にも満たないうちに騎士団が動揺を押し隠して城下に飛び出していった。




