第98話 ドラちゃん、現る
黒猫とおばあさん、マユとメイそしてナミは楽しくお喋りしながら一緒に最初のスマイル道具店へと向かった。
黒猫は一緒に歩きながら、ふと、黄泉の使いであるキツネ面の男性の言葉を思い出していた。
(……消滅までに暫くの猶予を与える……)
黒猫は歩きながら思わずつぶやいた。
「暫く……」
その声が聞こえたおばあさんは黒猫に尋ねた。
「あら猫ちゃん、何か言ったかしら?」
「……いえ、洋子殿。なんでもありません」
「なんだか、しばらく……、って聞こえたけれど」
黒猫は瞬時に考えを巡らせておばあさんに答えた。
「洋子殿……。申し訳ございません。我は暫くすると洋子殿の眷属ではなくなってしまうのです」
それを聞いたおばあさんは黒猫の予想を裏切るように満面の笑顔で答えた。
「それは良かったわ! なんだか眷属って従えているみたいで嫌だったのよ。あのピンデチの時もそうだったけれど、やっと本当のお友達になれるわね。これからも、よろしくね猫ちゃん」
「いえ……。あの」
黒猫はおばあさんの嬉しそうな顔を見ると、自分が暫くすると消滅してしまうかもしれないという事を切り出せなくなってしまった。
◆
おばあさんたちは話しながら最初のスマイル道具店にやって来ると、マユがシャッターを開けて嬉しそうにみんなに言った。
「なつかしいね! 何年ぶりだろう」
すると、ナミは急いで店のカウンターに置いてある頑丈そうな4つの箱に近づき、箱の液晶画面を確認した。
「ぅん大丈夫。みんな元気に寝てる」
その様子を見たメイがナミの後ろから覗き込んだ。
「あ、アルマジロちゃんたちか。あ、そうだ、ポンちゃんも元気? この中で寝てるの?」
「ぅん、寝てる。この箱で寝てれば寿命が止まる」
「ありがとう! ほんと、ナミには感謝してるよー。でも、ほんとごめんね。1個はポンちゃんのためにだもんね。ゲーセンの景品で1000枚コインが必要だったから、わたしじゃ無理っていうか」
「ぅん。本気だした」
その会話を聞いていた黒猫は思わずナミに尋ねた。
「ナ……、ナミ殿。その箱の中に入れば寿命が止まるのでしょうか」
「ぅん。この箱はプレイヤー以外の寿命を保存する。アルマジロは出会ってから15年で死んじゃうから、この箱に入れて死なないようにしてる」
「なるほど。それは我らのような眷属でも可能なのでしょうか」
「ぅん。イリューシュさんの家でウサちゃんも寝てるし、茶太郎と虎次郎も寝てる」
「そうでしたか……。これは我の無学。その箱については知りませんでした。ところで、その箱はどのようにして手に入れるのでしょうか」
「メービーレーンのゲームセンターでコイン1000枚集める」
「メービーレーンの……」
「ぅん。なかなか大変」
「……そうですね」
するとその時、おばあさんがドラゴン大福をたくさん持って2階から降りてきた。
「みなさん、ドラゴン大福がまだあったわ! 上で食べましょう」
それを聞いたマユたちは笑顔で答えた。
「やった! まだあったんだ!」
「ゲームは賞味期限ないのが神!」
「ぅん」
みんなは2階にあがっていった。
ー 夕方 ー
みんなは2階でお喋りを楽しんでいたが、おばあさんが少し疲れたので、みんなでおばあさんを見送った。
そしてマユたちも子供たちのお迎えがあったので黒猫を残してログアウトしていった。
黒猫はみんなが去った後にスマイル道具店の1階に降りると、アルマジロが保管されている箱を見ながらつぶやいた。
「この箱があれば我の寿命も伸びるのだろうか……」
黒猫が箱をジッと見つめていると、店の外から声がした。
「やっぱり、そうなのね」
「!」
黒猫が驚いて店の外を見ると、おばあさんが立っていた。
「洋子殿!」
おばあさんはいつもの笑顔を見せると、店の中に入ってきて黒猫を撫でながら優しく話しかけた。
「猫ちゃん。あなた、もうすぐ寿命なのね」
その言葉を聞いた黒猫は、ゆっくりと顔をあげて答えた。
「……申し訳ございません、洋子殿。言い出すことが出来ずに……」
しかしおばあさんは笑顔で答えた。
「いいのよ猫ちゃん。もう長い付き合いなんですもの。少しだけ察していたわよ。うふふ」
「洋子殿……」
「今日は疲れちゃったから寝るけれども、明日は一緒にメービーレーンへ行きましょうね。猫ちゃんには長生きしてもらわなくちゃ」
「……」
黒猫は何も言えずに申し訳無さそうにしていると、おばあさんは黒猫を抱きかかえて優しく言った。
「ありがとうね、猫ちゃん。わたしが病気で居なかった間、心配してくれていたでしょう。明日は少しでも恩返しさせてね」
クルルルルル……
おばあさんは何度も黒猫の頭を撫でると、黒猫は目をつむり、喉を鳴らした。
ー 翌日の早朝 ー
黒猫はピンデチの最初のスマイル道具店の前で体を丸くしておばあさんを待っていた。
すると黒猫は、遠くからやってくる羽音に気づいて顔をあげた。
バサッ バサッ バサッ……
黒猫が空を見上げると、ドラゴンの魔法使いのドラちゃんに乗ったおばあさんが空から手を振っていた。
「洋子殿」
黒猫はドラちゃんが降りてゆくピンデチの町の入口へと急いだ。
◆
ドラちゃんはゆっくりとピンデチの入口前に舞い降りると、羽を伸ばしておばあさんを降ろした。
黒猫はドラちゃんに追いつくと、ドラちゃんは首に煌めく数々の勲章を輝かせながら、嬉しそうに黒猫に挨拶した。
「猫さん、お久しぶり!」
黒猫も少しだけ嬉しそうに表情を緩ませると、ドラゴンに言った。
「どのくらいぶりだろうかドラゴン殿。また勲章が増えたようだ」
「あーっはっはっは! よくお気づきで! わたしは洋子様のご意向で治安部隊に参加して以来、多大なる功績を何度も! そう、何度もあげているのです!」
ドラゴンはドヤ顔で黒猫に言うと、おばあさんが嗜めるように言った。
「ドラちゃん、自慢はいけませんよ。、前にも言ったでしょう?」
「あ、は、はい! すみません、洋子様……」
ドラちゃんは少し頭を下げて反省すると、おばあさんは表情を崩して笑顔なった。




