花火
「戻ろうか……」
オールを取ろうとすると、オフェリアが僕の袖をギュッとつかむ。その表情は長い黒髪に隠されて見えないが、「あの……」と小さな声で呼びかける声は緊張で震えていた。
「オフェリア?」
「もう少しだけ……このままでいたい……です」
恐る恐る顔を上げた彼女は、瞳が濡れていて頬が赤く染まっており、それを見た途端に心臓の鼓動が急に速くなる。焦って顔を背けてしまったからか、彼女の手が袖から離れた。
「ごめんなさい。やっぱり……私、ワガママになってしまっていますね……戻りましょう。みんな、心配しているでしょうし……」
彼女も顔を背けて、いつもより早口言う。
引っ込めようとするその手を咄嗟につかんだ。
ビクッとするオフェリアの手を少し強めに握る。
「ワガママなんかじゃないよ……それはワガママとは言わない」
僕だって本当はそう思っているんだから。
このまま、日が落ちるまで一緒にこうしていたい。
オフェリアは何か言いかけるように唇を少し開いたけれど、言葉を飲み込むようにギュッと閉じる。コクッと頷いた彼女を見てちょっと笑った僕は、「失礼」と断ってから両腕を伸ばした。
「え? あ……イグナーツ様!」
目を見開いた彼女の体を持ち上げるように浮かせて、僕の片膝に移動させる。
「あの、ひ、人が見ています!!」
真っ赤になり、あわあわして慌てている姿がかわいくて、僕は彼女の腰に腕を回して抱き寄せた。
「誰も僕らの事なんて気にしていないよ」
漂う小舟に乗った恋人同士は、お互いしか見えていないようで、ぴったりくっついてイチャイチャしているんだから。中には人目も気にしないで堂々と口づけしている人もいる。それに比べたら、僕らなんて慎ましく楽しんでいる方だろう。
「でも……川の方でも人が見ています!」
オフェリアはすぐに膝から下りようと、足を小さくばたつかせる。小舟が左右に揺れて、彼女が咄嗟に僕の首に腕を回して抱きついた。
これは――うん、役得というやつだ。
僕は「大丈夫、落ち着いて」と、彼女の髪を梳かすように撫でる。
ようやく小舟の揺れが収まると、オフェリアはますます赤くなって両手を上げた。
「ごめんなさい! わざとではないんです。私……普段はこんなに……恥ずかしい事はしないんです」
「うん、うん、分かっているとも。水の精霊のイタズラのせいだね」
「水の精霊……ですか?」
「小舟に一緒に乗った二人は、水の精霊の加護と祝福があって結ばれるそうだよ?」
「私……そうとは知らず……ごめんなさい!」
オフェリアは恥ずかしそうにギュッと手を握って謝る。
「どうして謝るの? 僕と結ばれるのは嫌だった?」
「違います! 私なんかと一緒に乗って……よかったのかと……」
「いいに決まっているじゃないか。君とじゃなきゃ、他の誰と乗るっていうんだ? 僕らは結婚するんだよ」
僕は軽く笑って答え、ポケットから飴の包みを取り出す。まだ残っていたはずだ。それを一つつまんで、オフェリアに差し出す。オフェリアは周りを確かめてから、思い切ったように口を開いてパクッと頬張る。僕はもう一つとって、自分の口に放り込んだ。ナッツの香ばしさと飴の味が口に広がる。
空が暗くなり始めていて、街の灯りが川面に映っている。涼しい風と一緒に、人々の賑やかな声も流れてきた。川縁に机と椅子を並べて酒盛りしているのだろう。
「イグナーツ様……」
オフェリアが急に覚悟を決めたような真剣な声で僕を呼ぶ。
俯いている彼女の顔が暗く見えて、僕は一瞬、これから破談を宣告されるのでは緊張してしまった。
えっ、まさか――違うよね?
「……なに? どうした……の?」
僕の胸を少し押して体を離した彼女が、真っ直ぐ見つめてくる。その瞳には迷いの色が浮かんでいるように見えた。
「イグナーツ様にお話しておかなくてはいけない事があるのです……」
「うん、何だろう……よくない話じゃないといいな」
まさか、このマルク王国に許婚とか、幼い頃から結婚を誓い合った相手がいて、その人の事がやっぱり忘れられないとか?
覚悟を決めて国のために帝国に嫁ぐ事にしたけれど、祖国に戻ってきたらやっぱり想いを忘れられなかったのかもしれない。もしかして、そいつは彼女が戻ってきた事を聞いて、夜中に城に忍び込んだ可能性も!
なんという事だ。僕はそうと知らずに一人浮かれていたのか。
どんな喜劇の道化役だ。
ここは彼女の幸せのために身を引く事も……。
すぐに離婚は難しくても、清い結婚を貫いて数年後には円満離婚も視野に入れなければならないのかもしれない。僕は頭を抱えて呻きたくなった。いくら彼女の幸せのためだとしても、そんな現実はちょっと受け入れがたい。僕が渋い顔で葛藤していたからか、オフェリアが不安そうな表情になる。
「イグナーツ様……聞いてくださいますか?」
「もちろんだとも。どんな辛い現実も、受け止めよう」
僕はキリッとした顔になって答える。嘘だ。受け止められるもんか。別れを切り出された途端に、川に飛び込むに違いない。いや、その前にすでに川に飛び込みたくなっている。そうすれば、彼女は結婚前に夫となるはずだった男を失ったかわいそうな姫君として祖国に戻り、本命の男と結ばれる事ができるだろう
幸せになった後も、今日僕と一緒にいた時間の事を覚えていてくれるかな。
覚えていてほしいような、忘れてほしいような。
どちらにしても、辛すぎる。
「私はずっと……この国で……」
ほら、来た! やっぱりだ。好きな人がいたんだな。
僕は自分の目を片手で覆い、クッと唇を噛みしめた。
心臓を剣で貫かれる心の準備はできている!
いや、本当は全然できていないけど。僕はあいにく、カールみたいな鋼鉄の心臓は持っていないから痛みには弱いんだ!
「こんな事を、イグナーツ様にお話するのは心苦しいのですが、この国にいる以上、知られてしまうと思うのです。だから……ちゃんとお話しておかなければ」
「うん……オフェリアがどんな事を打ち明けてくれたとしても、受け止めるつもりでいるよ」
「私のこの国での評判は……あまりよいとは言えないのです。兄にも何の価値もない王家の恥晒しだと言われてきました。この髪の色も瞳の色も、不吉だと言われてきたので、自分の姿が男の方に好まれないのは承知しているのです」
オフェリアは艶々の美しい黒髪をギュッとつかんで俯く。
「えっ、何の話……?」
僕は思わぬ告白に混乱して尋ねた。
オフェリアの髪も瞳も、これ以上なく美しいけれど?
むしろ、男の視線を釘付けにしそうで、僕はいつも心配になっているのに。
夜空みたいに輝いていて魅力的なんだから。
それが不吉だって?
そんな事を言うやつは感性と知性と性格が歪んでいるやつだけだ。けれど、オフェリアが山岳民の母を持つが故に蔑まれていたのも知っている。そのせいで、きっとひどい言葉を投げつけられる事は多かったのだろう。その元凶が、現国王で彼女の異母兄であるルカーシュ国王とその母である王太后にあるという国の事情も薄ら想像がつく。
「私は……少しも誇れるものがないのです。王家の血を引いていても、私を王族の一員と見なす人なんていないでしょう。兄はそれが分かっていて、帝国に私を渡したのです……もし、私の存在が王国に不利益をもたらしそうになった時には切り捨てられるように。そんな無価値の私を……イグナーツ様も帝国の皆様も、すごく大切にしてくださいます。私にはそれが、とても心苦しいのです」
オフェリアは僕の上着をギュッとつかんで、声を震わせる。
「そんなの、当たり前じゃないか……」
「いいえっ! 私には考えられないほどの幸運で……本当にこのまま、その幸運を享受していいのか不安になるのです。だって、私には……イグナーツ様は過ぎた方なのですから」
涙ぐんだ目で見られて、僕は息を呑む。
「……オフェリア、もしかして……結婚、やめたいと思っている?」
緊張した問いかけに、彼女はすぐに返事をしない。
ああ、やっぱり――迷っているんだな。
本当は別に理由があって、好きな人でもいて……僕との結婚を望んでいないのに、言えなかったのだろうか。オフェリアは優しくて、周りに気を遣いすぎるから。きっとそれで、迷惑をかけるのではと心配していたのだろう。
心配する事はないよ、君が望まないであれば、後の事は僕が責任を持って全部、片付けるから。そう言えば、彼女も安心するのだろう。
それなのに、喉元まで出かけたその言葉がつっかえる。
チャプン、チャプンと、小舟が水に揺れる度に音が聞こえた。
「安心……していいよ…………」
ようやくそれだけ言葉にできた。作ったような笑みが強ばってしまう。
「イグナーツ様……私は! 私はイグナーツ様のお側においていただけるなら、それだけでもう、十分なのです。正妻にしてほしいなんて望みません。イグナーツ様にはきっと、私よりもっと相応しい素敵な方がいらっしゃるはずです。もちろん、そうした方が現れたら、私を邸に置いておく事はできないかもしれません。それまででも、かまわないのです……せめて、今だけでも……私と一緒にいていただけませんか? 結婚なんて贅沢は望みませんから」
オフェリアは僕の両手を取ると、自分の額に押しつける。
彼女の白い頬を、静かに滴が伝っていた。
「恥知らずな私の願いを……どうか……一時だけでも叶えていただきたいのです。何もいらないのです。あなたのお側にいる事以外」
潤んだ瞳を向けて声を震わせる彼女を、僕は動揺して見つめる。
「あの……オフェリア? 僕の結婚が嫌とかそういう話じゃなくて?」
間の抜けた声で尋ねると、びっくりしたように彼女が目を見開く。
「いいえ! 嫌だなんて……私はイグナーツ様の妻に相応しい身分も地位もなく、容姿もこの通りですし、誇れるような特技もないのです。ですから、もしイグナーツ様が帝国のために無理に結婚をしてくださろうとしているのなら、心苦しいのです。でも……私は他の誰かの元に嫁ぐのは、嫌なのです。ワガママを言っているのは分かっています。でも……私はあなたがいい。他の人は嫌です。ですから、お側においていただけるだけで十分だと……覚悟を」
ポロポロと涙をこぼしながら言葉を紡ぐ彼女の唇を、無理やりにでも塞いでやりたくなって、僕は髪をかき回しながら深く溜息を吐いた。
そんな僕に驚いたのか、オフェリアが口を閉ざす。
本当に、この人は――。
どうしたものかと、僕は彼女を見る。
「オフェリアには幼い頃に結婚を誓い合った相手とか、ずっと片想いだったような相手がいるわけじゃないんだよね?」
確認のために声のトーンを落として訊くと、「まさか、いません!」と彼女は大きく首を振った。
僕はそれを聞いた途端に体から力が抜けそうになって、「よかった……」と安堵する。
「じゃあ、結婚が嫌で破談にしたいわけでもないんだよね?」
「もちろんです! でも、私が相手では、イグナーツ様に申し訳なくて……」
また、彼女の目の縁に涙が溜まっている。うつむきそうになる彼女の頬を、僕はパッと手で押さえた。
「君はすごく勘違いしている。他のやつらはどうか知らないけれど、僕は君を見た時に、すごく綺麗な人だと思ったよ。宮殿の中を案内する時だって、ドキドキしてたんだ……この結婚の話を受けて本当によかったと思った。他の男が選ばれていたら、きっと僕はすごく後悔していただろう。本当だよ?」
僕は彼女の頬を拭って微笑む。
「でも……」
言いかけた彼女の唇に人差し指を当て、その肩を自分の方にグイッと抱き寄せた。
「君がこの結婚を望んでいないのであれば……諦めようと思っていたんだ。でも、やっぱり無理だ。君が望んでいなくても、僕は君を誰かに渡したくない。そんなのはきっと耐えられない。オフェリア。ずっと、僕の側にいてよ。僕が持っているもの全部使って幸せにするから。後悔させないから……君が望むのであれば、僕はこの国すら君に捧げるとも。どんな願いでも全部叶える。だから、側にいて……」
緊張してジッとしている彼女の額に軽いキスをしてから、その細い肩に顔を埋めて、苦しくなる胸の息を深く吐いた。
「じゃないと……僕は君を本当にどこかに閉じ込めて、僕だけのものにしたくなる。誰にも触れられないように、奪われないように隠しておきたくなるんだ。それくらい、僕は君と離れがたいんだよ」
「…………私はそれでもかまいません……あなたが側にいてくれるなら……」
赤く火照った顔を隠すように僕の胸に凭れてきたオフェリアが、泣きそうな声で答える。
心臓がドキッとして、僕の方がうろたえてしまった。彼女の口からそんな誘惑的な言葉が出てくるとは思わなかったから。髪に隠れた項にそっと触れてみると、細い体がビクッとする。けれど、離れようとはせずむしろギュッとくっついてくる。
僕は変な声が出そうになった自分の口を咄嗟に塞いだ。
まずい――。
心臓がバクバクしていて、体中の血液が心臓に集まっている気がする。
のぼせそうなほど体が熱かった。これも、水の妖精の加護と祝福とやらのせいだろうか。今、川に頭を突っ込んだら、オフェリアはきっとびっくりするよな。
僕は自重しようと深呼吸する。
空を見れば星が瞬いていた。ああ、もう日が暮れたのか。
「オフェリア……あのさ……」
「はい」
「もう、結婚式……しちゃおうか?」
「えっ、結婚式……ですか?」
オフェリアは僕の唐突な申し出に目を丸くする。
「もちろん、帝国に戻ってからも盛大にやらないといけないんだけど……」
とてもではないが、それまで待てない気がする。
いや、待ちたくない。今すぐに結婚式をしてしまいたい。
僕はすっかり決意して彼女と向き合う。
「簡単な式でいいから、こっちで先に挙げようと思うんだ。ほら、君の母上もイヴァンも、帝国には来られないだろう? 帝国で挙げる式には出席してもらえない。でも、君の純白のドレス姿は見せたいじゃないか。それに、君と僕が正式な夫婦になっている方が、色々と安全が保証される」
この国では弱い彼女の立場を、揺るぎないものにしておく必要がある。そうすれば、この国の連中が彼女に対してどのような悪感情を抱いていたとしても、軽んじる事なんてできなくなるんだから。公爵夫人に危害を加えたなんて事になれば、それこそうちの騎士団を動かす口実にもなる。
あの国王が結婚に下手な横槍を入れてくる前に、手を打ちたい。
邪魔をされたくはない。絶対にだ。
「それで、イグナーツ様はよろしいですか? 本当に私と結婚する事になっても。私が公爵夫人になっても……」
「当たり前だよ。君以外に誰がその座につくっていうんだ? 君を妻に迎える事ができないくらいなら、僕は一生独身でいるほうがマシだよ。これが君の意見を無視した独善的な判断だと言われても、僕の決意はかたいよ。僕のワガママだ。そして僕はそのワガママを生涯をかけて貫き通すつもりでいる。だから、オフェリア……覚悟してくれる?」
僕は彼女の瞳を覗き込むようにして見て尋ねる。
赤く染まった頬に触れると熱を持っていた。
オフェリアはおずおずと僕の頬に手を伸ばし、ギュッと唇を引き結んでしっかりと頷いた。
「イグナーツ様がそう望んでくださるのなら、私は絶対お側を離れません」
僕は微かに笑って顔を寄せる。
「いい返事だ……」
小さな水音が立って小舟が揺れる。
僕の名前を呼ぼうとした彼女の唇をそっと塞ぐ。息を呑む彼女を僕は腕で引き寄せた。
◇◇◇
小舟が下流の渡し場についた時には、もうすっかり夜の空に変わっている。
僕は彼女に手を差し出し、揺れる小舟から降ろす。スカートの裾を少し持ち上げた彼女は、僕と手を繋いだまま周りをキョロキョロと見ていた。
「レーネとフェリックスなら、広場にいるはずだよ。イヴァンたちも戻っているかな?」
「遅くなってしまいました……」
オフェリアが恥ずかしそうな顔をして溜息を吐く。
「僕としては、一晩中小舟に揺られていてもよかったくらいだ」
僕が笑うと、オフェリアが真っ赤な顔をして、少し睨むように見上げてくる。
「イグナーツ様!」
「ごめん、自制するよ。できるだけ努力する。難しいかもしれないけど」
僕は頬を掻いてあさってを向いた。
「お姉様!!」
大きな声で呼びながら、イヴァンが手を振っている。
騎士見習いの子たちも一緒だ。
フェリックスとレーネ、それにジャックも一緒にいるから、なかなか戻ってこない僕らを迎えに来てくれたのだろう。
「ああ、ごめん。小舟が……流されちゃってさ」
僕は頭の後ろに手をやって誤魔化しておいた。オフェリアは顔から火が出そうだとばかりに、僕の後ろに隠れている。
「いやぁ、随分とお楽しみだったようで」
ジャックがニヤニヤ笑って言ってきた。
「まあ……うん、そうだね。ところで、そっちは楽しめた? なんて……聞くまでもなさそうだな」
イヴァンも、他の子たちも、奇っ怪なお化けの仮面を被っているし、手には剣の形をした木の棒を握り締めている。
腰には本物の剣を佩いているのに、そのおもちゃの木の剣がいいの?
まあ気持ちはわかるけど。
「はいっ! すごく楽しかったです。お兄様とお姉様にもお土産をたくさん買ったんですよ」
イヴァンは片手に鶏肉の串焼きを持っていて、もう片方の手には揚げ菓子を持っている。
「おいしそうだ。せっかくだから一つもらうよ」
僕は揚げ菓子をもらって半分に割り、後ろに隠れているオフェリアに渡す。
オフェリアは「ありがとうございます」と、小さな声でお礼を言って受け取っていた。それを口に入れた彼女は、おいしかったのか目を見開いてモグモグと咀嚼する。僕も揚げ菓子の残りの半分を口に入れた。少し脂っこいけど、甘くてサクサクしている。
「もっと、食べてください。お兄様とお姉様に買ってきたんですよ。お金はジャックが払ってくれたんですけど」
「そうなの? じゃあ、ジャックには後でお金を返しておかないとな」
「使ったのは小銭ばかりですよ。今度、旦那様が酒を奢ってくれたらそれで十分です」
ジャックが笑って言うから、「じゃあ、そうさせてもらおう」と僕は答えておいた。
「みんなはお腹いっぱい食べたのか?」
僕が尋ねると、「はい!」と元気のいい声が返ってくる。それはよかった。
花火の音が空に響いて、僕らだけではなく、周りにいた人達も一斉に見上げる。暗くなった空が一瞬だけ明るくなっていた。花火が散って暗さが戻ると、川の向こうでまた花火が打ち上げられる。
オフェリアは僕の服をつかんだまま、目を細めてそれを見ていた。
彼女の黒い髪が風にそよぐ。
ああ、本当に――。
綺麗だ。
僕は息を呑んで彼女を見つめる。花火に照らされる彼女の表情を、この目に焼き付けて生涯忘れたくない。腕を伸ばして抱き寄せると、驚いたように彼女が振り向く。僕は笑みを作って、空に目をやった。彼女も打ち上げられる花火を見上げる。
イヴァンも騎士見習いの子たちも、花火が上がるたびに騒いでいる。
フェリックスとレーネも並んで眺めていた。
王都では離れの窓から花火を見ていたと、オフェリアは話していた。
それが唯一の楽しみだったと。
これからは思う存分、見せてあげたい。
窓越しに見上げる花火ではなく、夜空の下で一番美しい景色を。




