第8話 剣士ミナコおばさんが主人公のゲームがやりたい
俺は、大昔のことをそんなに興味を持てない人だ。けれど、井井田モンシステムが、何故作られたのかを知った時、妙に納得してしまった。
――ようするに、あの臆病者を叱咤激励するために、恋が治まらないおっさんだった俺が当たったのか。
愛する人を愛していると言いながら、恐れて逃げ腰のあのひよっこ。
未だにたった一つの恋に未練がある俺は、相性は良いだろう。
だが!
俺を愛する人を失ったんだ。あのひよっこを叱咤激励どころか、追い詰める可能性だって大いにあり得る。それでも俺にあのひよっこに愛を知れ、と怒鳴れと言うことか。
――女神も、たった一人の男を愛しすぎだろう?(笑)
どちらにしても、俺は恋い焦がれる女と男をくっつけなければいけない。
――まずは、五人の男か。魔物であり、女神を守るために従った、従者たち。裏切り者だと女神を罵って、お前達の末路が、封印とは。
像が眠るのは、それぞれの王国の城の最下層にあるのだという。
ザンハル王国に二つの像がある理由は、二つの像に眠る魔物が、海由来だからだとか。
――魔物を倒す、とか? うーん。違うよな……。
シライナおじいちゃんは、複数の兵士を伴い、地下まで降りていく。俺もシライナおじいちゃんの後ろをついて歩いていた。
やがて、地下まで降りてくると、巨大な光に照らされた、二つの像とだだっ広い部屋が広がっている空間に辿り着く。
「あの光は?」
俺は天上から垂れ下がる謎の光を見つめる。
「あれは、女神ヲーリンの輝き。魔物達が勝手に出られないように見張っている。」
シライナおじいちゃんは、兵士達に背後の扉を閉めるように命令する。おじいちゃんと二人で、二つの像に挑む。
――どうして、おじいちゃんは俺に肩入れするんだろう?
説明をしてくれた時も、おじいちゃんはずっと真剣な眼差しを、このぬいぐるみボディに向けていた。
――本来なら信用するはずない。こんなイかれた姿の俺だよ? 俺ですら、自分を信用できるかって聞かれたら、無理ですっていうからなぁ。
「あきらよ。覚悟は良いか?」
おじいちゃんは、皺を寄せて笑った。震えるような低音ボイスが、泣きそうに聞こえて、俺が、おじいちゃんに抱きつきそうになった。
「大丈夫。俺を信用して!」
声を抑えながら、俺はできる限り明るい声で言った。
どすどすと、像の前に進み出て、俺はその時だけ、おじいちゃんを本当の親と重ねてしまった。
――ごめんなぁ、あきら。
亡きながら、死ぬ間際に聞こえる父さんの声が、俺を鼓舞させた。
――ええい! 俺は俺のために生きるんだい!
目の前の像が赤く光り輝く。
「魔物だか、なんだか知らないけどな! 周りに迷惑なんだから、女神を困らせるんじゃない!」
俺の愛する人たちと、俺の愛した人々のために、クマのぬいぐるみであるその右手が、像を破壊するために、初めて暴力を振るった。
がっっしゃぁぁん
像は、軽いパンチで粉々に砕け散った。
そのまま、次の像も破壊する。
がっっしゃぁぁん
砕け散った像は光となって、天上に吊された女神ヲーリンの輝きに吸収されていく。
同時に、黒い影が現れた。
――あ……!
一メートルほどのタツノオトシゴと二メートルはあるマグロだ。
「美味そう……。」
俺のぽつりと溢した言葉に、ぎょっとした魚の魔物達。
「わ、我らのことを食おうとするな!」
「そ、そうだぞぉ。我らは魔物だからな!」
「いや、魔物だから食べられるじゃん。」
「我らは食用ではない!」
どう見ても軽口しか叩けない、魚。彼らが像の中に封印されていた女神の従者で間違いない。
「……人の姿に戻れないの?」
俺の言葉に、ようやく魔物達は焦りを解いた。
「我らの姿が人型ではないのは、お前のせいだぞぉ。」
「え? 俺のせい?」
俺は理由が分かっていたが、答えをはぐらかす。
「貴様ぁ! 像を壊しただろう? わざとか!」
タツノオトシゴがぷんすか怒っている。
「えへへ……。」
俺はクマさんボディでぴょんぴょん飛び跳ねる。
「嬉しそうにするんじゃなぁぁい!」
タツノオトシゴの兄さんは、おふざけが嫌いなようだ。
「そうだぞぉ。俺たち、肉体がほぼないじゃぁないかぁ!」
マグロの兄貴は、ちょっとだけのろまなのだろう。
「でもでも。お兄さん方、人間の身体のままだと魔法使うそうじゃないですか。」
ぬいぐるみの俺に魔法は使っても意味ないが、おじいちゃんが大変なことになるだろう。
「そ、そんな可愛い声でそんな風に言っても、おふざけが過ぎるではないか!」
――タツノオトシゴの兄さんってもしかしてヤバイやつか? 俺の声はただのおっさんだぞ。
俺は背中がぞわぞわしたので、一歩引いた。
「まぁ、正しい選択ではあったけどなぁ。」
マグロの兄貴はちょっとがっかりしている。
「では、お二方にも姿をお渡しいたしましょう。」
後ろで悪ふざけを眺めていたおじいちゃんが、ようやく声をかけてくれた。
おじいちゃんがちょっと疲れて……、いや面倒そうにしているのは、明らかにテンションの差だろう。
あんなに緊迫していたのに。
――でも、俺のせいではないよな? 根本的にあっちがおかしいだけだし。
俺は、自分の行いが明らかに違った感じになったのを魔物二人のせいにして、鼻歌で誤魔化した。
おじいちゃんは二人の魔物を人ではなく、俺と同じようにぬいぐるみの中で動けるようにした。
いや、姿がウサギさんとカメって、どういう選択?!
おじいちゃんは、タツノオトシゴの兄さんをウサギに、マグロの兄貴をカメに指定した。
――じいちゃん、嫌に的確だな。
俺は内心ツッコミと網羅されたおじいちゃんの脳内が凄すぎて、こっちに来てから一番笑えた。
ぬいぐるみの中で震えている俺の腹が、笑いをけたたましく出すことは今は出来ない、ことが良かったとこれほど思った事はなかった。
魔物の問題が、まだ解決していないが、これでちょっとだけ解決した。地下から戻ってきたところで、ラウリアぼっちゃんに捕まえられ、洗いざらい白状したのと、おじいちゃんにオグサナがあれやこれや言っていたのを小耳に挟んで、あとから彼が俺の部屋へやってきた。
「井井田モン様! 何故、わたしに声をかけてくださらなかったのです!」
それは、ラウリアぼっちゃんにも散々言われたが、
「いやー。だって、俺のぬいぐるみボディに抱きついてこられたら困るから~。」
と、言葉巧みに話を変えた。
実際、俺のこのふわっふわボディは生ぬるい感情で近づけば『抱きつきたくなる』というのだから。
――俺も、愛されボディだとふざけているけど、ちゃんとしたときはちゃんとするからね。
これでも齢四十も歳を重ねている。
――未だに未練がましい恋の終りが出来なくとも、愛とか恋とか。誰よりも敏感なんだからな。
クマ以外にウサギとカメが増えたことを、喜んでいる人間はいないが、おじいちゃんが、翌朝大々的に発表した。
魔物を復活させるために、未来永劫誰もがなし得なかった井井田モンが、そのシステムを破壊し、現在、海の魔物が戻りつつある、と。
実際、海の魔物が現れたー、と、街からひっきりなしに聞こえてくる。
叫び声が喜びの声だったり、本当に助けを求める声だったり。
――剣士ミナコおばさんは元気に暴れているのかな?
俺の主人公像を木っ端微塵にした、あのおばさんを思い出して、なんとなく、帰ってゲームしたいと思った。




