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『あほ子とダンスを』  作者: あおぞら えす


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2/8

第1話 飛行機から降りたおっさん、知らないところにいた。

――飛行機に乗って、着いたら異世界。ふーむ。これが異世界ものってやつか。

 大城あきらは目の前に広がる草原と背後に見える大きな城を交互に眺めた。

――間違いなく知らない世界だよな。それだけならまだしも、俺自身も自分の姿に驚いているよ。

 草原にあるそこそこの大きさである湖の水面に映る自分。

――俺、人形じゃん。

 大きなクマさん。

――しかもあいつの好きだった……。

 泣けてくる。死に際まで愛を誓った人の、好きだったぬいぐるみになった自分。

――哀れだとは思わないよ。だって、おれも結構好きだったもん。

 あきらはその姿になった意味を理解出来ないまま、どこかを目指そうと、とにかく歩き出した。


 異世界とやらは、不思議なもんだ。草原を歩いていたら、手を振られて。

 若い男女だった。一人は黄金色の髪色で、もう一人は綺麗な茶色。二人はラウとモモネというのだそう。

「ねぇ、おじさん。その、どうしてこんなところで立っていたの?」

 モモネが尋ねる。

――おじさん? 俺は今、クマのぬいぐるみ、だよな?

「そうそう。こんな何にもない場所で。俺たちは街に帰る予定だけど。おじさんはここで何していたんだ?」

「えっと……。俺、クマのぬいぐるみのはず……。」

 あきらは首を傾げた。

「「え?」」

 ラウとモモネがさっと青ざめる。

「え? いや、え?」

 あきらはひいた二人にちょっとだけ焦る。

「う、嘘! まさか、井井田モン?!」

 モモネが叫んだ。

――何その名前……。

「お、おじさん! 『別れさせ屋』の井井田モンなの?!」

 ラウも叫んだ。

――だから何その名前!

 二人はゆっくりと後ずさる。

「え、ええ??」

「「イヤ――――――!!!!」」

 二人は、それはもう、すごい、ダッシュで逃げていった。

「……え? 何? 『別れさせ屋』?」

 凄い速さで一人ぼっちになった、俺。

――街はあっちかぁ……。

 城の方角をみたが、あきらは躊躇なく街へ向かうことにした。

――偉い人とはきっと会うことになるだろうし。街に逃げた若人が気になるし!


 流れ着いたというか、歩き続けた結果辿り着いた街、『オンディ』は、とても不思議な人々が住む街だった。

 あきらが到着したのは夕方だった。街は周囲を塀で囲み、訪れたものたちは大きなゲートで審査を通さなければならなかった。

 あきらはその審査に引っかかることはなかった。

 何しろ井井田モンという職業だと決めつけられたのだから。

「あんた、井井田モンか?ご苦労様だな~。」

 どうやら、井井田モンとは、二人の男女以外は、皆同じようにクマのぬいぐるみに見えるそうだ。

 別れさせ屋というのも、言葉の通り。恋人達を別れさせるための仕事を指す。

――だから、ラウとモモネには、俺の本来の姿が見えた、と。

 そうこうしているうちに、俺は、流れの井井田モンとして、この街に住めることになった。いや、住む必要があるのだそう。

 別れさせ屋だから、二人を常に監視しないと行けないらしい。

――設定がよくわからない異世界だな。俺は異世界ってもっとファンタジーなものかと思っていたんだけど。

 井井田モンとして、あきらがこの街で過ごすことになったのは、当然だったし、そしていつかは帰れると勝手に想像していた。

――俺の年齢って向こうで止まったままかな? というか、飛行機から降りたらここにいるって……、ファンタジーだなぁ。

 あきらの前向き思考は、空き家を貸してくれた隣の夫婦、バランとレイシーに気に入られている。

「バラン。愛しているわ。」

「レイシー。俺もだ。」

 ただ、いつも愛をお裾分けしてくるのが、玉に瑕だ。

「お二人とも、もう十分ですよ。」

 あきらの言葉に、バランは笑顔だ。レイシーはちょっと不満顔。

「それで、今日はどうしました?」

「実は、ラウとモモネが今日も盛大に噴水広場でやらかしているのよ。」

 レイシーがちょっとだけ頬を膨らませていたが、あきらに説明する。

「またですか?」

「そうよ? 『また』。私たちでも止められないわー。」

 レイシーが嬉しそうにしている。それにバランも笑顔だ。

――この異世界って、どうしてこうも変なんだ。

 あきらは、夫婦からまた愛をお裾分けされないように、どしんどしんと、噴水広場に向かう。



 ぬいぐるみになって翌日。あきらは、己が何をしないといけないのかを知った。

 彼がこの街の偉い人に呼び出されたのは、家が決まって、いざ寛ごうとしたときだった。

 偉い人はいるだろうとは思っていたが、その人に呼び出されるなんて思いも寄らなかった。

――この街は変な人が多いみたいだからな。

 街で会う人会う人、どこか抜けた歪な人々ばかりだった。特に問題があるわけではない。けれど、滑稽で、でも優しくて、だからといって油断が出来ない。面白い人々。

 特にあきらは『酒屋の番長』という名前のお店の主が好きだった。変わり者なのに、彼はいつもあきらに飲み物を与えようとする。

「まぁまぁ。酒は飲めよ? ここはいつだって開いているからさ!」

 酒樽からジョッキに一杯渡してくる彼が、クマのぬいぐるみでも飲み物は飲めると知っていたのか、出してくれる。

 実際に、飲み物は飲める。食べ物は無理だったけれど。(理屈は分からない。)

 彼は良い感じの年齢のおっさんだった。俺も大概年齢は重ねているけれど。

 良き友のようにフレンドリーな彼の名前が、バンチョウだと知ったのはずいぶん後だ。

 昼間から酒を飲んでも酔わないのが、このクマのぬいぐるみの良いところ。街を歩けばみんなが声をかけてくれた。

「おお! 井井田モンじゃねぇか!」

 紳士スタイルの老人がシルクハット脱いで挨拶をしてくれる。

――どういう職業の人だろうか?

 ふわふわのクマの腕をぶんぶんと振り、

「よろしくお願いしまーす!」

と、明るく言うと、すぐにわっと歓声が上がる。

「井井田モンだ! 久しぶりに見たなぁ。」

 老いた男が手を振り返して言う。

「本当ねぇ。井井田モン! よろしくねぇ!」

 今度は若くない女性が手を振ってくれる。

 街の中では、井井田モンという職業を快く受け入れ、その姿になんの驚きもしない。

――不思議だけど、きっと当たり前なのかな。

 あきらはそう納得した。


 さて、偉い人との面会場所は、よくあることだが、やはり城だった。街中で面会するにはちょっと難しいらしい。

 あきらもそこまで無理してでも会いたい訳ではなかったのだが、偉い人と会うということは、この世界の秘密、みたいなことを教えてくれるのかも知れない。

 そんな感じで意気揚々と馬車に揺られ(大きなクマのぬいぐるみが馬を操れるわけがないので。)、街からあの湖のある草原を越えて城を目指す。

馬車に揺られて眠れるわけがないので(よく聞くが、地面が整備されていないとお尻が痛いし、頭をあちこちぶつけるという話し。あれは本来ならそうだったろう。俺はでかいぬいぐるみだからなのか、痛みはなかった。)、ずっと遠くを見つめていた。

 目の前に知らないお兄さんが剣を携えていたら、そりゃ、眠れないだろう?

 視線を外に向け、ただただ、黙していた。

 その人が俺を連れ城まで警護すると言われたが、警護も何も、魔物にすら出会わない平和な世界で一体何から警護するのだろうか?

 魔物と言えば、この異世界ではとある理由で、魔物が現れない。

 その理由が俺だというから、驚いたよ。

 なんでも、井井田モンは世界から人々を守る救世主と呼ばれているらしいのだ。

 うん。らしいのだ。どの辺りが? といわれても、答えられない。強いて言うなら、俺という『異常生命体』と『魔物』がこの世界では両立できないらしい。

 システムとしては変わっているなぁとしか言えないが、要は、異常生命体が存在している限り、魔物って言うものは存在しないらしい。

 理解は出来たが、『異常生命体』と暮らせるこの世界の人間にも驚く。俺を受け入れたバンチョウにそれを尋ねたら、大笑いしながら、

「お前さんがいるおかげでしばらく平穏が続くんだ。最高じゃないか!」

 彼は、そう言って俺のもふもふなボディをぼんぼんと叩いてくる。

「あ! 柔らか、もふもふだなぁ。」

 バンチョウはそう言って、もふもふの俺のボディをやたらと触ってくるのだ。

――顔に似合わず、乙女な所あるよな、このおっさん。

 クマの俺は生暖かくそれをしばらく許してから、

「バンチョウ、俺のボディがベタベタになるんだが。」

「おお! すまんすまん。にしても、可愛らしいよなぁ。」

デレデレ顔のおっさんは見るに堪えない。

「おっさん……。」

 バンチョウはやはり、街の住人だった。



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