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第97話 黒猫、嬉しくなる

 まばゆい光に包まれた黒猫の頭の中には、主人であった洋子と過ごした日々が走馬灯のように映し出された。


 柔らかく撫でてもらった記憶。


 共にモンスターと戦った記憶。


 美味しいお菓子を一緒に食べた記憶。


 そして、優しく叱(しか)ってくれた記憶。


 黒猫は主人の洋子の事を愛おしく思いながらどこかへ墜落(ついらく)していく感覚を感じていた。


 黒猫は落ちてゆく感覚の中、思わず言葉を漏らした。


「洋子殿……」


 黒猫がそう言った瞬間、ガラスが割れるような音が響き渡り、黒猫の視界は一気に暗くなった。


 そしてそのまま暗闇の中を墜落してゆくと、その先に光る町並みを見つけた。


「あれは……」


 黒猫はそう呟くと、両手を広げて空中で静止した。


「……。空中で静止できる……。我の魔法が使える……」


 黒猫は地上の光る町並みを凝視しながらつぶやいた。


「あれはシャームの町……」


 黒猫はゆっくりとシャームの町に降りると、急いで主人の洋子との思い出が残る「スマイル道具店2号店」へと向かいながら呟いた。


「ここは間違いなくシャーム。洋子殿と過ごした町……」


 黒猫は素早く黒猫の姿に変化(へんげ)し、篝火(かがりび)が灯された夜のシャームの町を走りだした。


 ー シャームのスマイル道具店2号店 ー


 黒猫は、主人の洋子と共に過ごしたスマイル道具店2号店に辿り着いたが、店はシャッターが閉まっていた。


 黒猫は店の前でシャッターを見上ると、ゆっくりと腰を下ろし、猫の姿のまま店の前で丸くなりながらつぶやいた。


「洋子殿に会えるかは分からぬが、思い出の場所で洋子殿を想いながら待つ事も幸せ」


 黒猫はそう言うと、目を細めて静かに洋子を待った。


 ー 翌朝 ー


 眠っていた黒猫は、優しく温かい声で目が覚めた。


「猫ちゃん。……あら、まだ寝ているのかしら」


 黒猫はその声に目を覚ますと、なんとおばあさんがしゃがんで黒猫の頭を撫でていた。


「洋子殿!」


 黒猫は慌ててスッと体を起こすと、おばあさんは満面の笑顔で黒猫を抱き上げた。


「まぁ、猫ちゃん! 会いたかったわ!」


 黒猫は笑顔のおばあさんに震えるほどの喜びを感じながら答えた。


「洋子殿、お久しぶりでございます。またお会いできたこと、誠に嬉しく存じます」


「まぁまぁ。相変わらず猫ちゃんね。うふふ。また会えて嬉しいわ」


 おばあさんは黒猫を優しく撫でると、黒猫も目を細めて幸せを感じた。


 しかし黒猫は我に返り、思っていた事をおばあさんに尋ねた。


「洋子殿……。我は洋子殿が重い病(やまい)に伏(ふ)せているとお聞きしました。お体は大丈夫なのでしょうか」


 するとおばあさんはいつもの笑顔で答えた。


「まぁまぁ、猫ちゃん。心配してくれていたのね。私なら大丈夫よ。でも、病気のせいで長い時間はこの世界に居られないの」


「そうでありましたか。では、本日はお体の調子が良いのですね。嬉しい限りです」


「ええ、今日はびっくりするくらい元気で、うふふ。……あ、そうそう。今日はピンデチのお店にも行こうと思っていてね。猫ちゃん、付いてきてくれないかしら」


 それを聞いた黒猫は嬉しそうに即答した。


「喜んで!」


 こうして黒猫とおばあさんはピンデチの町へと向かった。


 ー ピンデチの町 ー


 おばあさんと黒猫はピンデチへとやって来ると、倉庫として使っていたスマイル道具店の最初の店へと向かった。


 すると後ろから突然、懐かしい声が聞こえてきた。


「え!? 洋子ちゃん!?」

「洋子ちゃん!」

「ぁ、洋子ちゃん」


 黒猫とおばあさんが振り返ると、そこにはマユとメイとナミがいた。


「まぁまぁ、お久しぶりね!」


「マユ殿、メイ殿、ナミ殿……、みなさま子育てにお忙しいとお伺いしておりましたが……」


 黒猫が驚いていると、メイが笑顔で答えた。


「ウチのコは小学校あがったし、マユん家(ち)の兄弟も、ナミん家(ち)の娘(こ)も保育園入ってさ」


 マユとナミも笑顔で言った。


「たまにはお休み合わせて、子供が学校に行っている間に一緒にログインしようかって話してて」


「で、来た。でも、それより洋子ちゃんがぃて、ぉどろぃた」


 それを聞いたおばあさんは嬉しそうにマユたちに言った。


「本当にタイミングが良かったわ! 今日はわたしも体調が良くて来ていたのよ。ね、猫ちゃん?」


「はい。これも偏(ひとえ)に洋子殿の日頃の行いの賜物(たまもの)かと」


「うふふふ、猫ちゃんは相変わらずねぇ。わたしなんか大したことしてないわよ」


 すると、それを聞いていたメイがおばあさんと黒猫に言った。


「やっぱ猫ちゃんの日本語って相変わらず難しいね。ってか、洋子ちゃん、ごぶ……、えっと、ごぶ……」


 メイは上を向きながら考え込むと、ナミがメイに助け舟を出した。


「ごぶさた。でしょ」


「あ、そうそう! ご無沙汰! 洋子ちゃん、ご無沙汰!」


 おばあさんはメイに言葉に笑顔になると、優しく答えた。


「はい、ご無沙汰しておりました。うふふ」


 その時、ナミは少しだけ神妙(しんみょう)な声色でおばあさんに尋ねた。


「洋子ちゃん病気が大変って聞ぃた。でも、ログインしてるなら元気になった?」


「ええ、お陰様で。長い時間でなければゲームできそうだわ。うふふ」


「よかった。なら元気になってきてる」


 ナミとおばあさんの会話を聞いていた黒猫は心から嬉しい気持ちになった。


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