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『あほ子とダンスを』  作者: あおぞら えす


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第2話 異世界の王道、『城』。

 城までの道のりはそこまで遠くはなかった。しかし、無言で俺を従えるお兄さんの存在のせいで、良い感じの道のりにならない上に、彼の俺への眼差しをかなりきつめで、無言であることもそうだが、おそらく嫌いなんだろう。

――そんなに睨まれてもなぁ……。

 もふもふのボディである俺をじっと睨み付ける彼は馬車から降りた後も変わらない。

 大きな白い城の前に整列している兵士と思われる人々がずらりと並んでいる。その前に、二人の男女が立っていた。一人はおそらく王様。もう一人は明らかにただの平民のような服装。

「やぁやぁやぁ。ようこそ、グランデルへ。この王国の王をしておる、フーレル・ラードだ。お主が井井田モンか。わしは井井田モンという存在を書物では知っていたが、まさかこの時代にやってきてくれるとは。」

 フーレル国王は気さくで、良い感じのおじいさんだった。年齢を重ねた男ってちょっと味があるし、なにより経験もある。

 王様だからこそ、こうやって気さくっていうのはいいよな。

 次に、女性が話しかけてきた。

「さて、わたくしの紹介をさせてくれ。わたくしはオンディの街を任されている、レナス・フォルド。井井田モンがこの世界に降臨したということは、君は街の中にいる男女を『別れさせる』という任務があるはず。誰なのか教えて貰えるか?」

「え? は?」

 ここでようやく知った。俺は別れさせるためにやってきた存在だと言うことを。

 なにゆえにその意味の分からない仕事を自分が行うのか。

「いや、待ってください。愛し合っている人々を別れさせる? 何故?」

「うーむ。それは、壁が高いほど、人は成長できるから。という神のお告げだと聞いている。なにしろ、しばらく井井田モンがこの世界に来ていないし、世の中の不条理はいつでもやってくるものだ。そのおかげで、魔物がいないから、わしらはそこまでその疑問を調べていない。」

 フーレル国王はやたらとのんびりした口調だ。

――うん。老人に聞いても意味がないか。王様ってもう少ししっかりしているべきだろ。

 あきらは何にも言えない。開いた口が塞がらないというのはこのことを言うのだろう。

――王様というものはもうちょっとこう……。異世界人は普通こうなのだろうか?

「まぁまぁ。井井田モン。君が元の世界に帰るためにもこの仕事を終わらせないといけないんだ。君の為でもある。」

 一方でレナスさんは姐さん風にさっぱり、きっぱり言う。

「ええ? そうなんですか? 俺、帰るために、別れさせるまで帰れないってこと?!」

 あきらはかなり驚いたが、反面そういう謎ルールが異世界転生なんだな、と諦めも入っていた。というか、王様は何のためにいるのだろう?

「ああ。そういうことだ。で? 誰なんだ?」

 レナスは誰なのかを知りたがっている。何か意味があるのだろう。

「ええっと、ラウくんとモモネさんという名前だと。」

「あぁ! そうか。あの二人は事あるごとに魔法で喧嘩するからいつも困っていたんだ。」

「は?! 魔法?! え? あるの?」

 あきらは飛び上がった(軽くジャンプしたので、周囲の人々が息を呑んだ)。

 そりゃあ、異世界だから。あるとは、思ったけど。思ったけども。

「あははは! あるよ、そりゃあ。魔法使いと剣士がいないとこの世界は困るからねぇ。普段は魔物がたくさんいるんだ。君のおかげで魔物がいないけど。」

「そうなんですか~!」

 あきらの嬉しそうな鼻歌が、大きなクマのぬいぐるみを余計に愛くるしく見せる。

 それにスイッチが入ったレナスの姐さんが言う。

「あ、ちなみに。井井田モン。わたくし、君みたいな大きなぬいぐるみを抱きしめたいと前々から思っていたんだ。抱きしめてもいいかい?」

「え? 俺、中身おっさんですが?」

「かまわないよ!」

 レナスは一目散にあきらに抱きついた。

「ふかふかぁ~。」

 あきらは抱き留めたが、あまりにもレナスのデレ顔があれだったので、目を閉じた。

――やっぱ異世界人はおかしい頭の持ち主が多いなぁ。

 異世界の女性は美人が多いと描かれがちだが、実際はおっさん達のほうが割と美形だ。勿論、レナスも普通にしていれば美人だが、いざこういう場面になると、もう顔が壊れて治せないのではないかって感じになってしまう。

――美人なのは良いことだが、このぬいぐるみボディだと、恋愛沙汰になることはないんだろう。まずこのデレ顔で迫られても困るしなぁ。

 あきらは己がおじさんであることと、悲しき恋を持ったままの身であることも踏まえて、このボディに感謝した。

――それにしても、あの二人を別れさせるのか。うーん……。

「さて、わしはこの国を預かる身として、今後の井井田モンの動向を見守らないと行けない。あと、お前さんが帰ることになった場合、この世界に魔物が戻ってくるという重大な存在でもある。というわけで、お前さんに地位を与えておくかの。」

 フーレルのお爺様はそういうとそばに立っていた男に目配せする。

「井井田モン様。これから貴方様には公爵という地位を与えます。だたし、この国での活動する場合のみの地位です。隣国に赴く場合は、わたくしに報告してください。」

 妙齢の男性が低い声で俺をじっと見つめていった。

「えぇっと……。名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 妙な圧がある。フーレルのお爺様とは全く違う、良い感じのおじさまだ。そして、イケメン。

――やっぱこの異世界って男性陣がイケているよなぁ。いや、若いお嬢さんに会ってないからだろうか?

 レナス姐さんは、今もふかふかの俺のナイスボディにしがみついている。

 彼女は若いお嬢さんには見えないので、該当しない。

「失礼いたしました。わたくしは、フォルド公爵家の現当主、アルドル・フォルドでございます。今そこにいるレナスは、わたくしの次女で、魔法使い頭領を務めております。」

「……ん? え?」

 一瞬、言葉が頭を通り過ぎて、もう一度よく、かみ砕く。

「えっと、アルドルさん、の、お嬢様。」

 レナスのデレ顔を見て、ちょっと考える。

――なるほど。めっちゃ高位の人間だったか。というか、そりゃそうだ。レナス姐さんも街を管轄するぐらいの人だからな。いや、でもなぁ……。イケオジの娘かぁ。

 俺は色々と飲み込んだ。

「魔法使い頭領っていうのは?」

 あきらはアルドルに尋ねる。

「わたくしの娘は魔法使いとしてとても優秀で。魔法使い頭領というのはこの国では一番素晴らしい魔法使いに贈られる称号でございます。」

 アルドルがかなり嬉しそうに(顔面にはなにも現れてはいないが)声高に教えてくれた。

「へぇ。凄いですね。」

 定型文の返しをあきらは即座にした。

「隣国とは?」

 そのままの流れで質問。

「それについてはわしが答えよう。我が王国グランデルの周囲には三つの国がある。それぞれ、ドワーフの岩と呼ばれるドワーフの国、ダンガンデン。海に隣接する王国ザンハル。山の中にあり、崖の上に住む龍人の国、シャマル。三つの国と交易をしているが、どの国も井井田モンが降臨したことで大きな影響を受けているはず。魔物がいなくなると困る国もあるからの。お前さんを殺したいと思う国はあるから、他国へ行く際は気をつけて欲しいのだ。」

 あきらは、なるほどと考える。

――魔物がいて欲しい国といないで欲しい国、か。立場や場所によっては、俺自身は殺されていたのかも知れない、と。

 この国の王様は割と普通だった。いや、ちょっと抜けてはいるだろうけれど。

「分かりました。この国で身分を貰えたことは都合が良いのですね。俺としては寝て働けたらどこでもいいので、ありがたいです。」

 あきらの物わかりの良さに、アルドルは少しだけ表情を緩めた(顔は変わっていない)。

「貴方様は、とても優秀な方なようですね。働く意志があるとは。では、わたくしの養子という立場になるので、是非ともこれから話しをさせていただきたい。」

「え? 養子?」

 俺はちょっと驚いた。身分や地位がすぐに出来るわけがないということは、なんとなく思っていた。ただ、アルドルおじさまの養子だとは思わなくて驚いたのだ。

「ええ、そうです。我が王国もそう簡単に身分を与えられないので。」

「あ、はい。それはすぐに分かりました。ただ、アルドルおじ……アルドルさんの養子になれるとは思っていなかったので。」

 俺のナイスボディに埋もれているレナス姐さんが顔を上げ、

「だとすると、お前の姉だって事だな!」

 レナスの嬉しそうな顔に、俺はちょっとだけほっこりする。

――妹が悔しがるだろうな。姉貴を欲しがっていたあいつも、俺が結婚するんだと聞いて嬉しそうにしていたっけ。叶わない夢。終わらない闇。あの数日間は俺の心を深い水底へと落とした。

 あきらは、過去の瞬間を思い出した。

「……。姉ですか。そういえば、ご兄弟は何人いらっしゃるのですか?」

 過去を振り払って、レナスに尋ねる。

「む? 姉上と兄上と弟のラウリア。今日、ここまで連れてきた者がラウリアだ。」

 レナスのちょっとだけうろうろと視線を送り、アルドルの後ろに立っている若い男を指した。

――俺をめっちゃ嫌っている子か。ラウリアくんは割と普通に大人しい子だと思ったが。

 俺はラウリアの様子を窺った。アルドルの後ろで姿勢良く立っていて、その脇にぶら下げている剣が、彼のものではないことに気づいた。

――彼の兄のものか。というか、兄はここにいないのか。姉もいない。

「では、井井田モンよ。街に借家を手配されていたと思う。この国でゆっくりしてくれ。勿論、別れさせ屋という仕事を放棄することも可能だ。それを行う場合、お前さんは、この世界でその姿のまま一生を終えることになる。」

 フーレル国王はそう言って、その場にいた全員を解散させる。特にうしろで待機していた全ての兵士を連れて戻っていく様は、王様に相応しい姿だった。

――ただのじいさんなのになぁ……。

 俺のぬいぐるみボディを離さないレナスを引き剥がすために、彼女を説き伏せ、あれやこれやする時間がとんでもなくかかることを、今の俺は知らなかった――。

――レナス姐さんに俺のボディへの接近を禁止させなければ……。



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